第二:顔合わせ
王宮内に慣れていないトルーズは、壁にかかる絵画や立ち並ぶ彫刻へ目を奪われていた。そんな彼を急かすようにしながらナジャフが控え室へと道案内する。
さほど広くない部屋に入ると着席していた男女二名ずつ計四名が一様に立ち上がり礼をした。
若き賢者が右手を軽く挙げて答礼し皆を着席を促す。トルーズもそれにならって礼をしてから席に着く。
しばし沈黙が続いたあと、ナジャフが口を開いた。
「それでは、このたび新設された『勇者隊』の隊長を紹介いたそう」
ナジャフの目配せを受けた若者は慌てて起立する。
「えーっ、私が『勇者隊』一番隊隊長のトルーズです。これから――」
「ちょっといいかな?」
黒いローブをまとった青年がトルーズの言葉を遮った。
トルーズがナジャフのほうを見ると軽くうなずいたので、
「どうぞ」
と青年を促す。
「そちらは王国軍師直属の参謀であったナジャフ殿とお見受けいたすが、そなたは先の大戦でどの役職におられたのかな?」
「王国第七騎士団の先鋒に配属されておりました」
第七騎士団といえば、帝都攻略戦において王国軍の中軸として活躍した部隊である。その先鋒は激戦が繰り広げられたため、今日まで生き残っていたというだけでかなりの猛者か臆病者であると想像がつく。
眉間を人差しで軽く叩きながら青年はしばらく瞳を閉じた。
「ああ、そういえば」
指を離して目を開いた。何やら思い出したようだ。
「確か一人で深く突進しすぎだとかで騎士団長から怒られていなかったか?」
「ええ、たびたび……。よくご存知ですね」
そんな端々のことまで知っているとは、かなりの記憶力を有しているようだ。
「歳は?」
「二〇歳です」
「猪突も若さゆえか」
黒いローブの青年が発したこの言葉に、トルーズは違和感を覚えた。
「あなたも私とさほど変わらないように見えるのですが」
「私は見てのとおり一〇〇歳をとうに超えている」
どうしても青年は自分とたいして変わらない年齢に見える。
「ひいき目に見ても三〇は超えていないように見えるのですが」
「だろう――」
と青年はかるく笑ってみせたあと体勢を整えた。
「いや、品定めして悪かった。私のことはカセリアと呼んでほしい。魔術師は真の名を秘すもの。いらぬ詮索はしないでくれ。歳はよく覚えていないが一〇〇はゆうに超えているはずだ」
「魔術では右に出る者はいないというほどの天才魔導士です」
カセリアと名乗った青年は賢者ナジャフの「天才」という言葉に敏感に反応した。
「天才ではないな。一〇〇年も魔術の研究だけをしていれば誰でもこのくらいにはなれる」
まるで聞き分けのよい子どもにわからせるような口ぶりで語りかけてくる。
「彼が得意なのは『隕石落とし』とエナジー系の魔法です。いかな魔物の群れとてひとたまりもありません」
「本当に一〇〇歳を過ぎておられるのですね」
トルーズの率直な感想だった。
「飲み込みが早いな。いいことだ」
カセリアは他の三人に目配せして自己紹介を促す。
まずカセリアの隣りに座っている神官服を着た女性が立ち上がった。