表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病者の弓使い  作者: 菅原
70/119

一日目 ギルドマスターの説得

 現在、ネイノート達は王国に戻ってきていた。

魔法人形ゴーレムの体は、貴重な『魔鉱石オブシド』という鉱石で出来ていて、東の山の向こう側にしかないという。

なので可能な限り持ち帰り、クロツチの下へ届けた。

運搬にはソーセインが尽力してくれた。

ネイ君の為です、と胸を叩いた彼の姿を、ネイノートは忘れないだろう。

 ネイノートは、自分に分配された『魔鉱石』をクロツチに渡して、新たな弓の作成を頼んだ。

鉱石を持って工房に入った彼は、暫くすると部屋から出てきてネイノートに愚痴る。

「あの鉱石は実に厄介だな。鍛冶師だけではどうしようもない。ノゼリエがいてくれて助かったぜ。凄い奴を作ってやるから、もう少し待っててくれや」

クロツチは笑いながらネイノートの肩を叩いくと、再び工房に入っていった。


 サラシャとクラストは暫し、太陽と月の遊び場に居を構えることになった。

ノゼリエがカノンカの部屋へ、クロツチがネイノートの部屋へ入り、ノゼリエの部屋をサラシャが、クロツチの部屋をクラストが使用している。

 彼女らが何処へ泊るか、という話が出た時、サラシャは当たり前のようにネイノートの部屋を望んだ。

勿論カノンカとノゼリエは止めに入るが、クロツチは面白そうにはやし立てる。

「あら、ウィンさんが魔物の姿でネイノートさんと一緒にいるのなら、私たちも魔物の姿であれば問題ないのでは?ウィンさんも女性ですし……」

彼女のその言葉に猛反発したのはカノンカだ。

両者の主張を聞き、ノゼリエ、クロツチと相談した結果、折衷案として現状に落ち着いたのだった。



 翌日朝食後、一同は居間に集まっていた。

席数はいつもの数より二つ多い。

皆が揃っていることを確認すると、ネイノートは椅子から立ち上がる。

「サラシャの要望を通す為には、ギルドマスターに話を付けるのが一番現実的だと思う」

その言葉にカノンカ、クロツチが頷いた。

 グランドは貴族名を持っている。

ネイノートが声をかけられる唯一の貴族だろう。

……彼にはもう一人、傲慢な態度を取る貴族が思いだされた。

 彼、“レシュノア・C・カエンスヴェル”のほうが、グランドよりも貴族としては格が上である。

ましてや貴族名の“C”とは、上級貴族の証だ。

話が通じれば一番すんなり事が運ぶだろう。

だが彼とは会っても話にならない。

それどころか魔族である彼女らを合わせては、何をしてくるか分かった物ではない。

悪戯に状況が悪化する未来しか見えなかった。

ネイノートはそう考え、頭の端に浮かんだ彼の名と顔を振り払う。

 少年の提案を受け、サラシャは小さな手を顎に当てて唸った。

「そのギルドマスター様が、この国の王に合わせてくださるのですか?」

カノンカがサラシャに、グランドの人物像を伝える。

それに加え王国の貴族制度についても少し話をした。

「成程、貴族様ですか……」

「ただ、ギルドマスターの貴族名は“F”だ。貴族の中で特別立場が高いわけじゃあないから、直ぐにとはいかないだろうよ」

クロツチの言葉に、納得した、と二人は頷く。


 その日の午後、風の翼はサラシャ、クラストを連れて、冒険者ギルドに来ていた。

カウンターに立つ職員に話を付けると、何度目かになる二階にある一室に通される。

 ネイノートは戸を叩き、グランドの返事を聞くと戸を開けた。

もはや嗅ぎ慣れた甘い匂いを感じながら、椅子に座るグランドの前に立つ。

「おぉ、風の翼の。今日はどういった要件だ?なにやら火急の用らしいが……」

彼の言葉を遮るように、サラシャが一つ前に歩み出る。

見知らぬ少女の登場に息をのむ音が聞こえた。


 サラシャは上品にスカートの裾を持ち上げ、会釈をすると口を開く。

「お初にお目にかかります。私は“サラシャ・ユーフォリー・ゴゾーディオ”と申します。こちらは私の付き人“クラスト”です。今回は私共の我儘を御聞き頂きたく参りました」

「これはご丁寧に。冒険者ギルドのマスターをしている、“グランド・F・バロッセア”だ。貴族名でない処を見ると、他国からの旅行者……ですかな?私に出来る事なら力になりましょう」

 サラシャの挨拶に返すように、椅子から立ち上がったグランドは上品に頭を下げた。

彼には似合わない仕草だったが、ネイノート達に笑っている余裕はない。

ただ黙って二人の会話に聞き耳を立てる。

「そんなところです。では早速ですが、グランド・F・バロッセア様。単刀直入に申し上げます。この国の王にお口入くちいれして頂けませんか?」

その言葉にグランドは、目を見開き驚く。

 王への謁見。

それは王国内でも、C以上の上級貴族に許される行為だ。

勿論話の内容によってはその限りではないだろうが、ここ数年でD以下の貴族が謁見出来た事は無い。

ましてや、相手は旅行者だ。

到底無理な話だろう。

「……要件を……お聞きしても?」

 グランドの顔が若干険しくなる。

(ネイノートめ、また厄介事を持ってきたか……)

彼はサラシャの背後で立つ、緑の少年をじろりと睨んだ。


 狼狽えるグランドとは打って変わって、サラシャは毅然きぜんとした態度で口を開く。

「近々、魔族からの侵攻があります」

その言葉に彼は目を見開き、少し蹌踉よろけてしまうほどの衝撃を受けた。

「なんだと!?……っ、失礼、それは……本当の事なのか?」

 魔王が倒れて以来、魔族も魔物も鳴りを潜めている。

両者がいなくなった、というわけではないが、それでも戦争当時より遥かに少ない。

グランドもまだ三十を超えたばかり。

当時の記憶はまだまだ新しい。

 サラシャとクラストが視線を合わせると、彼は風の翼に見せた時と同様に、クリスタルウルフへと姿を変えた。

「……!クリスタルウルフだと!?」

グランドは驚愕の声を上げるも、咄嗟に腰の武器を握り、眼前の狼に切りかかる。


 ギイィィン!


 両者の間に入り、剣を受けとめたのはネイノートだ。

クラストは全く動く気配は無く、振り下ろされる剣をただじっと見ていた。

弓で剣を受けとめたことに驚きつつ、グランドは声を荒げる。

「ネイノート!?なぜ庇う!」

「ギルドマスター!話を聞いてください!」

カノンカの叫びに、ある程度の冷静さを取り戻した彼は、警戒を解かずに剣を収めた。

 グランドは忌々しそうに、静かに佇むクリスタルウルフに語り掛けた。

「ピクリとも動かないのだな。私の剣は避けるに値しないというわけか?」

「……もとから避ける気など無い。我らは争いにでは無く、話し合いに来たのだからな」

やはりクラストも毅然とした態度を貫く。

当たり前に会話が出来ることに、グランドの思考が固まった。

精々頷かれるくらいだと思っていたのだ。

 グランドはかつて、ネイノートとカノンカが言っていた、人語を操るクリスタルウルフの話を思い出していた。

(まさか……本当だったとはな……)

実物を見ては、納得せざるを得ない。

それから彼は人が変わったかのように物分かりが良くなる。


 サラシャは全てを話す。

話の最中、驚きながらもグランドは最後まで黙って話を聞いていた。

全てを聞いた彼は暫く考えを反芻し、やがて結論を出す。

「分かった。国王様に話してみよう。緊急事態といえば何とかなるかもしれん。そして……ネイノート、カノンカあの時は信じてやれなくて済まなかったな」

「えらく物分かりがいいんだな」

 直ぐに納得してくれて助かったが、ネイノートとしては、余りにもすんなり行き過ぎている気がして、気持ち悪い、というのが本心だ。

ロンダニアはあれだけ取り乱したというのに、なんと静かなこと。

これが器の違いという物だろうか。

 グランドは混乱している頭を正すように、数度頭を振るとネイノートに向き直る。

「ネイノート達は信じているのだろう?彼女らを。ならば今度こそ……私も信じるさ」

彼は笑顔を作ると、職員を呼び出し、直ぐに王城への伝令を走らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ