クラスト・ファルガンの友
クラストは背にサラシャを乗せ戦場を駆けていた。
軍の左翼を任された魔王友軍は、素晴らしい戦果を見せる。
暴走してしまった仲間を救う為、唯その為だけに敵軍の命を奪っていった。
少々無理をしてしまったので幾らかの被害は出てしまったが、敵軍を一通り殲滅し終わると、クラストは遠くにいる巨人族を見る。
「サラシャ様」
「……ええ、確かに“バーニッシ”ですね。なんて悲しいことを……早く助けてあげましょう」
二人は直ぐに巨人に向かって駆け出した。
私は、今も苦しそうにもがく巨人族に向かって大地を駆ける。
バーニッシは、共に魔王様直下の四本指に入る好敵手であり、また良き友人でもあった。
優しく勇敢な彼は、多くの魔族に慕われていたのを覚えている。
魔王様が亡くなった時、サラシャ様とタイロン様は意見を違え、それぞれが別の道を歩んでしまわれた。我々は話し合いの末、私と彼がサラシャ様に同行し、後の二人がタイロン様と共に行動するようにきまったのだ。
お二方が争うことのないように、様々な手を打ったが、その願いは叶わず、時折争いが起こることとなる。
心優しきバーニッシはその様を見て気を揉んだ。
兄妹で争うなんておかしい。
そう言って彼は、タイロン様の下へ説得に出かけていったのだ。
その時だろう。タイロン様に『魔血の禁術』を使われてしまったのは。
大抵の物事を力で決める傾向にある魔族であるが、強いからといって魔王になれるわけではない。
魔王として魔族の上に立つための必須条件として、『魔血の禁術』を使えることが挙げられる。
この魔法は、魔族の中にある魔物の血を操作する魔法で、魔族がいたずらに暴走しないように制御するためのものだ。
制御できるということは、勿論暴走させることも可能という事。
タイロンはこの力を使い、巨人族や火竜、その他多くの魔族を暴走させていた。
完全に暴走した魔族は、内に眠る魔物の力に飲み込まれ、本当の魔物となり、もう二度と人の心を取り戻すことはない。
暴走した魔物の血に囚われた、人の心を救う方法は唯一つ。
その命を奪う。
そうした上で、その者の魂を使って『神の奇跡』を起こす事で初めて、人の魂を救うことが出来るのだ。
クリスタルウルフが初めてネイノートと出会った時、彼が発現させた超治癒魔法。それが神の奇跡にあたる。
今回もまた、心優しき巨人を救うには、ブラッドウルフの時と同じく命を奪うしかなかった。
私は大地をかけながら、心の中で一人呟く。
友よ。今楽にしてやろう。
するとバーニッシは、一心不乱に国に向かって走り出した。
視線の先を追えば、あの緑の少年がいる。
彼は真っ黒な弓に真っ赤な矢を番えていた。
バーニッシは右腕に残る鎧で頭を、剥き出しの左腕で胸のあたりを庇いながら、高速で走る。
その速度は恐ろしく速いが、クリスタルウルフである私には敵わない。
背に乗る我が主は、補助魔法をかけ私の身体能力を上昇させる。
一方私は前足に魔力を纏わせた。
よく練り上げられた魔力が、両前足を包み、その形を爪に変える。
火竜や巨人族を戦士に例えるならば、クリスタルウルフは魔法使いといえるだろう。
大きな体躯差の割に彼らと互角の力を持つ私は、他を圧倒する魔力と技術力を持っていると自負している。
自己流魔法『魔力武装』もその技術の一つだ。魔法を唱え終わると、私は攻撃の体勢を取る。
もはや巨人は目の前。
私は、右腕に残る鎧を落とすべく飛びかかった。
青に染まる空に赤い花を散らしながら、彼の右腕が吹き飛ぶ。
雄たけびを上げながら、ちらりと宙を舞う私を見た彼は、一度だけ雄たけび以外の声を発した。
『ありがとう……友よ』
私は心のうちから湧き上がるものを感じ、耐えきれずに声を張り上げる。
『何も言うな!』
友だと!?その友を私は殺そうとしているのだ。感謝など……
唯一無二の友だった。
共に酒を飲みかわし、共に喜び、共に悲しみ、そうして長き間生きてきたのだ。
だというのに……!
恐る恐る巨人の顔を見たクリスタルウルフは、その表情を見て安心することになる。
悪鬼のような顔は、安らかな笑みを湛えていて、悲しみ、怒りといった感情は見えない。
クリスタルウルフが地に降りると同時に、声を上げようと振り向いた時、一つの真っ赤な糸が彼を貫いた。




