巨人族との戦い1
B級冒険者ハワーズが率いる一同は、号令と共に巨人族に向かって駆け出した。
近づけば近づく程、その大きさに驚く。
そして恐怖した。
身体の大きさとは一つの武器である。
その体格差実に十倍以上。
あの火竜が尾を振れば、それだけで五十もの兵が命を落とすし、この巨人がいたずらに駆け回るだけで、村ひとつ簡単に滅ぶだろう。
また人間が振るう剣も良くて釘といったところだろうか。種族の違いも相まって、巨人相手では皮を斬る程度にしかならない。
その力量差を打開するのは容易なことではなく、ハワーズは不安を抱えたまま目標へと駆ける。
一方巨人族は、戦場にいる脅威を必死に探していた。
配下はゴブリンとオーガの軍であり、お世辞にも強いとは言えない。
自身が強者を蹴落とさねば、烏合の衆である我が軍の負けは必至。
極めて高い知能を持つ巨人族は、魔物の血が暴走していながらなお、それだけのことを考える理性を持っていた。
だが、争いを好まない彼らが軍を率いた事はなく、兵を従えていながらその扱い方がわからない。
更には理性で押さえることの出来ない破壊衝動。それらが起因して、戦略など無に等しい、現在の全軍突撃という手を取るに至る。
彼は目的達成の為にも、早急に強者と出会わなければならなかった。
勇敢に立ち向かってくる『彼ら』のような者達と。
駆けながらハワーズは、巨人が自分らを認識したことに気付いた。
両者の視線は絡み合い、弾けるようにハワーズが声を上げる。
「巨人がこちらを見た!来るぞ!気合いを入れろぉ!」
後方からは“応”と声が上がり、それぞれ武器を持つ手に力を籠めた。
作戦は火竜の時と同様、ハワーズの指示を受けての波状攻撃だ。
自身より体の大きな魔物には、もともと取れる手が少ない。
その中で唯一、皆が実践し、それなりの成果を得られた作戦を選ぶ。
まずは魔法の牽制攻撃。
射程距離に入るとジェゼムとルルムスは立ち止まり、魔法の詠唱を始める。
魔法使いにとって、詠唱中が一番無防備となる為、魔法を使うには細心の注意が必要だ。
本来であれば火竜の時のように、意識の外から魔法を浴びせるのが好ましい。
だが現状でそんなことは言ってられない。
もう既に巨人は彼らを敵として認識しているし、平原には身を隠す場所もありはしない。
また、幾らか巨人の気を引き付けねば、前を走る者たちは簡単に踏み潰されてしまうだろう。
だからあえて、姿を晒して、態と目を引くように魔法を発動する。
ジェゼムとルルムスが始めた魔法の詠唱を聞き、ロンダニアは矢筒から三本の矢を取り出した。それを弓で放つ。
狙うは地上より20もの高さにある彼奴の顔面。理想を言えば『目』だ。
巨人が身に着けている鎧は全身鎧である。
性質が悪いことに、その全てが『魔鉱石』で作らていて、頭には同様の兜も冠っている。
その防御力の高さは、ほぼ全ての物理的攻撃を無効化する、といってもいいだろう。
故にロンダニアは、鎧を避けて剥き出しの眼を狙う。
だがネイノートならいざ知らず、ロンダニアには厳しい狙撃だった。
案の定彼の放った矢は、少し右にずれ、兜に弾かれ明後日の方に飛んでいってしまった。
狙撃による傷は無い。だが、目の近くに飛んで来た矢が少なからず気に障り、巨人はロンダニアを睨んだ。
矢が弾かれたというのに、ロンダニアは笑みを浮かべた。
彼の狙撃の目的は、傷を負わす事では無く、魔法使いに向いた注意を更に逸らす事だったのだ。
それは無事成功し、巨人には僅かながら隙が生まれる。
そこへ、丁度良く二人の重唱された魔法が放たれた。
『第二節詠唱魔法!光の剣!』
白く輝く三本の剣が、巨人の眼前に現れる。
その剣は、まるで踊るように大空を舞い、巨人の胸に切りかかった。
僅かに反応の遅れた巨人は、辛うじて両腕を重ね、胸を庇うように組む。当然腕には魔鉱石の籠手が装着してあり、その守りは堅牢というに相応しい。
だが光の剣は、剣の形をしていても魔法攻撃である。高い物理耐性を持つ魔鉱石をすり抜け、巨人の腕に突き刺さった。
僅かな唸り声が巨人の口から漏れ出る。絶えず動いていた手足が少しの間止まり、大地の震動が収まった。
だが、それも一瞬のこと。
巨人が煩わしそうに手を振り払うと、光の剣は弾かれるように飛び散り、光の粒子となって消え去る。
それを見た二人の魔法使いは、落胆の表情を……浮かべる筈がない。
先の魔法は牽制であり陽動だ。弾かれたとしても何ら不思議ではない。
むしろ多少なりとも魔法が効いたことに、二人は顔を緩める。
巨人族など、人間にとって御伽話の中の存在だ。
この戦場にいる誰もが、これまで実物を見たことはないだろう。
そんな存在の対処法が、手探りになるのも仕方のないこと。
魔法による攻撃は効果があった。
続いてジェゼムとルルムスは、様々な魔法を使用し、より大きな損傷を与えられる属性を探り出す。
その属性は一般的に、その者が持つ加護と対になる属性となっている。
同属性から受ける被害を抑える代わりに、対属性から受ける被害を大きくしてしまうのだ。
二人の光魔法を受けた巨人は、確かに苦痛の声を上げた。しかし特別有効とは言い難い。
少しでも有利に戦うため、他の属性をぶつけ、早急に弱点属性を探る必要があった。
光の剣を受けとめた巨人は、続いて詠唱に入る二人の魔法使いを睨みつける。
だがそれまでの一連の動きは、とても大きな隙となっていた。
遂に前を走るハワーズ、レシュノア、カノンカが、巨人の足下に辿り着いたのだ。
敵の大将に肉薄するというのに、巻き添えを避けるためか、付近にオーガやゴブリンの姿はない。
ハワーズは走る勢いそのままに、巨人の足へ切りかかる。
ギィィン!!
大きな金属音がなった。しかし鎧には傷一つつかない。
少し欠けた剣を見てハワーズは舌打ちをする。
多少業物であっても、所詮は人の作った鉄の剣。分厚い魔鉱石の鎧を突破することは難しい。
仮に突破したとしても、その下には重厚な皮膚がある。
それらを切り刻み、漸く鮮血を噴き上げる頃には、幾つもの命が潰えているだろう。
つまりこの戦いで大事なのは、魔法使いによる魔法攻撃となる。
先ほどの魔法で巨人は苦痛の声を上げた。ならば足止めだけに留まらず、無力化する可能性も十二分にあるだろう。
惜しむらくは、魔法使い二人の得意とする属性が合致していないことだろうか。
得意属性による全力の重唱ならば、更なる威力を期待出来るが、それが出来ぬ今、時間をかけてじわじわと削っていくしかない。
後続が魔法の発動に尽力出来る為に、前衛を受け持つ三人は、やはり敵の注意を引く役目となる。
しかしそれも、脅威を感じさせなければ叶わない。
剣での攻撃は弾かれる現状で、巨人がハワーズらに注意する必要は無いだろう。
故に、ハワーズとレシュノアは銃を、カノンカは魔法を使い、攻撃を仕掛けることになる。
前衛が巨人と死闘を繰り広げている最中、ロンダニアもまた巨人に向かって矢を射る。
更に時折姿を見せるオーガに向かって銃を撃ち、ゴブリンから魔法使い二人を守る為に剣を振るった。
辺りには破裂音、金属音が鳴り響き、魔法の光が明滅を繰り返す。




