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2・姫の初めての釣果

 朝ごはんのニンジンサンドイッチと、薬草茶を口にしたわたくしは準備万端。

 ぽちゃり、釣り糸を水面に垂らします。

 突き出したの岩の上で、ピョンスロット様と背中合わせ。

 そよそよと風が耳元を流れていきます。


「まったりですねえ」


「つりとは、待つものなのです。教えるといいながら、私はつりはあまりとくいではないのですが」


「あら」


 ピョンスロット様にも、苦手なものがあったのですね。

 わたくし、こんな気持ちのいい風に当たれるなら、いつまでだって待ててしまいます。

 ウサギさんもそうではないのでしょうか。


「私はあまりきもちがいいと、おひるねしてしまうのですよ」


「あっ、分かります! わたくしも、何もしないでいると、こう、うつらうつらと……」


 その時です。

 わたくしの垂らした釣り糸を引っ張るものがありました。


「あら」


 つんつんと引っ張ります。


「あらあらあら」


 わたくし、びっくりです。


「ピョンスロット様。ピョンスロット様」


「なんでしょうか。おや、糸を引いておりますな」


 ピョンスロット様が、ご自分の釣り竿を岩の隙間に挟み、わたくしの横から回り込んで来られました。

 そして、すぽっとわたくしの膝の上に収まります。


「びりょくながら、手をおかししましょう。さあ、引っぱるのです」


「はいっ、えーいっ」


 わたくし、普段はあまり重いものを持たずに暮らしているので、竿を引っ張った時にびっくりしました。すごい重さです。

 お魚さんが、強い力で竿を引っ張っているのでしょうか。


「力ずくではいけません。かれらのこきゅうに合わせましょう。えらこきゅうと言えど、タイミングが来ます。いち、にの……さん!」


 その瞬間です。

 ピョンスロット様が可愛らしいもふもふおててを釣り竿にあてがったら、嘘のように釣り竿が軽くなりました。

 水面から、とっても大きなお魚が舞い上がります。

 青と黄色と緑が混じった鱗が、陽の光にキラキラと照り輝いてとっても綺麗です。


「おみごとです、ひめ」


 岩の上に落ちて、ピチピチするお魚を前に、ピョンスロット様が褒めて下さいました。

 彼は予備の釣り針を使って、お魚のエラのあたりをサクサクと突いています。

 あっ、お魚が動かなくなりました。


「いきじめというものです。魚のしんせんさをたもち、長くおいしく食べられるようにするわざです」


「そんなものがあるのですね……! でも、わたくしはぼーっと釣り糸を垂らしていただけで、何もしていませんのに」


「むしんのしょうりなのでしょう。私もまだまだ、ざつねんが多いようです」


 ははは、とピョンスロット様は、表情がよく分からないウサギさんの顔で笑いました。

 その後、わたくしは立て続けに四匹のお魚さんを釣り上げました。

 なんでしょう、次々とお魚さんがわたくしの釣り針に向かってくるような。


「じんとくでしょうな。さあ、肉をめしあがられるのはひめお一人。このくらいで良いでしょう」


 釣りが終わった頃合いには、もうお昼すぎでした。

 ピョンスロット様と一緒に、別の場所に移動します。

 ちょっとお腹が空いてきました。


「せっかくつった魚です。やきましょう」


 ピョンスロット様はそう仰られました。

 彼が背負った大きなニンジンを振り回すと、周囲の枯れ木がポキポキと砕けて舞い上がりました。

 これが次々と地面に降り立ち、なんと円陣を形作りました。


 ピョンスロット様は前歯を出すと、石をカリッと齧ります。

 そこから火花が散って、枯れ木の中心に落ちると火の手が上がります。


「ウサギになって、わがみが火口(ほくち)のかわりとなれるようになったことは、なかなかべんりです」


 火を燃え上がらせる元は、ピョンスロット様の抜け毛であったようです。

 でも、歯で齧っても火花は散らないような……?


「そこは、きしのわざです」


「技なのですか」


「さあひめ、レクチャーです。このくしを使って、魚にとおしてください」


「ぬるぬるします! それに、痛そうです」


「すでに魚は死んでいます。こうせねばやけませんし、人はほかのいのちをうばわねば生きてはいけぬものです。おのれのいのちをつなぐために、ほかのいのちをいただく。これは大切なことです」


「まあ……! 生きとし生けるもの、命をつなぐ責任というものがあるのですね……! 分かりました! ショコラは頑張ります! えいっ!!」


 わたくしは、うんとこしょ、どっこいしょと頑張り、なんとかお魚さんに串を通しました。

 これを、ごうごうと燃える焚き火の近くに差し込みます。


「出来ました! ピョンスロット様! ショコラはお魚さんを焼けましたわ!」


「すばらしい。一つ、ひめはかべをのりこえたのです」


 ウサギさんが、ぽふぽふと拍手をしてくださいました。

 あら?

 ピョンスロット様の後ろに、見慣れない箱が出来上がっているような。


「これは、くんせい用のはこです。のこった魚はくんせいにし、長もちするように加工するのです」


「燻製! こうやって箱の中で作るものだったのですね……。わたくし、ピョンスロット様と出会ってから、何もかもが驚きの連続です!」


「それは良いことです。これからひめは旅をなさいます。その中で、たくさんの未知にであうことでしょう。私が伝えることはその中の、ほんのわずかなことにすぎません」


 くるりと、ウサギさんはこちらを向きました。

 手にした大きなニンジンを、わたくしに差し出します。

 緑のヘタの部分がわたくしに向けられていました。


「それでは……やき上がるまでの間にやらねばならぬことがあります」


「やらねばならない事とは……!」


 わたくしは緊張しました。

 改まってピョンスロット様が仰る事とは、一体何なのでしょう。


「私を、あなたをまもるためのきしとして任じるのです」

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