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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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開戦1

 巨人族タイタニアが合流した魔王軍は、歩兵に合わせながらも行軍を開始した。

10の距離を一跨ぎできる巨人にとって、森から王国までは直ぐなのだが、ゴブリンやオーガに合わせている為、その行軍は王国の予想の範疇に収まる。

王国へは約半日の時間を要するだろう。

草原を踏み鳴らしながら行軍する魔王軍の足が、地響きを起こした。


 王国内は喧噪に包まれていた。

騎士が大通りを駆け下り、武器や薬を抱えた商人が大通りを駆け上がる。

国に住む民は、それぞれ前もって決められていた避難場所へと走り出す。

 冒険者ギルドの団員もまた、招集をかけられギルドの前に集まっていた。

整然と並ぶ冒険者の前に、鎧を着こんだギルドマスター“グランド”が立つ。

彼は一つ咳払いをすると、揚々と声を張り上げた。

「冒険者諸君。あと半日もすれば魔王軍がこの国に攻め入ってくる。本来冒険者ギルドは国家間戦争には関わらないのだが、相手が魔族であれば話は別だ!」

 ネイノートのすぐ近くには、人の姿をしたサラシャとクラストが佇む。

ギルドマスターの立場から、そう言わざるを得ないことを理解している二人は、静かにグランドの演説を見守る。

「我々も兵として国王軍に混ざることになった!運悪く勇者は、討伐依頼を受け遠くまで出払っているが、そんなことは関係ない!彼無しでも!我々が脅威であることを、相手に知らしめてやろうではないか!」

彼の言葉に、冒険者は皆雄たけびを上げ、拳を天に突き上げる。

士気は高く準備は上々。冒険者たちは我先にと、門に向かって坂を駆け下りていった。


 今回の戦争は、魔族の侵攻を受ける形ではあるが、籠城戦ではない。

そもそも城壁と同じかそれ以上の高さを持つ巨人族がいるから、高い城壁が利点とは言い難い。

また、早馬を走らせ援軍要請を出してはいるが、彼の軍が現れてからまだ三日。援軍が来るのは早くてもあと十日はかかるだろう。

だからこそ城壁の外に兵を展開するという作戦が選ばれた。

王国軍は、時間が許す限り、何度も何度も確認しながら軍を展開していく。



 魔王軍の進軍、巨人族の出現を伝えた見張り兵は、再び見張り台に上っていた。

次の仕事は魔王軍の動向を探ることだ。

奴等はどう動き、どう戦うのか。それをいち早く察知することで、戦争をより有利に運ぶことが出来る。

勝敗に密接に関わる領域な為、兵士は血眼になって観察を続けた。

 定期的に報告に上がる見張り兵の連絡を吟味すると、魔王軍は巨人族を先頭に、東から全軍で突撃してくるだろう、ということだ。

魔王軍の大半は、ゴブリンとオーガの歩兵からなる。

その数は約三万。その膨大な軍勢を巨人族が率いている形だ。

苦戦は必至だろうが、しかしその行軍に高い知性は感じられない。

陽動や隠蔽、斥候といった、組織だった行動は一切無く、唯只管ただひたすら全軍で真っすぐ行進してくるだけだ。

それを聞いた王国軍は、可能な限り兵力を東に集める。数にして約二万。王国軍一万五千と魔族友軍五千からなる軍団だ。

つまりこの戦争は、魔王軍三万と王国軍二万の全面戦争という構図になる。



 グランドは、散り散りになる冒険者の中から、火竜討伐に関わった冒険者を呼び集めていた。

場所は王国の東門入口。そこに並べられたのは、ハワーズを始めとした火竜討伐隊。そしてネイノートが率いる風の翼だ。

 一同を見渡して、グランドは言葉を吐き出す。

「お前たちに頼みたいことがある」

その表情、その声音から、グランドの言葉を聞いた一同は嫌な予感を感じた。

「まさか……よね?」

ネイノートの隣でカノンカがぽつりと呟く。

 グランドの話は、皆の予想通りだった。

巨人族の足止め、出来る事なら無力化して欲しい、とのことだ。

その提案を聞いた皆は声を荒げる。

「本気か!?ギルドマスター!死ねといわれてるのと変わらないぞ!?」

これはロンダニアの言葉だ。

彼は開け放たれた門から見える巨大な影を指さし、ギルドマスターに迫る。

それに同意を示し、レシュノアとルルムスが頷いた。

「あんなものこんな人数でどうしろというのだ。それに敵は巨人だけじゃあないんだぞ?」

馬鹿馬鹿しい、と付け加え、レシュノアは背を向け去ろうとする。

だがグランドも諦めない。

「無理を言っているのは承知だ!だが……火竜を倒した君たちでなければ成しえないことなのだ!」

彼の気迫は本物だ。だが言葉には語弊がある。

 王国軍に組み込まれた冒険者の中には、A級冒険者も何名かいる。彼等は確実に、ハワーズよりも腕が経つ猛者達だ。

だがグランドは、その者たちではなくハワーズらを選んだ。なぜだろうか?

 その事をハワーズが尋ねるとグランドは説明で返した。

「冒険者は今、王国軍の意思に合わせ、幾つかの小隊を組んでいる。だが小隊とは名ばかりで、中身はパーティーの寄せ集めに過ぎない。他のチームと連携なんてしたことが無い連中ばかりだ。だからA級冒険者と、他のB級冒険者には、それぞれその小隊をまとめ、指揮して貰うことにした」

 確かに一見の者との連携は不可能に近いだろう。

かつてのウィンとカノンカのように、少数であれば誤魔化しも効くかもしれないが、小隊は五十にも及ぶ冒険者で組まれている。

僅か三日で、それだけの数の、戦闘力、魔法の種類、その他諸々を憶え、初めての実戦で連携を熟すなど、そうそう出来る事では無い。

 ならばせめて、優秀な戦士の下、命令を熟す兵士の軍団になったほうが幾分かましかもしれない。

そこまで説明してグランドは懇願の声を上げる。

「あの巨人が好き放題に暴れまわっては、我が王国軍の敗北は必至。他に頼める者がいないのだ!火竜を討伐したお前たちだからこそ!頼む!」

叫んだグランドはその立場を気にせずに頭を下げた。

会釈の深さでは無い。身体をほぼ直角に曲げる最敬礼。

その姿にはレシュノアも驚いた。

貴族の三男であった彼だが、公的場には何度も出ていた。貴族のパーティーに祭事場。国王への謁見もしたことがある。だが終ぞその姿を取る者は見た事が無い。

 グランドの取った行為からは『誠意』が滲み出ていた。その誠意が、レシュノアだけに限らず皆の心を打つ。


 ハワーズは一つため息をついて、静かに答える。

「ギルドマスター。貴方のような立場の人が、そんな姿を見せてはいけないでしょう?士気が下がってしまいますよ」

ゆっくりと頭を上げるグランドと目を合わせたハワーズは、颯爽と振り返る。

「皆よ!再び剣を掲げる時だ!恐れる必要は無い!巨人の力は火竜と同等。なれば私たちに敗北は無い!」

その場にいる者は、雄たけびを上げながら剣を抜き杖を構え、ハワーズと同じく天に掲げる。

 辺りを駆けまわる兵士からは歓声が上がり、口々に励ましの言葉が投げかけられた。

「頑張れよ!火竜討伐隊!」

「魔王軍に目にものを見せてやれ!」

「あんなでかぶつに負けんなよ!」

あるものは手を差し伸べ、あるものは肩を叩き、あるものは腕を組む。

 もはや皆に恐怖の色は無い。

あるのは轟轟ごうごうと内に燃え盛る闘志のみ。

彼らは武器を握り締め、それぞれ自身の持ち場へと駆けだした。


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