二日目 買い物
サラシャ達がやってきてから二日目。
ネイノートとカノンカは第二商業区の大通りを歩いていた。
他に同行する者はおらず、ウィンも今は部屋で昼寝を楽しんでいる。
人が多く行き交う大通り。
その喧噪の中、二人は並んで出店を物色する。
鉄の剣に鉄の斧。
全身鎧に鉄製の胸当て。
高価だが魔法弾が打てる銃も見ることが出来た。
色気がない品ばかりなのは、冒険者であるからだろうか。
カノンカはその中に欲しい物を見つけても、買うことは出来ない。
先の魔法人形との戦いで使った、緑の魔法石。
彼女の全財産の殆どは、その石を買うために使ってしまった。
カノンカはまた一つ、良さそうな首飾りを見つけてはため息をつく。
ネイノートは、目新しいものを見つけては喜び、でも意気消沈し買わずに去るカノンカを見て不思議に思っていた。
彼女とはこれまで長い間一緒にいたが、何故これほど自分と行動を共にしてきたのか。
彼女も『加護無し』といわれ、蔑まれてきたのだろうが、少年の頭で考えられる全ての事を当てはめても、『臆病者』と共に行動する理由としては、割に合わずいまいち納得出来ない。
それでも彼女は今、ネイノートに笑いかけながら、楽しそうに買い物をしている。
二人が足を止めたのは、ある宝石店だ。
出店の形をとっていて、店の両側には護衛らしき屈強な男が二人立っている。
「いらっしゃぁい」
店主は年老いた女。まるで絵本に出てくる魔女のようないで立ちだ。
カノンカはその宝石店を見るなり、ある一点に視線を奪われた。
ネイノートも視線を追ってその石を見つける。
「おやぁ。お目が高いねお嬢さん。そいつは縁結びの宝石さ」
店主が指したのは、四角く加工された血のように真っ赤な宝石。
くすみやひび割れなども無く、見るからに高級品だ。札には値段と『ルーンフォスの宝石』と書いていた。
カノンカは頻りに財布を見ては宝石に目を落とす。
正に欲しいけど買えないといった感じだ。
落胆するカノンカを見たネイノートは、自身の財布にいくら入っているかを思い出し、その宝石を手に取る。
「こいつをくれないか?」
老婆は満面の笑みで、カノンカは驚きの顔でネイノートを見た。
「ほほっ、格好いい彼氏さんじゃあないか。折角じゃから少し負けてやろうか」
そういって老婆は高級そうな箱にその宝石をしまう。
差し出された包みを受け取ったネイノートは、自身の財布から言われた金額を差し出し手渡す。
「ほい、確かに。毎度どうもぉ」
老婆が頭を下げると同時に、店の両脇に立つ強面の男たちも頭を下げた。
店から少し離れた脇道で、ネイノートはカノンカに宝石の入った箱を手渡した。
「ほら」
「……へ!?」
箱を受け取ったカノンカは間抜けな声を出し慌てふためいた。
彼女は、宝石を追う視線が見られていたとは露知らず、ネイノートが欲しくて買った筈の宝石を渡されたと思い驚いたのだ。
困惑するカノンカに向けて、ネイノートが口を開く。
「お前にはこれまで助けられっぱなしだった。ブラッドウルフ、オーク、火竜、そしてこの間の剣士とゴーレム。どいつも俺一人じゃ無理だっただろう。だから……その……これまで一緒にいてくれたお礼だ」
多少顔を紅潮させつつもネイノートの表情は崩れない。
恐らく深い感情はないのだろう。言葉通り、感謝の気持ちだけかもしれない。
だがカノンカは違う。
ブラッドウルフで助けられて以来、彼女の心はネイノートに少しづつ傾いていった。
好きな相手からの贈り物だ。嬉しくない筈が無い。
「あ……ありがとう、ネイ君」
カノンカは手の中にある箱を開けると、中から綺麗な宝石を取り出す。
それを優しく撫でるとだらしのない顔をして笑った。
ネイノートはそれを見て、そんなに欲しかったのか、程度にしか思わない。
彼女の心が少年に伝わるのはいつになることか……




