表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/80

魔女シュネーケの悪巧み

三人称

今回から、一日一更新になります

 ボンボン王国はきらびやかな国。

 いつも人々は、笑い、歌い、永久の平和を謳歌している。


 魔王グレイゴーアが世界を征服しようとしていた時も、ボンボン王国は無事だった。

 国が放つ輝きが、魔族や魔物の類を寄せ付けなかったからだ。


 だが。

 ボンボン王国現国王が、若くして亡くなった先代后の後に、新たな后を迎え入れた時。

 王国の平和は終わりを告げたのだった。





「なんということ! なんということなの!」


 豪奢なドレスを着た、真っ白な化粧の女性が甲高く叫びながら、廊下を歩いていく。


「妾が遣わした兵士共は、なにをやっているの! あんな小娘一人を捕らえるのに、小娘一人を殺して持ってくるのに、どうして一晩経ってもなんの音沙汰もない!」


 奮然と、大きな扉の前に立つ。

 バーン、と扉を蹴り開けると、そこには天蓋付きの大きなベッド。

 ベッドの脇には、石の彫像になったボンボン王国の国王が、カッと目を見開いたまま立ち尽くしていた。


「鏡! 鏡の悪魔よ! 遠く遠くを見通しなさい! あれはどこ? あの忌まわしい姫はどこ? 王国の光を一身に宿した、ショコラーデ・ボンボンはどこにいるの!?」


『これはこれは魔女シュネーケ。ご機嫌麗しゅう』


「麗しくなんかないわよ! 早くおし! ご機嫌取りの言葉なんかいらないわ!」


『はいはい。ヒステリーで割られてしまっては敵わない。ま、光の鏡を封じているみどもを割るほど愚かとは思いませんがね』


 ケヒヒヒヒ、と笑いを漏らしながら、鏡の悪魔は鏡の中に、彼女が望む像を映し出す。

 それは、王国から少し離れた森の中。

 見すぼらしい衣服をまとって、それでも城にいた頃と変わらない輝きを放つ、天真爛漫な姫君の姿。


 彼女は大きなニンジンを手にして、眼の前にいるウサギの肩を叩く。

 あれはなにか。

 騎士として叙勲している?

 真っ白なウサギを、騎士に?


「案の定、生きているじゃないの! あのカボチャども、何をしているの! 聞こえてくるのは、カボチャどもの悪口だけ! ええい、教育が悪いのじゃないの!?」


 奮然と吠える彼女は、ピンと背筋を伸ばすと腕を一振りした。

 すると、豪奢なドレスが、禍々しい漆黒のドレスに変わる。頭には、悪魔を模した冠。

 白い肌はより青白く。唇は血のように赤く。

 彼女は魔女シュネーケ。

 輝ける国、ボンボン王国を闇に閉ざした張本人。


「ベジマイ! サルミック!」


 彼女は扉に向かって叫んだ。

 すると、二つの人影が現れる。


「ははーっ、お呼びでしょうかお后様」


 一つはずんぐりした人影。

 小狡そうな顔つきに、威厳をつけるために生やしているカールした口髭。

 灰色の肌はとても人間のものとは思えず、その凶相に露骨な愛想笑いを浮かべている。

 大臣ベジマイ。


「はっ、お呼びでしょうかお后様」


 もう一つはシュッとした人影。

 背が高く、扉に頭がつっかえそう。

 体格も良く、堂々たる美丈夫だが、彼が口を開く度に吐息が炎になって辺りに舞い散る。

 騎士団長サルミック。


 共に、魔女シュネーケが頼む恐るべき手下である。


「お前たち! あの王女、ショコラーデ・ボンボンは生きているわ! 妾が追手を差し向けたのにも関わらず、どうやってか追手を振り切って!」


「そ、それはそれは。なんともしぶといことで」


 ベジマイが懐からハンカチを取り出し、汗を拭く仕草をした。


「パンプキンソルジャーズは、ああ見えて魔法を宿した武器でなければ殺せない、魔界の兵士です。王女が魔法の武器を持っていたとは思えません」


「サルミック。あの小娘が、カボチャ共を殺したと思っているのかい?」


「戻ってこないということは、パンプキンは皆やられたのでしょう。つまり、王女ではなく、王女を守る何者かが現れたということでしょう」


 サルミックの目が、ギラギラと輝く。

 瞳から、比喩ではなく炎が漏れてきている。


「何者かとは、何者ぞ!?」


 シュネーケは怒り任せに、床を踏みつけた。

 何者か、では何も分からないではないか。


「鏡の悪魔!」


『これはこれは魔女シュネーケ。ご機嫌麗しゅう』


「麗しくなどないわ! 鏡の悪魔よ、王女を守る者は誰ぞ! この魔女シュネーケを敵に回す、愚か者の姿を映し出すがいいわ!」


『おやおや、異なことを仰る。それは既に、鏡の中に映されているではありませんか』


「鏡の……中に……?」


 シュネーケは目を細めて、鏡の中を見つめた。

 そこには、あの忌まわしい、輝く笑顔を浮かべながら焼き魚を食べるショコラーデ姫と……もりもりセロリを食べるウサギの姿。


「まさか、このウサギが……?」


 その時である。

 ウサギが顔を上げた。

 魔女シュネーケは、確かにこの瞬間、鏡越しにウサギと目が合ったと感じた。

 背筋がぞくりとする。


「まずいわ! 鏡の悪魔よ、即座にこの光景をやめ……」


 シュネーケの言葉は遅かった。


『むおおおっ!?』


 鏡の悪魔は一声叫ぶと、その腹に宿した鏡を砕け散らせた。

 鏡を破って、オレンジ色の何かが突き出す。


「ニッ」


「ニニニ」


「ニンジン!?」


 サルミックが、ベジマイが、シュネーケが目を見開き叫ぶ。

 すぐに、ニンジンは消え失せた。

 だが、鏡の悪魔は鏡を割られ。白目を剥いているではないか。


「あれぞ。あのウサギが、姫を庇護する者……!! 狩れ!! お前たち、あのウサギを狩るのだ!!」


 魔女の命令が、闇に包まれたボンボン王国に響き渡ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ