加護無し1
ある日、ネイノートとカノンカは、二人で店番をしていた。
クロツチの作業で必要な素材の、蓄えが無くなってしまい、仕事が進まなくなってしまった為、急遽買い出しに行かなくてはいけなくなったのだ。
買い物に行く彼と共に、商品の発注を済ませてしまおうと、ノゼリエも外出していった。
他の者も出払っていて、現在太陽と月の遊び場にいるのは、ネイノートとカノンカの二人だけだ。
もう既に忙しい時分も過ぎ、来客もぽつぽつと見える程度しかない。
その僅かな来客にも、カノンカは手慣れた対応を行う。ネイノートも不手際ながら客を捌く。
二人が買い物に出かけて暫く経ち、恙無く過ぎる時間の中、今日何度目かになる来客を知らせる鐘が鳴った。
カノンカが反射的に声を上げる
「いらっしゃいま……せ……?」
戸を開けて入ってきたのは一人の女性。
最初は元気に声を出したカノンカも、来客の姿を見たとたん眉間にしわを寄せた。
黒く長い髪を靡かせ、同色のローブを羽織り、手には杖を持っている。
その人は勇者の仲間、『賢者』こと“メイレイ・ヒュエリエ”だった。
彼女は店内を見渡し、ため息をつくとカノンカを見る。
一方カノンカはといえば、酷い顔でメイレイを睨んでいた。
「あら……お客様にその顔はないんじゃなくて?」
彼女は靴を鳴らしながら月の遊び場の方へ歩いていく。
姉妹の話に割り込むのも無粋。そう考えたネイノートは、太陽の遊び場でカウンターに突っ伏した。
しかしメイレイはその行為を良とはしない。
「ちょっとそこの弓使いさん?こちらに来てもらえないかしら。貴方にも関係のある話なのだけど」
「……今営業時間なのだけど?」
メイレイの飄々とした態度とは違い、カノンカの態度は明らかに彼女を邪険に扱っている。
ネイノートが慌てて椅子から立ち上がると、再び戸に備え付けれらえた鐘が鳴った。
入ってきたのは買い物に出ていたクロツチとノゼリエだ。
丁度良いのか悪いのか、彼らは来客に気付かないまま疑問を口にする。
「おいおい、表の看板が『クローズ』になってたが何かあったのか?」
二人の疑問に何でもないといった様にメイレイが答えた。
「あぁ、それ私よ。他に誰か入ってきたら邪魔だもの」
その言葉で漸くその存在に気付いたクロツチは、明らかに嫌そうな顔をした。
恐らく力比べした時のことを思い出しているのだろう。
実際見たわけではないが、話を聞いていたノゼリエも表情を崩す。
だがそんなことを気にもかけず、メイレイは口を開いた。
「全く……誰も彼も人を邪険に扱って。普通に接してくれるの弓の子だけじゃない。お姉ちゃん悲しいわよ?」
芝居じみた動作でカノンカに向かう。
「何がお姉ちゃん、よ……愚妹だの焼き殺せだの、散々言ってたじゃない」
「あら、私は貴女の事大好きよ?努力家な自慢の妹だもの。ただ、あそこで認めちゃ努力を辞めちゃうかもと思ったから、心を鬼にしてああ言っただけ」
「すっっごい楽しそうに笑ってたじゃない!」
やいのやいの言い合う光景を見たネイノートは、これが姉妹喧嘩という物だろうか、と感動を受けた。
彼は一人っ子であり、父を亡くしたのも幼き頃。一緒に暮らしていたのは会話の出来ないウィンドバードだけだった為、喧嘩という物をしたことがない彼は、その喧しくも微笑ましい光景に顔を綻ばせた。
一同はメイレイの要望を受け、太陽と月の遊び場の裏にある庭に出ていた。
「ここに来たのは、貴女の力を確認したくて来たの。えーと……これで魔法を使ってみてくれる?」
彼女が差し出したのは、黄色い魔法石。
それに満ちた魔力は、これまでカノンカが使って来た魔法石よりも純度が高い。
受け取ったカノンカは困った顔を浮かべ、姉の顔と魔法石を交互に見やる。
人差し指を曲げて、ほらきなさい、とメイレイが挑発すると、カノンカは小さなナイフで手のひらに傷を作った。
真っ赤な血が黄色い魔法石に滴り、辺りに淡い黄色の光を撒き散らす。
カノンカの頭の中に声が響いた。
『……?力を借りたいの?いいよ、僕に続けて」
彼女が詠唱を紡ごうとして……
「はい!ストップ!」
メイレイの声が響いた。
カノンカはびくりと体を強張らせ、はずみで黄色い魔法石を地面に落としてしまった。
慌てて拾い上げると、ちらりとメイレイを見る。
その姿はまるで姉に怒られる幼い少女のようだ。
そんな彼女の様子を歯牙にもかけず、メイレイは自論を語りだす。
「カノンカ。貴女多分『加護無し』じゃないわ」
その言葉に、その場にいる全員が息をのんだ。




