加護無し2
白髪は加護無しの証である。
それは人間の間でも魔族の間でも変わらない。
誰でも知っている世界の常識の一つだ。
これは勿論、史実に基づく根拠がある故に知れ渡った常識であり、例外があったという話は聞かない。
その数は少なくとも、白髪は須らく魔法が一切使えなかった。
だからこそカノンカは、白髪故に『加護無し』として迫害を受け、これまでつらい思いをしてきたのだ。
ところが他でもない『賢者』が、彼女は加護無しではないと明言した。
これは極端な話、人間は二足歩行ではない、と公言するのと同等の、愚かな発言でもある。
町で走り回る子供に言えば、指を指され笑われるような話だ。
だがそんなことは一切気にせず、メイレイは自分の考えを述べていく。
「多分貴女は加護がないんじゃない。あり過ぎるのよ」
彼女は、頭に疑問符を浮かべる一同を見渡し、一人一人指さしていく。
「私たちは生まれる時、精霊の力に触れる。その強さによって、髪や瞳に変化が現れる……とされているわ。風に、水に、闇。何も触れない者は白」
各々は自身の髪を恥ずかしそうに少し弄った。
その様子を見たメイレイは、多少呆れながらも、自慢するように髪を掻き上げる。
長く綺麗な黒髪が、さらりと風を受けて舞った。皆一様にその光景に見入る。
「この世界の『魔法』は、精霊の力を借りて発現する力だということは、詠唱の内容から見てもわかるわよね?もし貴女に、本当に加護が無いのであれば、そもそも精霊から力を借りれないから、さっきみたいに、魔法発動の兆候なんて起きる筈がないのよ。当然第四節詠唱魔法だけの話じゃなくて、生活魔法でさえ使えない筈よ。努力のしようがない……よく言う『ゼロにはなにをかけてもゼロ』って状態ね」
その言葉にカノンカは、まるで叱られた子犬のように、体を小さくし俯いてしまった。
白髪は精霊の力に触れなかった証。精霊の力に触れなかったものは魔法を使えない。
だがカノンカは白髪でありながら魔法を扱う。
その矛盾に皆は混乱した。
「一体どうゆうことだ?カノンカは白髪だけど魔法を使ってるぜ?」
クロツチの質問にメイレイは、ようするに、と内容を纏めて続ける。
「さっきも言ったけど、貴女は加護を持ちすぎているの。しかもどれも同じくらいでね。恐らくそれぞれ対になる属性が、加護を打ち消し合っているのじゃないかしら。だから魔法石のような、バランスを崩すものを使うことで、火竜を倒す位強力な魔法が使えるようになるのだと思うわ」
聞きたくない、といった風に耳を塞いでいたカノンカに、メイレイの声は届かない。
ため息をつく彼女は、ゆっくりとカノンカに近づくと、そっと耳を塞いでいた手に手を添えた。
耳から手を外したカノンカは、きょとんとした顔でメイレイを見る。
優しき姉は、妹の白き髪をそっとなでた。
「貴女は精霊に愛されていたのよ?カノンカ」
メイレイは言葉と共に優しく抱きしめる。
その姿は、まさしく優しい姉のそれであり、かつて罵倒を浴びせた女と同一人物とは思えない。
暫くして、カノンカは目から涙を流し嗚咽を漏らし始めた。
幼くして家を追い出され、家族を見返すために剣を握り、加護無しと馬鹿にされ、日々歯を食いしばり、枕を濡らしながら生きてきた十年間。
その努力が今報われたのだ。
心の箍が外れたのか、姉の温もりに気が緩んだのか、彼女は声をあげて泣く。
優しき姉は泣きじゃくる妹が泣き止むまで、黙ったまま唯ずっと抱きしめていた。




