1・新しい朝が来た
おはようございます!
わたくしは爽やかに目覚めました!
ここは、ピョンスロット様が作られたログハウスです。
わたくしは特製のベッドの上で、ほわほわとあくびをしました。
雀さんたちが窓際にやって来て、チュンチュンと歌を歌っています。
「ラララ~♪」
わたくしも歌いたくなって、一緒に歌っておりました。
「おはようございます、ひめ。ひめいが聞こえたと思いましたが虫でも出ましたか」
扉の下にある、ウサギ用ドアから、ピョンスロット様が登場です。
「まあピョンスロット様! 今朝も素敵な毛並みです! ええ、はい。楽しく歌っていました!」
わたくしがウキウキとして答えます。
そうしますと、ピョンスロット様は一瞬無言になりました。
「歌を歌いたくなるのは、良いことです。どうりでさわやかな歌声が」
どうしてピョンスロット様は目をそらしておいでなのでしょう?
「さくじつは、サラダメインのしょくじでしたからね。魚をつってこようと思います」
「まあ! ピョンスロット様は魚釣りもなさるのですね! ショコラもお魚さんを釣ってみたく思いますわ!」
素敵!
初めての魚釣りです。
わたくしは顔を洗い、髪の毛を整え、ピョンスロット様が用意してくださった質素な衣装に着替えると、鼻歌を歌いながら外に出ました。
爽やかな朝です!
釣り竿を持って、ピョンスロット様に川へと案内してもらいます。
ピョンスロット様は
ウサギなので、お魚は召し上がらないのだそうです。
つまりこれは、わたくしのために魚を釣るというわけで、特別に扱われている事が分かり、思わず頬が緩んでしまいます。
「ひめ。ひとばんたって、落ちつかれましたか?」
「あ、はい! わたくしは元気です!」
「そうですか。むりをなさらなくとも良いのですよ。すべてこのピョンスロットにおまかせ下さい」
ピョンスロット様のお答えに、わたくしすっかり参ってしまいました。
なんという、騎士道精神に満ち溢れたウサギさんなのでしょう。
昨今では、騎士道精神のカジュアル化が問題となっていると聞きます。
その中で、ピョンスロット様はとても、とても騎士らしい騎士……なウサギさんなのです。
わたくしの胸がキュンキュンします。
思わずピョンスロット様の後ろから近づき、もふもふお腹をさわさわすると、「むむむー」と唸り声が聞こえました。
「でも、ピョンスロット様? いいのでしょうか。わたくし、隣国に継母が魔女であることを伝えに行かなくてはいけないのに」
「そこは、むしろつりをせねばならない理由なのです」
真面目な声で、ピョンスロット様は答えました。
お顔はウサギさんなので、表情が変わったかどうか全然分かりません。
「さいきんでは、王国の外はとてもきけんになっています。今日見たような、カボチャのまぞくが歩きまわっているのですよ。ひめがお一人でこっきょうをぬけることは、むりでしょう」
「まあ!」
「それに、ひめはおべんとうも持たずに旅をするおつもりだったのですか。今日はさかなをつり、たびのためのおべんとうを作るのです」
「そうだったのですね! 釣りも、お弁当作りも初めてです! 素敵!」
わたくしはウキウキして来ました。
足取りは自然とスキップに。
鼻歌だって歌ってしまいます。
ここに侍従長のイングリドがいたら、目を三角にして、お行儀が悪いって怒るところです。
でもいません! だから私は自由なのです!
「ひめ、そのあたりは草がおいしげっているので、あぶない……」
「ひゃー」
ピョンスロット様が注意の言葉を言い終わるよりも早く、わたくしはすってーんと転んでしまいました。
お尻がとても痛いです。
ですけれど、こんな感覚はお城では決して味わうことが出来ません。
立ち上がろうと手を突くと、そこには青々と生い茂る草花。
見渡す限りに、お日さまの光を受けて生い茂る木々。
素敵な大自然です。
「ねえピョンスロット様」
「おしりはだいじょうぶですか、ひめ」
「はい、わたくしのお尻は元気です。あのですね、わたくし思うんです。ボンボン王国が大変なときに、わたくしはこんな素敵な森に囲まれて、楽しくなってしまっていていいのかしら、と」
「よいのです。民をみちびくものが、よろこびや心地よさをかんじていけない、という法はありません」
ピョンスロット様は、ぺたんと座り込んでいるわたくしに、その可愛らしい手を差し出しました。
「あなたが感じたよろこびや心地よさを、たいせつにしてあげて下さい。それはやがて、多くのくるしむたみをすくうかてとなるでしょう」
難しい事をおっしゃいました。
ですけれど、何だかすとんと心に落ちてくる言葉です。
ウサギさんは、可愛らしいけれど、ちゃんと騎士様なのでした。
わたくしは思わず、ピョンスロット様をむぎゅうっと抱きしめてしまいます。
彼は慌てたようですけれど、そのま抱っこして川に向かうのでした。
「これがつりざおです。つり方をお教えしましょう」
ピョンスロット様は、その体格に見合った可愛らしい釣り竿を持っています。
これから、わたくしの生まれて初めての釣りが始まるのです。
ワクワクです。
「つりばりは私が作ったものを使うと良いでしょう」
「これは、鉄で出来ているのですね?」
「ええ。すてられた剣をキャロンダイトでけずって作ったものです」
あのニンジンさんで剣を削ったのですか!
一体どういう原理なのでしょうか。
わたくし、とっても気になります。
「では、ほんかくてきにつりをして行きましょう」
あっ、とうとう始まってしまいました。
それでは、わたくし、釣りに挑んでみようと思います。




