2・ウサギにくびったけ
「さあヴィヴィアン、私をはなしてくれ。地面におりるぞ!」
「ホッホーウ?」
「おろしてって言ってるのだ」
「ホーウ」
ヴィヴィアンがパッと足を離すと、私はそのまま自由落下に移った。
短い手足をいっぱいに広げて風を受ける。
迎え撃つのは、カボチャに目鼻口をくり抜いた、人間とは思えない兵士だ。
「まぞくと言うわけか。いいだろう!」
私をウサギの串刺しにしようと、繰り出される槍。
これをキャロンダイトで打ち払った。
ポキポキと、まとめて槍がへし折れる。
『ニンジンで槍が折れた!』
『な、なんだあのニンジンは!』
驚愕に叫ぶカボチャの頭に私は着地した。
手にした聖剣でそれを叩くと、パカンと小気味良い音を立て、真っ二つに割れる。
「さあかかってこい、まぞくども! 私はここだぞ!」
『ええい、ウサギに挑発されるとは!!』
『やってしまえー!!』
振り回されてくる斧を、私はぴょーんと跳ねて躱した。
骨でできた馬の首を駆け上がると、その鼻先から別の馬へと飛び移る。
ウサギの体は軽く、しかも素晴らしい跳躍力を誇るのだ。
『こっちに来た!』
慌てて私に向かって剣を突き出したカボチャ頭を、真っ向から蹴りつける。
カボチャは兵士の身体からすっぽ抜け、森の中へと吹き飛んでいった。
『き、気をつけろ! こいつ、ただのウサギではない!!』
周りに向かって命令を飛ばす、一際豪華な鎧を着たカボチャ頭。
あれが魔族の頭目だろう。
だが、あれを倒す前に、まずは囚われの女性を救わねばならない。
『おい、ウサギ! ショコラーデ姫がどうなってもいいのか!』
「ひめだと!? 今おたすけしますぞ、ひめ!」
「ウサギさん!」
ショコラーデ姫は、金色の髪を結い上げた、なんだかふんわりした印象の可愛らしい少女だった。
明らかに、このような戦場に慣れていない出で立ちの彼女がこの場にいる。
これは異常事態に違いない。
「行け、キャロンダイト!」
私はカボチャ兵士の身体を足場にして跳躍すると、姫を拘束するカボチャめがけてニンジンを投擲した。
聖剣は、防ごうとした剣ごとカボチャ兵士を粉々にする。
「ひめ! ごぶじでしたか!」
私はショコラーデ姫めがけてぴょーんとジャンプした。
私をキャッチする姫。
「ああ、なんてふかふかもふもふなんでしょう! わたくしを助けに来てくださったのですね、ウサギの……」
「ピョンスロットです、ひめ。あちらにつきささったキャロンダイトを、かいしゅうして良いですかな?」
「ああ、わたくしとしたことが!」
姫は私を抱っこしたまま、キャロンダイトに駆け寄った。
地面に刺さったニンジンは、姫に抜かれるや否や、私の手の中に舞い戻る。
私は聖剣を構え、カボチャ兵士たちを睨みつけた。
「まだやるかね? もし、やる気ならば、こんどは手かげんできないぞ」
『くっ……! ショコラーデ姫に抱っこされながらカッコいい事を言うとは……!』
『隊長、既に半分以上やられています! あのウサギ、只者……いや、只ウサギではありません!!』
『ええい、退け、退けぇ! シュネーケ様に報告だ!』
「むっ、にげるつもりか!」
まだやるか、とは言ったが、シュネーケとか言う彼らの上がいるなら話は別だ。
魔族を治める、より上位の魔族がいるということになる。
「ヴィヴィアン!」
「ホッホーウ!」
白いフクロウが飛び込んできて、私を姫の腕からさらった。
今度は背中の毛皮をがっしり掴まれているので、頭も手足も自由なのだ。
高速で、骨の馬に追いつくヴィヴィアン。
キャロンダイトが唸りを上げる。
一人、また一人。
カボチャの兵士を打ち倒す。
『馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な! そのニンジンは! お前の身体は! どうして我々を倒すことが出来るのだ!!』
最後に残されたカボチャ兵士の隊長が叫んだ。
私は彼に向けて、必殺の一撃を放ちながら応えた。
「やさいがウサギにかてるものか!!」
決まる聖剣。
砕けるカボチャ。
『なる……ほどぉ……!!』
得心の呻きを上げながら、カボチャの隊長は倒れた。




