巨人族との戦い2
巨人の攻撃を捌きながらも、ハワーズは大声で指示を飛ばす。
柱のような足が大地を削り、岩石のような拳が大地に突き刺さる。
その中で彼らが生きていられるのはやはり、ハワーズの的確な指示のおかげだった。
巨人が拳を振り下ろす直前に、ジェゼム、ルルムス両名の魔法が襲い掛かる。
巨人が魔法使いを睨みつければ、レシュノアが腹部に魔法弾を撃ち込み、注意を引き寄せる。
次いでロンダニアが弓で狙撃を、カノンカが魔法を、ハワーズが銃を……
巨人は絶え間なく続く攻撃に翻弄される。
それらは全てハワーズの指示に従った上での行動だ。
ハワーズの指示を受け、彼ら対巨人族部隊は、時には視界から消え、時には態とひきつけ、巨人の攻撃をのらりくらりと躱し続けた。
巨人が暴走をせず、理性を保ち行動していれば、通用しなかっただろう。チクチクと鬱陶しい攻撃を無視し、リーダーであるハワーズを真っ先に倒し決着がつく。
だが、ハワーズを狙う巨人の理性は、今もなお、徐々に魔物の血に飲み込まれ、破壊衝動で上塗りされていく。それを人間が知ることはないが、おかげで彼らは生きていられた。
巨人の猛攻によって皆傷を負っていくが、寸で躱し、翻弄するその様は、まるでいきり立つ牛をひらりと躱す闘牛士のごとく。
ハワーズの作戦は順調に進んでいく。
戦闘が始まっていくらか経ち、漸くネイノートの矢が援護を始めた。
ネイノートは少し前から、その姿を確認してはいたが、初めて見る種族の動きを観察するため、暫し様子を見ていたのだ。
その甲斐もあって、飛来する矢の正確なことといったらない。
足が振りあげられると同時に、巨人の眼に矢が迫る。
咄嗟に瞼を閉じる巨人はバランスを崩し、その大きな隙はハワーズらが避ける時間を稼ぐ。
ネイノートの観察眼は、ハワーズと同じ水準にあった。
その為、彼の放つ矢はハワーズの指示と絶妙にかみ合い、更に戦闘に余裕が生まれていく。
遠方から飛来する矢に魔法、張り付くように近距離から放たれる銃。
巨人はそれらを目まぐるしく追い続けた。
(行ける……!行けるぞ!)
皆身体も武具も既にぼろぼろ。体力も残り少ない。
それでもハワーズは微笑みを絶やさない。
こんなものは危機でも窮地でも何でもない。事は順調に運んでいる。
鎧で隠れ目に見えなくとも、巨人の体はダメージが確実に蓄積され、その動きは当初よりも遥かに緩慢だ。
遠くから狙撃するネイノートを含む、その場にいる者は皆、確かに勝利への手ごたえを感じていた。
順調……そう、順調すぎたのだ。
余りにもうまくいきすぎていたせいで、皆、他に対する注意力が散漫になっていた。
その戦場に、さっきまでいなかった影がいたことに、誰も気付くことが出来なかった。
本来の持ち場を離れ、巨人族が戦う近くまで来ていた冒険者。
かつてネイノートと共に護衛依頼を受けたパーティー、「スリズの星」。そのリーダーであるE級冒険者”カルテア・シグナリス“である。
彼の浅はかな考えが、行動が、順調に回っていた歯車を狂わせる。
火竜討伐に無理やり同行して、まんまと名声を手に入れた“レシュノア・C・カエンスヴェル”。
それを真似てカルテアは、次は我こそ、と密かに後を追ってきていたのだ。
巨人族討伐隊としてチヤホヤされることを妄想していたカルテアは、巨人の動きが鈍くなったのを遠くから確認すると、期を見計らってその場に駆け付けた。
皆が驚愕に目を見開く。
巨人族は火竜と同等の力を持つ。ならばE級冒険者である彼が適う道理がない。
レシュノアはカルテアのその姿に、まるで以前の自分を見ているようで、怒りがこみ上げてきた。
人の気持ちなど露知らず、カルテアは引きつった笑顔を浮かべ、腰に携えた銃を構える。
意気揚々と飛び出したはいいものの、巨人族の……その場の戦場の空気に飲み込まれてしまったようだ。
その姿は、まさに火竜討伐作戦の時のレシュノア。
人差し指が引き金を引くと、一際大きく破裂音が鳴り響いた。
ドォォォン……!!
筒の中で魔法が爆発を起こし、恐るべき速度で鉄の弾を弾き飛ばす。
不可視といって差し支えない速度で飛ぶそれは、巨人の胴体ではなく、右の足に的中した。
標的に対しほぼ垂直にぶつかった銃の弾は、その破壊力を最大限に発揮する。魔鉱石の鎧が少し欠け、吹き飛ぶその様に、皆驚きの声を上げた。
これまで何十発と撃っても少しの傷すらつかなかった鎧が欠けたのだ。
偶然とはいえ、その使い方を実演したカルテアは褒めるべきだろう。
だが……驚いたのは彼らだけでは無かった。
新たな脅威を見つけた巨人は、咆哮を上げ、カルテアを睨みつける。
怒りと共に放たれる大振りの一撃。
まるで王城にまで蹴り飛ばさんといわんばかりの一撃。
巨人の咆哮で身が竦んだカルテアに、避ける術はない。
強烈な足蹴りを受け、鎧を着た人間はいとも容易く宙を舞う。
数十の距離を飛び、強く大地に叩きつけられたそれは、何度も跳ねながら転がり続けた。
音が消える錯覚を覚え、その様子をただ呆然と見ていたロンダニアが呟き、大声を上げる。
見覚えのある鎧。見覚えのある髪。なぜだ……なぜ彼が……!
「……ハ……ハワーズ?嘘だろ……ハワァァァァズ!!!」
皆が言葉を無くす中、ロンダニアの絶叫が響き渡った。




