五日目 新たな武具
ネイノートが風羽根の首飾りを貰った日から、二日が経った。
皆朝食を取り終え、食休みの時間を楽しんでいる。
そこにクロツチの姿は無く、彼は今も工房に籠ったままだ。
少しして、解散しようと皆が立ち上がる頃、大声を上げながらクロツチが階段を駆け上がってきた。
「おい!ネイノート!やっと出来たぜ!」
手に持っているのは、これまで見たことも無い真っ黒な弓。
日の光を浴びて光沢を放つそれは、魔法人形の体から採取した『魔鉱石』を使用した弓である。
魔鉱石は魔力を多く含む為、唯の鉱石では無く魔法石の類に近い。
それ故、熱したり槌で叩くだけでは駄目で、魔法を用いた特殊な精製法が必要となる。
彼等の運が良かったところは、その精製法を知る魔族、“サラシャ”と“クラスト”が仲間になっていたことだろう。
魔鉱石から抽出された『魔鋼鉄』は、普通の鋼鉄よりも頑丈で、柔らかく、衝撃の吸収性も高い。
これを使った武具は、どれも一級品の出来になるが、その希少性は火竜の素材を超える為、人間の中では存在を知らない者も多かった。
クロツチが掲げる黒い弓は、弦以外を、その希少な魔鋼鉄を使って作られた弓となる。
弓としての大きさはこれまでで一番大きく、また、シェルクラブの弓と同じで、本体と垂直に三本の支柱が付いていて、同時に三本の矢を放てるようになっていた。
クロツチは弓を手に説明を始める。
「こいつは『魔鋼鉄の弓』だ。抽出が難しかったが、ほぼ魔鋼鉄で出来ている。こいつは超遠距離用で、弓の上下に魔鋼鉄で作った特殊なばねが仕込んであるんだ」
言葉通りに視線を動かしたネイノートの眼には、確かに、弓の弦をかけているところに黒いばねを確認出来た。
ネイノートは手渡された弓を少し引き絞ってみる。
「この弓は、弦が完全に引き絞られた時にばねが伸びて、追加で引き絞ることが出来る。矢を放つ時、そのばねが戻る力を利用して、射程距離と威力を大幅に強化することが出来た」
少年は、ばねが動かないように弦を最大に引き絞る。
この時弦を引く手は、一般の弓を最大に引く時よりも後ろに下がらない。
魔鋼鉄の高い伸縮性のおかげで、ばねを使用しなくても、他の弓で完全に引き絞った時と同程度は飛ぶようになっていた。
このまま放っても強力そうだが、そこから更に力を込めて引くと、ばねが軋み手が後ろに下がっていく。
相当な力の要り様にネイノートの顔が強張った。
弓の感触を確かめるネイノートに向けて、クロツチが更に詳しく説明をしていく。
「これまでの弓の射程距離は、100から200、風にうまく乗れば300の距離といったところか?その点その弓を使えば十倍は伸びる予定だ。1000から1500……もしかしたら2000の距離も届くかもな」
自らが作った弓の性能を自慢するように、クロツチは腕を組んで高笑いを上げた。
射程距離1000超。
その射程距離は、かつての戦争時に、弓兵団が使っていた弓を遥かに超える距離だ。
当時使われていた弓は、威力と射程距離に重点を置かれた弓なのだが、魔鋼鉄の弓は、それを優に超える射程距離と精密性を合わせ持つ。威力も申し分なさそうだ。
更に言えば、一般で使われる銃よりも射程は長い。
この世界の銃は、もともと魔法の力を利用している為、射程、威力共に、勇者の世界で使われる同系統の物よりも性能が良い。
しかしそれでも500の距離がいいところだろう。
この数字は、人間に十分な致命傷を与えられる距離であり、弾を飛ばすだけなら1000の距離も可能かもしれないが、その場合殺傷する程の威力が出ない。
新しい弓を手に入れたネイノートは、嬉々として外に飛び出した。
これまで手に入れた三つの弓を使いまわし、使用感を確かめる。
その日はギルドの訓練場や、遊び場の裏手にある庭で新たな弓を幾らか試した。
魔鋼鉄の弓の、ばねを使わない時の使用感覚は、シェルクラブの弓に近い。扱いに慣れればほぼ上位互換となるだろう。
その為ネイノートは、今使っているシェルクラブの弓を、ロンダニアに譲ることにした。
E級冒険者からのおさがりということだが、ロンダニアはそれをとても喜んだ。
何故なら彼は、火竜の素材、魔鉱石も全て、防具に費やしていたからだ。
弓はネイノートが、剣はカノンカが、それぞれ優秀な素材を用いた物を持っているので、同じ道を辿っては周りに与える印象が薄れてしまう。
その為ぱっと見て、一番派手に見えるであろう鎧や盾に重きを置いた。
ロンダニアの考えはとても上手くいき、見事な鎧を着こんだ彼が歩くだけで、町の人々の視線を集め、冒険者は感嘆符を漏らす。
噂が人伝に伝わり、ロンダニアの名は瞬く間に広まっていった。
その代償として、武器を強化する程素材が残らず、頭を抱えることになっていたのだが、ネイノートの提案により、ある程度の武器も用意することが出来た。
それから風の翼一行は、それぞれ技術を磨くことに集中する。
ネイノートも時間があれば弓を握り、己の力を鍛える時間を取った。
彼の背中にはノゼリエ手製の帯が付けてあり、魔鋼鉄の弓の中に、火竜の弓が収まるようになっている。
不測の事態に備え、実際に持ち替えながら、ネイノートは時間を惜しんで研鑽に励んだ。




