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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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開戦2


 王国の外では軍が展開されていた。

剣を持つ歩兵、槍を持つ騎兵が立ち並ぶ。

その中にはネイノートを除いた、火竜討伐隊のメンバーとカノンカの姿があった。

彼らの視線は迫りくる巨人に釘付けだ。

 一方ネイノートは、他の冒険者、王国兵の魔法使いと共に、城壁の上に並んでいた。当然ウィンも彼の肩にとまっていて、周囲の視線を集めている。

弓を手にネイノートが視線を左にずらせば、魔族友軍に指示を出すサラシャとクラストが、右にずらせば馬にまたがったグランドの姿が確認出来た。

 皆表情は硬く、王国軍は緊迫した空気に包まれていた。



 全ての準備を終えた王国軍は、突撃の号令を待つのみ。

魔王軍が迫る中、遂に国王が口を開く。するとその声は、魔法の力を受け、緊張に顔を強張らせる兵士達の耳に届いた。

「皆の者!魔王軍はすぐそこまで迫っている!魔族の力は強大で、巨人族タイタニアの姿も確認された……だが恐れることは無い!我らの魔法は奴等の鎧を打ち砕き!我らの剣は奴等の首を断ち切ることだろう!……そして我々には、かつて魔王軍を打ち破った銃兵団もついておる!」

 名前を呼ばれた銃兵団が空砲を打ち上げる。

その破裂音を聞いた兵士は、皆空を見上げ拳を突き上げた。

得も言われぬ熱気に当てられ、配置された隊の長は高々と声を張り上げる。

「勇敢なる王国の兵士よ!民を守るべく立ち向かえ!全軍進撃ぃぃ!」

 オオオォォォ!!

王国軍は雄たけびと共に、魔王軍に向けて進軍を開始した。



 進軍する王国軍の最前線を走る兵は、恐怖から剣を握る手に力を籠める。

鼓舞を受けていた時は恐れなどなかった。まるでどんな敵でも勝てるような錯覚。

だが迫りくる真っ黒な軍勢を前に、恐怖で手が震えだした。歯ががちがちと鳴り、足から力が抜けていく。

「うぉぉぉおおおお!!!」

恐怖を振り払うように歯を噛み締め、腹から力の限りの声を上げる。

気付けば辺りの兵士も同様に叫びを上げていた。

 彼我の差はみるみる縮まり、銃が届く範囲まで近づいた。

息が上手く出来ない。あと数十秒もすれば両軍は衝突し、殺し合いが始まるだろう。

眼前には醜悪な顔をしたゴブリンとオーガ。見上げれば空を覆うほど大きな巨人。

もはやそこは逃げる猶予のない死地である。

「騎兵隊!突撃ぃぃ!!」

 隊長の号令と共に、騎兵隊がゴブリンとオーガの塊に突っ込んだ。

槍がオーガの頭を貫き、鎧を着た馬がゴブリンに体当たりをかける。

咆哮が飛び交う戦場が、一変金属音と悲鳴が鳴り響く戦場へと変わった。


 騎兵隊の突入は無事成功する。王国軍の損害はほぼ無く、魔王軍のゴブリンは大被害を被った。

辺りには血の匂いが充満して、正気のまま吸い込めば吐き気がこみ上げるだろう。

「歩兵!突撃ぃぃぃ!!」

進撃から三度の号令が響く。言葉そのまま、歩兵の軍団は黒の塊に突っ込んだ。

 兵士は剣を持つ手に力を込めて、目の前にいるゴブリンを思いっきり切り付けた。

手に嫌な感触が伝わり、ゴブリンは内容物を巻き知らしながら地面に倒れる。

(よし……よし……!)

掴みは上々。あとはこの勢いに乗って……

そう思った矢先、眼前には両手剣を振りかぶるオーガの姿が映った。

体勢の立て直しはまだ出来ていない。更に死への恐怖から体の硬直は増していく。

「ひっ!」

情けなくも口から悲鳴が漏れた。だがそれをたしなめる者は何処にもいない。

 敵も味方も必死なのだ。

誰もが命を落とす可能性がある戦場で、運が悪く自分の番が回ってきただけの話。

皆自衛に精一杯で、助けに来る者は何処にもいない。

 振り下ろされる両手剣は既に血で汚れていた。

切れ味の落ちた鉄の塊は、綺麗な切断ではなく、鉈のように叩き切る。

直ぐに死ねずに苦しむ最後となるだろう。

(せめて一思いに、楽に死にたい……)

兵士は、優しき妹、父と母の姿を思い出しながら祈ったが、その願いは……叶うことは無い。


 オーガ兵は唐突に後方に弾き飛ばされた。

オーガの身体には一本の棒が付き刺さっている。

彼を救ったのは、槍でも、剣でも、銃でもない。たった一本の矢だ。

 兵士は矢を放つ人物に心当たりが二つある。

一つは火竜討伐隊に入っていた冒険者。

一つは魔物を従える臆病者。

だが彼らはこの場にいない。

前者は巨人の下へ。後者は1500の距離も離れた城壁の上にいる筈だ。

 兵士が放心していた矢先、金属音と悲鳴の中、風きり音を上げながら、別の味方兵に迫るゴブリンに一本の矢が突き刺さる。

方角は兵士の背後からだ。ということは……

「……嘘……だろ?」

 幾人かの兵士は一瞬背後を振り返る。

彼らの絶望に染まった眼には、城壁の上で黒く輝く光が映った。

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