タイロン・ユーフォリー・ゴゾーディオの憤慨
タイロン・ユーフォリー・ゴゾーディオは薄明りに照らされた部屋で、二つの水晶を見つめていた。
その水晶には、先のゴーレムの戦いが映し出されている。その映像に集中していて気付かなかったのか、いつの間にか入ってきていた仮面の男が声を上げた。
忌々しい。まさかクリスタルウルフが同行しているとは……
いや……これは私の考え足らずだったか。妹とて今や魔族を率いる長。護衛も無しに行動するわけがないものな。
何度も見た映像を機械的に見ながら私は、次の手を考えていた。
「勉強熱心だねぇ」
いつの間に入室したのか、仮面の男が水晶を覗き込んでいた。
「……ノックくらいはするものだ」
「したけど気付かなかったんでね」
何が可笑しいのか、笑いながら仮面の男は答えた。
私の眼はいまだ、水晶に移る彼らの姿を追っている。
しかし、あの魔術師は一体何者なのだろうか。
白髪は『加護無し』の証である筈。人間の世界では違うのだろうか?それとも髪を染めているのか?ならば何とも策士なものだ。
ともかく、水と風、それもあれほど強大な魔法を使ったのだ。
ならば他の属性も使えると思ったほうがいい。今後の作戦に……
そこで私は仮面の男に目をやる。
「おい。何かあったのか?」
これまで奴は飄々とした態度をしていても、何かしらの用事がなければ姿を現さなかった。
だが今回は私の様子を見て、水晶を見て、それを楽しんでいるだけだ。
「いやぁ、なかなか思い切ったことをしたなぁと思ってね」
こいつは何を言っているのだ?私が一体何をしたというのだ。
彼らに会いに行ったことを言っているのだろうか?
いや……あれはこいつが提案してきたことだ。では一体……?
顔を顰めた私を見た仮面の男は、首をかしげる。
「あれ?王国へ軍を嗾けたんじゃないのかい?巨人がゴブリンやオーガを連れてったぞ?」
「なんだと!?」
机を叩き立ち上がる。
巨人族が!?兵を連れて王国へ!?そんなこと私は命令していないぞ!?
直ぐに配下に声をかけ、兵の確認をした。
すると一体しかいなかった巨人族、ゴブリンとオーガあわせて約三万が、勝手に進軍したのだという。
「申し訳ありません!制止の声届かず、またタイロン様の御命令といわれたので、何か考えがあっての行動かと……」
配下は跪いて頭を下げた。
この者に怒りをぶつけてもいいのだが、そうしたところで現状は打開出来ない。
すぐに何か手を打たなければ!
今から軍に合流するか?いや……本隊の準備が出来ていない状態だ。
三万の兵士は痛手だが、所詮はゴブリンとオーガ。今準備している軍に比べ強大とは言い難い。
必至に考える私に向かって、軽薄な言葉が投げかけられる。
「あらら、君の命令じゃなかったんだ。まぁいいんじゃないか?勇者は別依頼を受けてあそこにはいないし」
仮面の男はまさに『他人事』といった感じで、軽く言葉を連ねる。
巨人族は火竜と同等の力を持つ希少種だ。その力は絶大だが……
何とも暴走した者は扱いにくいものだ。火竜の時もそう。王国へすぐにブレスを放てばいいものを、あんな場所に巣なんか作りおって……
何故こうもうまくいかないのか!
苛立ちは募るばかりだ。
「タイロン様……?」
許しの言葉も叱責の言葉もないことに、疑問を持った配下が声を上げる。
「……すぐに北の山脈から下にある都市に、宣戦布告をかけろ。振りだけで構わん。せめて勇者だけでも足止めしてやろうではないか」
勇者が今どこにいるかは判らないが、王国が人間の住む領域の最東端の筈だ。ならば、あの都市より西にいるだろう。
魔王軍が攻め込むと知ればいくらか足止め出来るかもしれない。
理解の意を示し、配下はそそくさと立ち去る。
タイロンは暫し、現実逃避するため水晶に移る映像に集中する。
その様子を仮面の男は楽しそうに見つめていた。




