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金銀百鬼夜行  作者: 釜田 葎
第壱章
2/2

出会い

「おはよう、金丸君!」

「おはようございます、金丸先輩!」

 黄色い挨拶の中を、一メートル八十センチの長身が通り抜けていく。

 言うまでもあるまい。金丸舎人である。

「相変わらず人気者だなあ、舎人」

 同じく百八十センチ近い男子生徒が、金丸の脇腹を肘で小突いた。

「うるさいだけだろ、こんなの」

 小さな唇を最小限に動かし、彼は答える。

「はっはあー。おれのようなヤツが聞いたら軽い暴動が起きそうな発言ですねえ」

「起きねえよ。というかお前はまずそもそもこういう発言を『する』立場だろ__八多」

「そうかねえ」

 八多と呼ばれた少年は、にこにこと微笑みながら首をこきこきと左右に動かした。

 特徴をとらえにくい、凡庸な顔立ち。悪くはないが、あまり良いわけでもない。どこにでも溶け込める、特徴のない顔。敢えて評価するなら、それこそ中の中といったところだろう。

 のほほんとした顔の中で唯一力を持つ、その細い目を金丸に向けて彼は言った。

「お前、そのうち女に刺されるぞ」

「それ言い過ぎ」

 ふ、と口の端だけでニヒルに笑う。どれだけ女子が騒ごうとも笑顔一つ見せないくせに。

「おはようっ」

「おはようございますぅ!」

 中学部三年の階なのに、ちらほら紺色のネクタイを締めた一年生や、深緑色のネクタイをした二年生の姿が見受けられる。また、さらによく見ると、スカートがチェックになっている女子生徒もいる。高校生だ。

「毎朝、ちょっとしたお祭りだよな」

 すれ違った教師も苦笑いするしかない。

「じゃー、またなあ」

 三年A組とB組の前で別れる。そこまで成績が良いわけではない風見鶏は、選抜クラスであるA組ではないのだ。

「金丸君、今日の放課後…」

「八多、今日一緒帰る」

「おーよ。…いつもだけどな!」

 女子がお茶に誘う暇さえ与えない。

 見た目は天使さながらであるのに、心の中は冷たく凍ってしまっているのだろうか。

 女子たちの、「そんなクールなところも素敵ーっ!」の声を背に、金丸はA組の教室のドアを閉めた。

 チャイムが鳴った。

「はいじゃホームルーム始めます。会長、号令」

「きりーつ」

 クラス会長の欅野木末(こずえ)の号令で、クラスメイト三十人が一斉に立ち上がる。

「れい」

「はよございまあす」

 おざなりに頭を下げ、着席の号令がかかるより先に椅子を引く。

「はいおはよーう。出席とります」

 担任の女性教師、御手洗(みたらい)(ささめ)の言葉を半分以上聞き流し、金丸はすぐ横の窓から外を眺めた。

「朧さん」

「はい」

「金丸君」

「…」

「金丸君?」

「…あ、はい」

 返事をした瞬間、女子だけの黄色いざわめきが上がった。噂によると、三年A組の女子生徒は、無口な彼が毎朝確実に口を開くこの瞬間を楽しみにしているそうだ。

 担任も少し満足げな顔で出席確認を続行。

「はい、…えーっと、斉加年(まさかね)君以外全員出席ね。二年生で変な風邪が流行ってるから気をつけてね~」

 二十代後半、まだ溌剌としている彼女は音を立てて出席簿を閉じる。

「以上!」

「相変わらず話短いなぁみっちゃん~」

「だらだら長いよりいいでしょ」

 ちゃかすように飛んできた声をぴしゃりとはねのけ、御手洗先生は欅野の方を向いた。

「会長、号令」

「きをつけ、礼」

「まだチャイム鳴ってないから廊下出ないでねー」

 金丸は机の上で腕を組み、その上に顔を伏せた。必殺・寝たふり。これをしなければ、たかだか十分の休憩でも彼にとっては苦痛の十分間となってしまうのだ。

「ねえ、金丸君!」

「金丸君、社会のプリントのことでちょっと…」

「今日の昼休みさあ、金丸君」

「金丸君?」

「金丸くぅん」

 寝たふりをしていても容赦なし。黄色く、甲高い声が次から次へと耳に飛び込んでくる。

 もぞもぞと動き、顔を窓側に向ける。少しだけ開いた窓から、四月の柔らかな風がゆるりと吹き込んできた。


 数学、国語、体育、社会とげんなりするような四時間が終わった後は、昼休憩だ。金丸からしてみれば、別名「受難の昼休憩」である。

「舎人ー、弁当食おー」

 唯一金丸を名前で呼び捨てにできる生徒がA組にやって来た。勿論、風見鶏だ。

「今日さあ、英語課題終わんなくて怒られちったんだわー」

 金丸の前の席の椅子を勝手にひっくり返し、そこで弁当をぱくつきながら風見鶏は一人で話し続ける。金丸が聞いていないわけではない。彼は聞いていてもあまり返答をすることがないのだ。

「それから五時間目のスーガクも課題出ててさー。今日締め切り」

「終わってないのか」

「そう。まじやばい」

 そうは見えないほど笑みで満たされた親友の顔を見て、金丸はため息をつく。

「写させてやるよ」

「まじで!?ありがとー、優しいなあ」

 それを聞いたクラスの女子たちの耳がぴくんと動く。

「金丸君、あたしもその数学の課題やるの忘れちゃったんだけどぉ」

「もし良かったら、写させてくれる?」

 たちまち人垣となった女子を見上げ、金丸は目をゆっくりと瞬かせた。

「けー。相変わらず」

 唐揚げを頬張りながら、風見鶏はにやにや笑いを顔に貼りつける。

「なあ、八多」

 金丸は机の中から一枚の紙を取り出し、風見鶏に突きつけた。その勢いに彼は思わず仰け反る。

「ここに三年A組の時間割があるんだ。さて質問。水曜日の時間割はどうなっている?」

「水曜日。…数、国、体、社、理、総…だね。で、それが?」

 時間割を読み上げる大声を聞き、金丸を取り囲んでいた女子は、気まずそうに顔を見合わせて席に戻っていった。

「別に」

 風見鶏の手からプリントを奪い返し、金丸はほうれん草に箸をつける。

 むっとした顔をした風見鶏はしばらく口をもぐもぐと動かした後、金丸の弁当箱から卵焼きを掻っ攫った。

「あ…」

「もーらいーっ」

「…」

 悲哀を含んだ視線で金丸は彼を見つめる。

「…」

「…」

 しばらく、二人は無言で睨み合う。

 きっかり五分経ったとき、諦めたように風見鶏がため息をついた。

「悪かったよ。ほら」

 箸の上部で自分の卵焼きを掴み、金丸の弁当箱に移す。

 それを見た金丸は、にやっと悪い顔で笑った。

「あ、この野郎…」

 悔しそうに口元を歪めるも、すぐに風見鶏も笑い出した。

 その様子を、数人の女子が遠巻きに眺めていた。


 続く五、六校時はほとんどが睡魔との戦いである。だが、いくら睡魔の誘惑に負けようとも金丸の成績が落ちることは滅多にない。故に、中学三年間A組でいられたのだ。

 それはさておき。

 昼休憩と多少被るところはあるが、放課後もまた金丸にとっては「受難」である。三年生の階から昇降口に下りるまでの間に、学年も実に様々な女生徒が彼をお茶だか何だかに誘うべく待ち構えているからだ。部活動があるのに、熱心なことである。

 ちなみにまだ中三の四月の半ばなので、部活動を引退している生徒はいない。けれど、そもそも金丸は部活に所属していない。それは風見鶏もまたしかりだ。

「数学ありがとなぁ〜。お陰で怒られずにすんだよ」

「それは何より」

 欅野中の最寄り駅、橙ヶ丘駅から快速で三駅のターミナル駅、蟠山駅からの帰り道。金丸と風見鶏は二人連れ立って駄弁りながら歩いていた。

「今日あれあるんだよなー、六チャンネルでやってる連続ドラマ。面白いよー」

「そうか。サスペンス系?ミステリー系?」

「恋愛系」

 風見鶏は一回、乾いた咳をした。

「…お前そういうの見るのか…」

「何だよ。意外?」

「いや、…まあ…」

 ちぇー、と唇を尖らせた彼から視線を外し、金丸はT字路の丁度真ん中に立った電柱にもたれかかった。

「今夜が確か四回目だったかな?主演の夏木ひとみが可愛くてさ〜」

「お前の場合胸だろ…目当ては」

「まあ否定はしない」

「顔は」

「重要ではあるね〜、まあ。少なくとも、綺麗で悪いってことはないよ」

「だろうな」

 数分どうでもいい話を続けた後、自然と金丸の足は右に、風見鶏の足は左に向いていた。

「じゃあ、また明日」

「ばいばーい」

 金丸は自宅へ。

 風見鶏は空手の道場へ。

 それぞれ、歩き出す。


 心細きことこの上なし。

 今まで授業中以外常に右側にいた、ボディーガード兼友人がいなくなると、こんなにも不安になるものなのか。

 何も一人ぼっちになるのを恐れているわけではない。むしろそれは金丸にとって望ましいことであるが、そうはさせてくれないのが同級生その他の女子生徒たちだ。

「今日、八多くん休みらしーよ」

「マジで?じゃあチャンスじゃん!」

 朝読書前はおろか、十分休みごとに三年A組の前に全校の女子生徒が集結する事態になってしまった。勿論、数人例外はいるが。

「金丸くーん!」

「今日あたしたちと一緒にお弁当食べよ!」

「あっ、ずるーい!あたしも!」

「放課後ってあいてますか?」

「ダメダメ!金丸君、放課後は私とランデヴーだもん!」

 ピーチクパーチク、喧しいわ。

 窓際の三番目の席で、金丸は左側に見える真っ青な空を横目で睨みつける。

 光が落ちる彼の半顔を、席の周りの女子たちがうっとりとした眼差しで見つめていた。


「ああ、うるさいうるさいうるさい…」

 唯一一人になれる場所。男子トイレの小用便器の前で用を足しながら、金丸は一人ぶつぶつと呟く。幸いなことに周りには誰もいなかったため、彼の頭がおかしくなったという噂は立たずに済みそうだ。といっても、どこに熱心なファン(ストーカー)が隠れているのか分からないが。

「ちっ…」

 ついつい舌打ちが口をついて出てくる。まさか、八多がいないだけでこれほどまでに変わるとは。予想外だった。これでは、昼休みと放課後、どう乗りきればいいのだろうか。

 手を洗ってトイレから出ると、廊下の時計の短針がかちりと動くところだった。どうにも急ぐ気にならず、金丸はしばらくぼんやりとして、静まり返った廊下に響くチャイムを聞いていた。


 四時間目の数学の時間中、ずっと教室の前にかけられた時計を見つめていた。その短針がかっち、かっちと時を刻み、それが遂に十二時十分の位置になり、チャイムが鳴る。頭が薄くなり始めた、四十代後半と思われる男性教師が欅野に号令を促し、彼女が口を開いた。

 その瞬間、金丸は素早くスクールバッグから弁当と財布、スマホを取り出し、欅野が「礼」と言うが早いか、全速力で教室を駆け出した。

「あ~ん、金丸く~ん」

「行っちゃやぁだぁー」

 甘ったるい声を背中に感じながら、金丸は心の中でガッツポーズをした。勝った。

 勝利の余韻に浸りつつ、速度を緩めることなく一直線に屋上へ繋がる階段までただがむしゃらに走った。まだほとんど人のいない廊下を。

 感情の変化が乏しい彼でも、このときばかりは思わず叫び出したくなった。いや、勝利の雄叫びというのだろうか。咆哮というのだろうか。とにかく吠えたくなったのだ。たかだかクラスで一番に教室を出られたというだけでそこまで嬉しくなるものだろうか。いや、ない。

 たっ、た、たと軽い足音を立て階段を駆け上がる。当然のことながら屋上に通じる階段には誰にもいはしなかった。

「…あ」

 ここまで来て、屋上のドアの鍵が閉まっているという可能性を考えていなかったことに気がついた。

 まあ、その場合屋上への階段の踊り場で食えばいいか。

 一人で意見をまとめ、銀色のひやっこいノブに手を伸ばす。

 かちゃっ、と呆気ない音がし、予想に反してドアはあっさりと開いた。少しばかり錆びついていて、開く際耳障りな音を立てたけれども。

「何でこんな…?」

 普通、屋上の扉には鍵がかけてあるはずなのだが。不思議に思い、ノブに手をかけたまま金丸は首を傾げる。そこで思い至った。先客か。

 どうか男子生徒でありますように。

 祈りながらドアを全開にする。青い絵の具をめちゃくちゃに塗りたくったような青空と、金色と銀色を一緒に混ぜたような色の太陽が目に飛び込んできた。まだ春のはずなのに、日差しは穏やかを通り越して既にぎらぎらという擬声語がぴったりなほどに強い。

 目を細めながら殺風景な屋上を見回す。コンクリートの床。給水塔。安全のためにつけられたフェンス。眩しい日光に照らされた屋上に人の姿はない。

 ほっと息をつき、給水塔にもたれかかる。それに触れている背中の部分がじんわりと汗ばんできた。

「ふあ…」

 安心したためか、急に眠気が襲ってきた。小さく欠伸をし、金丸はゆっくりと目を閉じた。空腹は自然と気にならなかった。


「おーい、おーい。起きてますかあ」

 肩を揺さぶられる感覚と、耳に柔らかく響く女の子の声。口の中でもにょもにょと返事をし、金丸は寝返りを打った。

「おーい、金丸くーん。かーなーまーるーくーん。起きてくださいよお」

 続いてぺしぺしと小さな手のひらが肩を叩いてくる。

「ぁんだよ、ったくう…」

 目を擦りながらごそごそと答えを返すと、「起きてくださいよ」と再び声がした。

「まだはっきりとは目が覚めていないみたいですけど、ここで残酷な現実を突きつけてもいいですか?あの、恐らく金丸君が眠りについたのは昼休みだと思います。だけど今、五時間目途中なんですよ」

「マジで!!!」

 一瞬にして目が覚め、視界が一気にクリアになった。

「お目覚めですね」

 上半身を起こした彼の目の前には、一人の女子生徒が体育座りをしていた。金丸ファンクラブが居場所を突き止めたかと身構えたが、どうやら違うらしい。ファンクラブなら軽く十人は超える人数が屋上に集結しているはずだが、彼女は一人だった。

「良いですねえ、ここ。日当たり良好」

 それどころか、まるで金丸などいないかのように独り言を呟いている。

「おはようございます__いや、おそようございます。どうしたんです?授業に戻らないんですか?」

 目の前の、正体不明の女子中学生はショートカットの黒髪を揺らし、のんびりと問うた。

「…いい。サボる」

 金丸の初サボりが決定した瞬間だった。

「ところで、お前…君は誰だ」

「誰って…失礼ですねえ。ちゃんと制服着てるじゃないですか」

 確かに、よく見れば彼女は欅野付属中の制服を着ていた。白いワイシャツに、紺色のネクタイをしている。黒いプリーツスカートも欅野付属のものだが、なぜかその下に深紅に白色のラインが入ったジャージズボンを穿いている。確かこの学校の指定ジャージは青だったはずだが。部活動のジャージだろうか。

「紺ってことは一年か…でも、どうして俺の名前を」

「金丸君の名前は知らない方がおかしいですよ。ここにいれば、自然と耳に飛び込んできますから。とんでもない美少年だって」

 猫のようないたずらっぽい瞳をくるりと回して彼女は屈託なく笑う。

「あ…そうか。で、君は」

「あ!」

 改めて問いを投げかけようとした金丸の言葉は、元気な声に掻き消された。

「これ、どうぞです」

 そう差し出されたのは、校舎内の自動販売機でも売っている紙パックのジュースだった。有名ジュース会社の名前がプリントされた、りんご味のジュース。

「ジュース」

「です。奢ります」

 金丸はにこにこと微笑む猫のような目を半目で見た。

「何で」

「理由を訊くのは野暮だと思いませんか?」

「いや。理由が知りたい」

「金丸君は野暮です」

 大袈裟に肩をすくめ、ため息をついてみせる。しかし金丸は目の力を緩めなかった。

「…理由の前に名乗りましょう。私は(しろかね)(なにがし)。どうぞ銀とお呼びください」

「そうか。よろしくお願い…することはあるかな…銀さん」

「銀です。銀とお呼びください」

「え」

 思わず金丸は目の力を緩め、しばたかせてしまった。

「だから…銀さんって」

「さん付けは結構です。銀、と呼び捨てでどうぞ」

「…銀?」

 いくら無愛想で無礼な金丸でも、初対面の人を呼び捨てにしない程度の礼儀は持ち合わせている。

「そうです。銀。呼び捨てで」

 何と馴れ馴れしい。

 金丸は一瞬不快そうに顔をしかめたが、銀の無垢な笑顔を受けて眉間のしわを消した。

「お願いですから、某呼ばわりはやめてくださいね?」

「気持ち悪いからか」

「いえ、…金丸君みたいなイケメンさんに下の名前で呼ばれたら嬉しいんでしょうけどね。あんまり気に入ってないんですよ、この名前」

 それに、とあくまでも銀は笑顔を崩さない。

「私はさん付けをされるほどの者じゃあありませんから」

「そうか」

 金丸には、必要以上に個人のプライベートに踏み込む趣味はない。

「それで、俺に何の用だ」

「えっとですねー、諸事情ありまして。金丸君のお力を借りたいんです」

「力?」

「はい」

「俺、そこまで力強いわけじゃないけど」

 風見鶏と比べても、その差は歴然である。

「そういう物理的な力じゃなくて、能力ってことです。ほら、力弱くても頭はいいんでしょう?」

「俺の能力が必要ってことか」

「平たく言えば」

「どうせ顔だろ」

 銀は鼻から息を吐き出し、少し首を傾げて金丸を見つめた。

 図星か。

 金丸は頭の後ろで手を組み、視線を外して白い雲がぽかりぽかりと浮かぶ空を見上げた。

「金丸君は学校の王子様なのに随分卑屈なんですね」

「なっ」

 突然の口撃(こうげき)に、金丸は思わず身を起こす。銀を睨みつけるも、彼女はどこ吹く風でさらりと目を逸らした。

「卑屈だったら、マジで顔だけの人間になっちゃいますよ。…けど」

 逸らされた目線が金丸に戻ってきた。

「違うんでしょう?」

「違う」

「なら、証明してみせてください。私は、あなたの顔以外の能力を必要としているんです」

「顔…以外」

 真っ直ぐ、真っ直ぐ心の中まで見透かされそうな強い眼差し。正面から受ければ思わず気圧されてしまいそうな視線だが、それなのに避けることは出来ない。

「あぁ」

 しばらくの沈黙の後、馬鹿にしたように銀が息を鼻から吐いた。

「やっぱり顔だけ人間ですか」

「…な、違…あー分かった!お前に従うよ。どこへなりとも、何でもお前の好きにすりゃいい」

「うふ」

 銀は小首を傾け、品良くに口元に手をやる。その目が一瞬きらりと光ったのに、沸き上がる怒りを抑える金丸は気づかない。

「|(意外とプライドの高い)金丸君なら|(この程度の挑発で)乗ってくれると思いましたよ」

「…心の声聞こえてるからな…」

 おや、と白々しく両腕を広げてみせる。

「じゃあ下りますか?」

「ほんと良い性格してるなお前」

「さて」

 金丸の怒りをさらりと受け流し、銀は温かいコンクリートの床に腰を下ろした。

「早速なんですが、さっき言った通りお願いがあります」

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