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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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七日目 過ぎ去りし平穏2

 暫しの沈黙の後、国王が口を開く。

「さて……今日はどのような要件だったのだ?なにやら火急の用とのことだが……」

その言葉を受けて、サラシャが一歩前に出ると、挨拶の言葉を述べた。

「お初にお目にかかります。国王様。私は“サラシャ・ユーフォリー・ゴゾーディオ”と申します」

ドレスの裾を持ち上げ、上品に一礼する姿ももはや見慣れてしまった。

彼女の一連の動作を見ていた国王は、ぽつりと呟く。

「……ゴゾーディオ……?」

先の魔王が名乗ったかはわからないが、どこかで聞いたといった感じに顔をしかめた。

必死に思い出そうとしているが答えが出ない。

何故ならそれは、わざと記憶から消した名前。

 サラシャは衛兵と国王を舐めるように見回すと、言い放つ。

「私は魔王の娘です」

その宣言に、辺りから衛兵が飛び出した。


 槍や剣を構えた兵士十数名に、グランドを含む全員が取り囲まれる。

さっきまでの和やかな空気が嘘のように、周囲は一触即発の緊張感が漂った。

その中でもサラシャは狼狽うろたえない。

今の彼女の眼に衛兵は映っておらず、只一点国王のみを見続ける。

 当の国王は、いまだ言葉を発せず。

国王の言葉が出ないことに、一人の衛兵が堪え切れず、武器を振りかぶる。

後は振り下ろすだけ。

その瞬間、国王の怒声が響く。

「静まれい!」

衛兵はぶるりと体を震わせると武器をしまい、元の位置へと戻っていった。

考えて行動したのではなく、反射的に行動したようにも見える。


 全ての衛兵がもとの位置に戻ったのを確認して、国王は一つため息をつくと口を開いた。

「配下が失礼をした。して魔王の娘よ。このようなところに何用だ?」

言葉自体は謝罪と質問。だがその声は先ほどの一喝同様、怒気が含まれている。

それも当然だろう。

先の戦争は人間にとって、魔族側から仕掛けてきたものであり、その被害は甚大だ。

十年の月日を経てなお、爪痕が残る地はまだまだ多い。

サラシャは国王の覇気に負けじと、声を張り上げ告げた。

「国王様。今一度、魔族が侵攻してきます」

その言葉は国王と衛兵の思考を奪うのに、十分な威力を持っていた。



 サラシャは何度目かになる説明を終える。

衛兵からは疑惑の目を向けられ、国王からもまた鋭い視線が向けられた。

だが彼女は頑なにその態度を崩さない。

「グランドよ。其方は魔族のその言葉を信じたのか?」

 自らのみでは判断しかねる、と感じた国王は、グランドへ言葉を投げかけた。

現在グランドは、いうなれば『国に仇成すものの間者』である。それだけで首をはねられる程の大罪人だ。

それを知っていながら彼は首を縦に振る。

「成程な……」

 重い静寂。

それを切り裂くのはやはり国王の役目だ。

悩んだ末、国王はサラシャを見つめ思いを吐き出す。

「恐らくその話。真実なのだろうな。唯の小娘が魔王の娘を語る利点など何もない。何よりグランドが信じておる。ゴゾーディオ……とは呼べんが……サラシャとやら、其方に問う。我々はどうしたらよい?」

衛兵の中にはいまだ、信じられない、といった表情をする者もいるが、国王はとりあえず理解の意を記す。

そして災いを回避する方法を問いかけた。

だが彼女の言葉は優しくない。

「申し訳ありませんが……戦争は免れません。直ぐに準備をするべきかと」

「そうか……また血が流れるのか……」

視線を逸らし、暗い顔をする国王は、昔を思い出したのか顔を歪ませた。


 あの戦争は酷いものだった。

最終的に勇者の力で勝ちはしたが、連合軍も半分の人間が命を落とす程だ。

またあの悲劇を繰り返してはならない。

悩む国王に、サラシャは声をかける。

「私たちも微力ながら力をお貸します」

「……『私達』、というのは?」

「復讐に囚われず、兄に感化されなかった、父の意思を継いだ者たちです。その数は兄の軍勢に遠く及びませんが、戦力としては十二分に活躍することをお約束します」

まるで打ち合わせをしてきたかのように、彼女の言葉と共にクリスタルウルフに姿を変えるクラスト。

 付き人の異変に衛兵は再び武器を構えるが、その姿がクリスタルウルフと分かると、武器を落とし小さな悲鳴を上げた。

「おお……おお!クリスタルウルフか!其方のような魔物が仲間とは!あぁ、すまない!魔族であったな。ともかく何とも心強いことだ」

クリスタルウルフの名はやはり伊達ではなかった。

国王でさえも、物語で語り継がれるその名に心を躍らせる。

「しかし……これほどの話だったのなら、何を置いてでも真っ先に聞くのだったな……そうすればもっと時間に、気持ちに余裕が出来ただろうに……」

それは後悔の言葉。

何気なしに発したその言葉は、状況を悪い方へと向かわせた。


 突如、謁見の間の戸を開けて兵士が飛び込んでくる。

兵士は息も切れ切れに大声で告げた。

「国王様!東の……東の森よりっ、謎の軍が現れました!」

その言葉に辺りはどよめきだす。


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