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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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二度目の侵攻

 束の間の平和を満喫していた国民とは違い、国王は賢く、また行動も早かった。

魔族との戦争から幾らもしないうちに、王国には他国からの援軍が次々と到着していた。

今日もまた、西の門には数多くの兵士が集まる。

「我らはブルグドム国の第三兵士隊なり!貴国の為にはせ参じた次第!開門を願う!」

「私たちはアワシエア国国王の私兵団である!貴国の願いに我が王は答えた!門を開けたまえ!」

他にも多くの兵士が続々と駆け付け、その数は約二万二千にも及んだ。


 先の大戦による王国軍の被害は、魔王軍が早々に撤退したおかげで五千程度で済んでいる。

また魔王友軍の援軍も加わり、王国軍の兵数は全てを含め、約五万にも達していた。

これだけの兵力があれば、例え魔王軍全軍が襲ってきたとしても、まったく歯が立たない、なんてことはないだろう。

更に数を集めることも可能ではあるが、そうした場合他の問題が浮上してくる。

食料の問題、各国の防衛力、治安維持、等々。

 いかに魔王軍との全面戦争であろうとも、全兵力を援軍として派遣することは出来ない。仮に全兵力を援軍に費やしたとして、その戦争で人間側が敗北してしまえば、後は自衛も出来ずに蹂躙されるだけだ。

また事の重要性を知らぬ盗賊のような輩が、幅を利かせるような状況も十分起こり得る。

故に各国の長は、援軍の数を、自軍の総数の半分を上限に決めていた。

そういった制限がありながら、五万という兵数が、国を跨いで集まった戦いは歴史を見ても数少ない。十年前の大戦でさえ、これだけの兵は集まらなかったのだ。

 本来であれば史上稀にみる数字に士気も高まり、活気に溢れるものなのだろうが、王城の一室に集まった、王国の上層部は皆頭を抱えていた。

その理由は……勇者の不在にあった。


 先の戦争の時、勇者率いるS級パーティー『希望の光』は、ギルドに依頼されていた討伐依頼を受け、遠方まで足を運んでいた。

彼らが無事その依頼を達成し、王国への帰路についていた途中に事はおきる。

『貿易都市スウェルマーニ』に、魔王率いる魔王軍が侵攻を始めるという情報が舞い込んだのだ。

これを聞いた勇者は、スウェルマーニで魔王軍を迎え撃つことに決める。

だがいつまでたってもそれらしき軍隊は姿を見せなかった。

 疑問に思う一同に今度は、王国が魔王軍より攻撃を受けている、との早馬が届く。

それを聞いた勇者は、自身を除く他のメンバーを王国へ向かわせ、単身北にある山脈に乗り込んでいったのだ。

以後、誰も彼の姿を見てはいない。


 賢者のその報告を受けた国の上層部は、顔色を悪くして、心に不安を抱えた。

まだ勇者が行方不明なだけならよかったのだ。

賢者の話をそのまま受け取れば、考えたくないことだが、勇者が魔王に負けた可能性もあり得る。

 例えば……例えばだが、勇者が魔王に敗れたとすれば、現魔王の力は、前魔王を無傷で倒した勇者よりも強いことになり、勇者よりも強い者がいない王国軍は、圧倒的に不利となるだろう。

それに加え、火竜や巨人族のような、強力な魔物が現れては敗北は必至。

国王とその周囲の者は、必死に勝利の道を模索していた。


 突如一人の貴族が声を上げる。

「魔族軍を前に出せばいいではないか!魔族は魔族で処理してもらうのが道理であろう!」

もはや正気ではない、といいたくなるような案だが、恐るべきことに周囲の貴族も同意の声を上げだす。

「そ……その通りだ!同じ魔族であれば狼狽えることもあるやもしれんしな!」

戦場で戦うことをしない貴族の考えそうな、何とも甘い考えである。実際の敵魔族は暴走していて、話すこともままならない相手だというに……

 なにより一番問題なのは、魔王友軍の長であるサラシャがこの場にいる事だろう。

声を荒げる貴族に反論するわけでもなく、サラシゃは静かに椅子に座っている。

その態度が彼等の傲慢に拍車をかけてしまったのも事実。もはや部屋の中は収拾がつかなくなっていた。


 貴族の余りに酷い態度に、国王がついに声を荒げた。

「静まれぇい!」

一喝で辺りは静寂に包まれる。あれだけ煩かった貴族たちも一言すら発しない。

もはや国王の許可なしで発言は許されない。そんな空気が漂う。

 緊迫した空気の中、サラシャが手を上げた。

国王の許可が下りると彼女は立ち上がる。

堂々と立つサラシャを見て、先程声を上げていた貴族はバツが悪そうに顔を下に向けた。

彼らの頭上から、凛とした声が聞こえる。

「我々魔族が前衛に立つ。可能であるなら私からもお願いしたいことです。ですがそれは非常に難しいのです」

サラシャは魔王の持つ力『魔血の禁術』について簡単に説明し始める。

新たな事実がわかるたび、青ざめていた貴族の顔が更に青くなっていった。

「つまり、私たちが前に出れば、魔王が魔血の禁術を使うことで暴走が始まり、敵対してしまう可能性があるのです。せめて魔王が軍のどこに陣取り、どこを移動するのか分からないことには、最前衛で戦うことは難しいと思います」

 勇者の不在に続き、期待していた魔王友軍のかせが判明し、周囲の空気は更に重くなる。

そして……悪いことに悪いことは重なるものだ。

会議室の戸が開き、兵士と共にクリスタルウルフが姿を現す。

皆の視線を一身に浴びた彼は、落ち着いた態度で告げた。

「魔王軍が進軍を始めました」

部屋の中は騒然とした。


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