七日目 過ぎ去りし平穏1
ネイノートが新たな弓を手にしてから二日が経っていた。
サラシャがグランドに話を通してから七日目となる。
この日の早朝、ギルドの職員がネイノート達に召集をかけるべく、太陽と月の遊び場を訪問していた。
「お早うございます」
職員は一つ礼をして、来客を迎えたカノンカに挨拶をする。
「ギルドマスターより、風の翼一行様、サラシャ・ユーフォリー・ゴゾーディオ様、クラスト様にお声がかかっています。宜しければ直ぐにギルドへ来て頂きたいのですが……」
カノンカは頷くと、ネイノートと共に準備を始めた。
ギルド職員に連れられたネイノートとカノンカは、途中でロンダニアを拾い、サラシャ、クラストと共に、七日前と同様グランドの部屋に集まる。
部屋に入るや否や、部屋の主から声がかかった。
「国王様が謁見してくださるそうだ。これからすぐ向かうが大丈夫か?」
彼は身だしなみを整えながらそういう。
祭事用だろうか。いつもの鎧とは違って、綺麗に磨かれた白い鎧を着ている。
ドレスを着たサラシャ、紳士服を着たクラストの服装は兎も角、ネイノート達の服装はお世辞にも上品とはいえず、とても国王の前に出られるものではない。
しかしそれは貴族に限っての話。火急の話ということもあって、ネイノート達はこのまま向かうことになった。
ギルドが保有する馬車に乗り込み、第一商業区と第二商業区の間にある検問を超え、彼らは初めて王城に足を踏み入れる。
グランドが引き連れる一行は、謁見の間に通されていた。
衛兵に連れられて歩いた通路はとても豪華で、皆緊張していたように見える。
まるで全ての行動を見られているかのような錯覚を受け、借りてきた猫のように静かに歩くだけだった。
やがて大きな扉をくぐり、謁見の間に通された。
ネイノートの家がいくつも入る程広大な広間の中心に、真っ赤な絨毯が敷かれている。
その絨毯は少しの階段を経て、部屋の最奥に設置されている椅子へと延びていた。
今、椅子は伽藍洞で、国王の登場を待つのみとなっている。
暫く経ち待ち人は来る。
衛兵が膝をつくように声を上げると、一同はその言葉に従った。
赤い絨毯が視界いっぱいに広がる中、前方でゆっくと歩く靴の音が聞こえる。
長い時間をかけて続いた足音が止まると、微かな衣擦れと軋む音が鳴った。
恐らく椅子に座った時の音だろう。
「頭を上げい」
低い声が響いた。
一番前にいるグランドが頭を上げるのを感じ、ネイノートも頭を上げる。
椅子に座るのは、豪華な衣服に身を包み、金の装飾が施された王冠を冠る老人。
白く長い髭はよく手入れをされていて、椅子の傍らには小さな杖が立てかけられている。
「国王様。この度は私の我儘を聞いて下さり有難う御座いました」
グランドは使い慣れない丁寧な言葉を使いながら、再び頭を下げた。
その様子に一つため息をついた国王は呆れたように口を開く。
「よいぞ、グランド。お前のそのような姿は見たくない。いつものように気さくに話してくれ」
彼がいつも国王にどんな態度を取っているのか、少年には分からない。だが少なくとも、今の態度が気に入らないといった感じだ。
それを受けたグランドは苦笑いすると、衛兵の顔色を伺いながら国王に話しかけた。
「ご無沙汰しています。国王様」
「うむ。お主の噂は聞いているぞ。冒険者ギルド……なかなか活躍しているようじゃあないか」
先ほどの重い空気とは打って変わって、両者とも軽い口調で話し出した。
まるで自分もそのまま話に参加できるような気にさえなる。
それを察したのか、国王がネイノートに声をかけた。
「そこの少年が噂の『臆病者』じゃな……?魔物を連れていると聞いていたが、見ればなんとも見事なものだ」
その鳥が魔物であることを知っていながら、王が最初に出した言葉は賞賛であることに、ネイノートは驚いた。
恐れることも無く、堂々とした態度に、彼は王の器の大きさを知る。
「……ガルハンドの子というのは本当か?」
弓を持っているからなのか、どこかで聞いたのからなのかは分からないが、ネイノートは国王のその言葉に驚き、頷いた。
「そうか……ガルハンドには悪いことをしてしまった。王国を出て森に籠ったと聞いたが、その後はどうだ?」
「小さい頃、俺を魔物から庇って死んでしまった」
ネイノートの言葉遣いに衛兵が反応したが、国王はそれを制しながら落胆の表情を浮かべる。
「……すまなかった」
「国を出なければならなかった理由は知っている。父が死んだのも俺が馬鹿をしたせいだ。国王が気に病む必要は無い」
部屋にいる皆が驚いた。
国の王が謝罪をしたことに、その謝罪を受けぬことに、そして敬う言葉を使わない少年に。




