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第七:浄化と謎

 エイシャはトルーズとナジャフ、グラーフとともに石室内に聖水を振り撒いて浄化の儀式を準備していた。不死の魔物がこれ以上湧かないようにこの洞穴にある墓地すべてを清めようというのだ。

 当初カセリアは魔術を使って聖水をいったん宙に散らばせて固定し、雨のように一気に降り注ぐ手段を提案した。だがエイシャから「マナの力は奇跡に影響を与えますので」と言われ、結局手作業で時間をかけて振り撒いていくことになったのだ。そのためカセリアは聖水撒きに加われず石室の入り口で座り込んでいる。

 聖水を振り撒く手を休めずにエイシャはつぶやいた。

「あのシグリズは家族だったのかもしれませんね」

「大きいのが父さんと母さんで、小さいのが子どもたちってところか……」

 トルーズは急に手を止めとたんに後味の悪さを覚えた。いくら不死の魔物とはいえ、家族だったのなら互いの絆もあったのだろうか。

 その様子を見ていたカセリアは、

「気にすることはない。リッチにでもならない限り不死の魔物に記憶は残らんよ」

 と声をかけた。

 本当にそうなのだろうか。トルーズたちが石室に踏み込んだ際、向かってきたのは大きな二体だけだった。あれは子どもを守ろうとした行為ではないのか。

「まぁ信じる信じないは隊長が決めればいい。ただ、これから先『勇者隊』として数多くの魔物と戦わなければならんのだ。魔物の事情をいちいち詮索して躊躇したら隊長が死ぬ番になる。それだけは心しておくんだな」

 カセリアは彼なりに発破をかけた。

「帝国が大陸を席巻するほどの魔物を調達できた要因として、アンデッド・モンスターや野獣を現地調達していたからという噂もあります。ここにいた不死の魔物たちも元々この墓地に安置されていたものでしょう」

 ナジャフも懸命に聖水撒きを手伝っている。それにカセリアが答えた。

「そう思うと哀れだな」

「しっかりと天国へ送り出してあげましょう」

 五体のシグリズを墓地に埋葬しなおしたレフォアがエイシャに話しかけた。

「私にも手伝えることはありますか?」

 軍師に与えられた任務を終えて、六人に結束が生まれたようだ。トルーズはその様子を眺めて胸を撫で下ろした。自分の独断専行のせいで仲間を危険にさらしたことを反省することしきりだ。あれさえなければもっと楽に達成できたことだろう。

「それにしても恐ろしいのはあの軍師だな」

「え、どうしてですか?」

 トルーズを筆頭に皆がカセリアに向き直った。

「まず、この依頼がおかしい。どうやってここにシグリズがいることを掴んだんだ? 現場にきた俺たちでさえ、ここまでこなければわからなかったというのに」

「そういえば妙ですね。たしか王宮の宝物庫に『遠見の水晶玉』が置いてあったと思うが、あれは見たい場所を特定しなければ意味がないですし」

 ナジャフが答えた。

「『遠視』の魔法も同じようなものだ。最初からここが怪しいとにらんでいなければ、ここを『透視』しようと思いもせぬからな」

 実際にこの場に来なければここにシグリズがいることを確認できる手段がないのだ。しかも石室までくる間にスケルトンやグールの群れに襲われているはずなのである。。

 軍師はどうやってここの情報を得たのだろうか。付近には人里もないし、街道からは離れた場所にある洞穴なので、旅人や商人から情報を得るのも難しい。

「それに俺たちに与えられたマジックアイテムからしてもおかしなことだらけだ」

「この剣のどこがおかしいんだ?」

 トルーズは腰から下げていた剣を鞘から引き抜いた。

「渡されたときの言葉を覚えている者はいるか?」

 皆首を横に振る。

「あのときから疑問に思っていたのだ。『魔法を付与してある』『魔法がかけてある』『片方の刃には魔法を施し、もう一方は鋼の刃にしてある』ということを言っていた」

「それのどこがおかしいの?」

 レフォアには何がおかしいのかわからなかった。

 トルーズも不思議な顔をしている。

「まるで軍師様自身が作ったかのような話し方じゃなくって?」

 エイシャが助け舟を出してくれた。

 カセリアはいくつかの道具を取り出した。

「俺もこのようにいくつか作ったことはあるが、マジックアイテムを作るには膨大な魔力と長い時間が必要になる。軍師はその座に就いてから一カ月ほどだ。そんな短期間ではトルーズの剣一本作るだけで時間がなくなる。とても戦闘指揮などしている暇はない」

 レフォアは思いついたことを述べてみる。

「アイテムを作る専門の人を雇っていたということは?」

「それは無理だろう。とくにエイシャに渡されたマジックアイテムは、今の技術では作ることは不可能とされる類いのものだ。そもそもオリハルコン金という金属はこの世界には数えるほどしかない。しかもそれを加工する技術など人間界には存在しないからな」

 カセリアの言うとおり、オリハルコンは存在数がきわめて少ない。そのほとんどが各国の宮廷宝物庫に収められているはずだ。「神の金属」と称されるように、奇跡を願うとそれが叶うという言い伝えもある。その昔、一人の巫女が命と引き換えに神を降臨させたこともあると語り継がれてきた。

 金色に輝くオリハルコン金はあまりに強固なため加工する術がない。ダイヤモンドの十倍は固いとされている。

 ナジャフ、カセリア、レフォア、グラーフに渡された魔具もミスリルという魔鉱石を用いてある。鋼を遥かに凌ぐこの金属も、加工には多大な魔力を必要とした。

 さらに不思議なのはトルーズの魔剣だ。魔力が付与されていない刃はただの鋼なのに、魔力がかかっている刃はミスリル並みの強度を誇る。単に鉄を精錬しただけでこの強度を出すことは不可能だ。

「城に帰ったら軍師様に聞いてみることにして、今は浄化を済ませてしまいましょう」

 エイシャの言葉で皆が作業に戻る。

 そんな中、王城でささやかな事件が起きた。軍師が姿を消したのである。




短い間でしたが「連載投稿」の仕方を憶えられました。今は大腸内視鏡検査の影響で意識が朦朧としていますので、次作ご後日に回します。

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