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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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残された者の役目

 “レシュノア・C・カエンスヴェル”は、自室で頭を抱えていた。

心の内にあるのはひたすらの葛藤。

父への敬親けいしんと、ある冒険者への羨望。

自分が為すべきこと、成さなければならないことに、延々と考えを巡らす。

 幾日もの時間を掛け、レシュノアは漸く答えを出すことが出来た。

彼は椅子から立ち上がり、豪華な自室を颯爽と出ていく。



 後日。

ハワーズの死を目の前で見たロンダニアは、下宿先の自室で日々を自堕落に過ごしていた。

何をするにも気持ちが入らない。

飯を食っても味がしない。忘れようと女を抱いてみたがたぎらない。剣を振う気にもなれなければ、弓を引く気にもなれない。

 何をするにしても、頭の端にかかるのは、満足そうに笑いながら死んでいった友の顔。

その顔を思い出す度、彼は自責の念にかられる。

もう少しうまくできたのではないか?彼が死なずに済んだ道もあるのではないか?俺が変わりに死ねば……?

自らの問いに答えが出ないまま、今日もまた、飯を食って、息を吸って、糞を垂れるだけの日々が始まる。


 そんなある日、ロンダニアの下に一人の来客が現れた。

金髪の切りそろえられた短い髪。見るからに高価であろう鎧を着て、これまた高価であろう剣と銃を持っている。

レシュノアだ。

 ロンダニアの下宿先は、決して豪華ではない。そんな場所に姿を現した彼は、明らかにその場から浮いて見えた。

場違いの貴族様は、死んだ目をするロンダニアを見て、苦々しく言葉を吐きだした。

「何をしているのだ?」

「……」

挑発のつもりでかけた一声も、暖簾のれんに腕押し。まるで反応がない。

不快な表情を隠しもせずに彼は続ける。

「何時までそんな死んだ目をしているのだ、と聞いている」

「…………」

ロンダニアは頑なに沈黙を通す。

彼のその態度は、構うのも鬱陶しいというようにも取れる反応だ。


 いつものレシュノアならば、このような態度を取る者には、罵倒を吐き捨て、無視するだけなのだが、彼の策にロンダニアは欠かせない人物だった。

彼は必死に、湧き上がる怒りを抑え、物言わぬ人形に話しかける。

「ハワーズの件は心中を察する。だがな、今のお前を見て、ハワーズは喜ぶのか?」

「……!貴様に……貴様に何がわかる!!」

『ハワーズ』の名に反応して、ロンダニアの怒りが弾けた。

 何不自由することなく暮らし、下々の者を見下し、一介の兵士が命を落としても、気にすら留めない。

貴族とはそんな輩なのだ。そしてロンダニアの知るレシュノアも同類である。

唯一無二の親友を無くし、意気消沈する自分の気持ちなど分かる筈がない。

あれだけ自分を殺し、頭を下げた貴族様にも、今ばかりは声を荒げ怒鳴り散らす。

「何が心中を察するだ!本当に察するのならば!今すぐ何も言わずに出ていけ!!」

ロンダニアは顔を伏せながら精一杯の叫びをあげ、肩で息をする。

暫しの沈黙。

やがて足音が聞こえると、ロンダニアは安堵し顔を上げた。


 途端。

レシュノアはロンダニアの胸ぐらをつかみ、思い切り壁に叩きつける。

大きな音がして、近くにいる冒険者が怪訝そうにこちらを見た。

だがそんなことは関係ない。

金髪の少年は、整った顔を怒りに歪ませ、鼻息も荒く叫んだ。

「いい加減にしろ!いくら振り返っても死んだ者は帰ってこないんだ!生きる者は死んだ者の分も生きる義務があるのだ!前を向いて生きねばならんのだ!」

少年の怒声が部屋に響いた。

 いかに軽薄なレシュノアといえど、好いた者が死んで平気なわけがない。

それでも彼は、貴族故の矜持きょうじか、悲しみを表には出さない。

その無理矢理に繕った態度のおかげで、彼はロンダニアより少しだけ冷静でいられた。


 背中を強かに打ち、暫し呼吸を忘れる。

咳込みながらロンダニアは力なく崩れ落ちた。

「ええい!情けない奴め!図々しいあの平民と同じ弓使いとは思えん!」

レシュノアは胸ぐらをつかむ手を離し、馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てる。

その言葉を聞き、ロンダニアは小さき弓使いを思い出していた。

 ハワーズの死を目の当たりにし、ただ泣くだけの自分。

ガルハンドの死を目の当たりにし、今なお弓を引き続ける少年。

与えられた時間に差はあれど、幼き彼には、今の自分とは比にはならない程つらい思いをしただろうに。

未熟な精神でそれに耐えられた事に驚愕するしかない。

(こんな姿を……彼に見せれないだろうが!)

それは唯の見栄と意地。だがそれでも彼の眼には一筋の光が差した。

 確かな意思を秘めた、そんな顔をしながらゆっくりと立ち上がるロンダニアを見て、レシュノアは悔しそうに言葉を漏らす。

「まったく!なぜあの親子の話をするだけで、どいつもこいつも顔色を変えるのだ!」

既にレシュノアも、そのどいつもこいつも(・・・・・・・・)に含まれているのだが、彼自身自覚はないようだ。


 ロンダニアはレシュノアに頭を下げると、一言謝る。

その真摯な態度は、先程のだらしない人間の物とは思えない。

レシュノアは、ため息交じりに自らの策を伝え、ロンダニアは力強くその策に協力することを伝えた。


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