表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダーク・サラン  作者: GDB
2/3

第二夜 石井豪

どれくらい走っていただろうか。もう撒けたようだ。私はやっと走るのをやめ、その場にあった木の幹に座り込んだ。逃げていた時は必死すぎて感じていなかったが、全身斬られた箇所が痛み始めた。極めつけは失った小指の箇所…。


(うぅ、痛い…。この痛みって、まさか夢じゃなくて…現実…?)


私は気づき始めてしまった。これはまぎれもない現実であるということを。そうなってしまうと途端に泣きたくなってきた。寝ていたはずなのにいきなり変な場所に連れてこられ、親切にしてもらえたかと思っていたら命を狙われて、そして傷だらけになって…。また心細さや不安感があふれ出してきた。まずはこの森から出なければならない。そして街に行って助けを呼ぼう。警察にあいつらを逮捕してもらおう。


「よしっ!」


大丈夫。なんとかなる。私は自分を奮起させた。不安などが払拭されたと言えば嘘になるが、もはやクヨクヨしていても意味がない。とりあえず、服を少しちぎって小指の箇所に巻いてみた。そして少し休憩して私はまた足を進めた。


しばらく歩くと大きな洞穴があった。私は自分が先ほどまで睡眠中であったことを思い出した。そうなると睡魔が突然襲い掛かってくる。睡魔により頭が回転しなくなってきた私には「洞穴の中は怖い」という発想はなく、「洞穴の中なら寝られそう」という発想しかなかった。つまりは躊躇なく洞穴へと入っていったということである。


洞穴の中は意外と快適だった。地面は平だし、気温も適温であった。おまけに特に生物もいなさそうである。入口から少し歩いたところで寝ることにした。


そこではぐっすりと寝ることができた。地面は固かったので、もちろん快眠とはいかないものの、しっかりと長時間睡眠していたようで良い目覚めを感じていた。


(あぁ…でもやっぱり現実なんだ…。小指もまだ痛いなぁ)


一晩寝ればまたいつもの日常が戻るのではないか、そう思っていた自分もいた。だがやはり起きても光景は同じだった。というか本当に同じであった。まだ夜みたいなのである。私が寝ていた地点はさほど入口から離れてはいないので、太陽がでていれば日が差し込んでくるはずであったのに暗いままだった。


(まだ夜?…そんなに寝られてなかったのかな)


まだ夜なら仕方がない。と私が二度寝をしようとしたその時、


「誰だ!!?」


奥から叫び声が聞こえた。びくっとして奥の方を目を凝らして見てみると、人影らしきものが近づいてきた。その影はみるみるうちに距離を詰め、ついには私の腕を掴んできた。


「きゃあっ!」


思わず声を上げてしまった。その瞬間、ぱっと手が離れた。


「人間…?すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。」


優しい声が聞こえてきた。影の正体は男の人だった。暗かったが、目が慣れていてよく見えた。その男性は私より少し年齢は上な感じだった。しかし、そんなことよりも


(めっちゃイケメン!!)


いつもの癖で思わず声に上げそうになるのを必死にこらえた。こんな出会いがあったなんて!私はこんな状況にもかかわらず心が弾んだ。私は単純なのである。


「そうか…君も来てしまったんだね。僕の名前は石井豪。君は?」


その男の人は哀しそうに言った。


「私は春川莉緒。来てしまったって?それに今『人間?』って言ったのって?ねぇ、さっきまで寝てたはずなのにいきなりこんなとこにいたの。意味がわらないの。ここはどこなの?」


私は疑問に思ったことを全部ぶつけていた。何かこの人が知っているかもしれない。そんな雰囲気をもっていた。そしてその予想は当たっていた。


「まずこの世界は僕たちが住んでいる世界とは違うんだよ。」


「え…?…なに言っているの?」


私は彼が言っていることが理解できなかった。私たちの住んでいる世界じゃない?じゃあ何の世界なの?


「ここに来る前に変なおばあさんに会っているだろ?そのおばあさんに俺たちはこの世界へ連れてこられたんだよ。」


「あなたも会ったのね…。というかここはなんの世界なの!?」


「…わからない。人間の世界ではないってことだけしかわからないんだ。」


私はさっき私を襲ってきた小さなヒト型の生物を思い出した。人間の世界ではない…。確かにそうなのかもしれない。


「さっき、小さな『ヒト』みたいなものに襲われたんだけど。あれは人間ではないの…?」


「あぁ。あれは人間ではない。俺はあいつらを『リバーシ・ピープル』と呼んでいる。彼らは俺らの言葉をひっくり返して話すんだ。あいつらは何でも食べる。特に肉が大好物。…ん?というかひどい傷だね⁉まさかあいつらにやられたの?」


(今頃気づいたのかこの人…。まぁ私も忘れてたけど。)


「そう。寝てるところを襲われちゃって…。すぐに起きたけど。」


「あいつらの狩りの基本は睡眠だからね。獲物が寝てからやるんだ。もしかして何か食べさせられなかったかい?」


私はドキッとした。


「ごはん食べさせてもらった…。でもお母さんに晩御飯たくさん食べさせられたからあんまり食べられなかった。」


「お母さんに感謝だね。おそらく狩りで使う睡眠薬がご飯に盛られていたんだろうね。全部食べてたら起きられずにそのまま殺されてたよ。」


とりあえず母に感謝…。


「でも、なんでそんなこと知ってるの?」


私は当たり前の疑問を口にした。


「ずっと彼らについて研究してたんだ。」


「研究って言ったって…短期間でそんなことわかるものなの?」


「いや、短期間ではないよ。もうかれこれ5年くらい研究してるんだ。」


「…!?」


衝撃だった。つまりこの人は少なくとも5年間ずっとここで暮らしているということなのだ。私は頭が真っ白になった。私もずっとこのままここで暮らしていかなければいけないのか。もう私が住んでいた世界には戻れないのか。


「5年って…。元の世界に戻れないの?」


「あぁ…。戻り方が全くわからない。」


嫌!こんなところで一生暮らしていくなんて!このイケメンと一緒に暮らしていくのはちょっとありかもだけど、ここで暮らすのは嫌!


「あの、一緒に戻り方を探してみませんか!?」


「えっ…5年間も戻り方が見つからないんだ。探そうって言ったって、そんなこと…」


「あなたはずっと5年間ここら辺にいたんじゃないの?違う場所に行っていろいろ冒険してみて色々探してみれば帰り方が見つかるかもしれないじゃん!」


「確かに俺はこの地を離れたことがない。しかし、危険すぎる。何がいるかわからないじゃないか。この洞穴が一番安全なんだ。リバーシ・ピープルもここまでは追ってこないし…。食べ物だって豊富にある。木の実だったり、川まで行けば魚もいる。こんな良い環境、この世界にここだけだと俺は思う。」


「だったらここにずっといろって言うの!?私そんなの絶対いやだよ!」


「とにかく俺はここを離れない。」


「分かったよ!もう私一人で行くから。朝になったらすぐここを出ていくから。」


「いや、それは無理だ」


私はかっとなった。


「無理って何⁉なにも行動を起こさずここでただずっと過ごしている人に無理なんて言われたくないんだけど‼」


私の怒りに彼は少し動揺した。


「違うんだ。その…。無理っていうのはそういうことじゃなくて…。この世界に朝は来ない。ずっと夜なんだ。」


「え…。あっごめんなさい。そうだったとは知らずに…。私が行くのが無理って言われたのかと思って…。」


私は勘違いで怒ってしまったので恥ずかしかった。ひどいことを言ってしまったにもかかわらず彼は優しく許してくれた。


「いいんだ。でも朝はこないけど、どうするの?もう行くのかい?」


「朝はこないってずっと夜ってことなの?」


「うん。正確には、この世界には太陽は存在しない。だからずっと暗いままなんだ。」


「そうなんだ…。じゃあもう行こうかな。思い立ったが吉日だしね。」



という形で私はすぐに出発した。とりあえず出発してみたものの、あてはない。森の中をてくてく歩く。だんだん心細くなってきて、あの洞窟に戻りたくなっていたのは内緒である。息巻いて出てきたのにおめおめと帰ってたまるか、という意地だけで進んでいた。


しばらく歩くと森を抜けることができた。膝くらいの草が生い茂る見渡す限りの草原。明るかったら景色綺麗なんだろうなとのんきなことを考えていた。しかし森とは違い月明かりが届き、いくらか明るかった。


とりあえず私には進むという選択肢以外はなかった。草原を抜けたら何があるのだろう、少しわくわくしていたのは否めなかった。


「あーーーーーーー!!」


ここまで来たところで私はとんでもないことを思い出した。ここに来た時とは何か違う感覚を感じた。そう、この世界に来た時に背負っていたバッグがないのである。


(どこに置いてきちゃったんだっけ…。洞穴かな…?とりあえず戻るしかないか…)


しぶしぶ来た道を戻ることにした。



洞口に着くと当たり前だが石井豪がいた。おめおめと戻ってきた私を彼は茶化すことなく受け入れてくれた。良い人である。しかしバッグはどこにも見当たらない。


「あっっ」


その時私は思い出した。リバーシ・ピープルのところでご飯を食べるときバッグを下ろしていたのだ。(1話参照)そうするとあそこにあることになる。また行かなければいけないのか。


「やっぱバッグもういいかな…」


私はこだわりがないのである。危険なので仕方がない。あのバッグはもう捨てるしかない。


「でも、もしかしたらあのバッグに何か良いものが入っているかもよ。」


彼は笑顔で言った。


「いいもの??」


「あぁ。例えば食べ物とか飲み物とか…」


一呼吸置いて先ほどの笑顔は消え、真剣な顔で彼は付け足した。



「はたまた、この世界から出るヒント…とかね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ