ゴーレムとの闘い2
魔法人形の腹部にあった青い光を放つ球体。
そこから大量の水が湧き出て、金属の体を取り込みだした。
その姿はまるで、粘液で出来た『スライム』の集合体のようにも見える。
絶えず攻撃を仕掛けていたカノンカの剣撃、ネイノートとロンダニアの矢は、体表の水に阻まれ、胸の傷まで届かない。
更にはウィンの風刃も、水の鎧を通り抜けることは出来なかった。
「あんなこと出来るなんて……まさか上級精霊!?あいつこんな奴まで!」
サラシャの声が焦りを含む。
水の鎧を着た金属の体はほぼ全ての物理攻撃を無効化する。
もはや魔法剣も弓矢も効かないだろう。
ウィンの風魔法をも防ぐその防御力は、並の攻撃魔法でも歯が立たない。
しかし通用しないからといって、攻撃の手を休めることは出来ない。
カノンカは注意を引くために、ネイノートとロンダニアは、他に有効な個所はないかと、手当たり次第に攻撃する。
その結果、注意を引くことには成功するが、弱点は見つけることが出来なかった。
痺れを切らしたロンダニアは声を上げる。
「サラシャさんは攻撃魔法は使えないのか!?」
彼女は魔王の娘であり、あれほど強力な防御魔法を操る。
ならば何か有効な魔法があるのでは……そう思ったロンダニアの考えは少し甘かった。
「簡単な魔法なら使えますが……私が得意なのは防御魔法なのです。あの防御力を突破できる魔法は使えません……」
サラシャは申し訳なさそうに追加で防御魔法を放つ。
何か手はないのか。
カノンカとウィンが注意を引いている間に、ネイノート、ロンダニア、サラシャは思考を高速化する。
だが一向に打開策は浮かばない。
(クリスタルウルフが戻ってくるのに期待して持久戦に……)
ネイノートがそう考え始めたその時、カノンカが声を上げた。
「私に考えがあるの!ロンダニアさん!前お願いします!」
呼ばれたロンダニアは剣を持って駆け出す。
前衛が三人になったことで、少し余裕ができたカノンカは懐から何かを取り出した。
それは緑色に輝く魔法石だ。
意図を察したロンダニアがゴーレムに切りかかると同時に、カノンカは後方に大きく跳んだ。
彼女は少し離れたところで、剣で手のひらを切る。
真っ赤な血が流れ、地面に赤いしみを作った。
それを見たネイノートは、火竜の弓を手にしてゴーレムに向かって駆け出す。
「ウィン!カノンカと一緒に魔法の準備を!サラシャも手助けしてやってくれ!」
言葉を聞いたウィンとサラシャは、カノンカの傍まで移動する。
ネイノートは矢を番え、態とゴーレムの顔辺りを狙い撃ち注意を引き付けた。
ゴーレムの体表にある水は、傷口の近くに多くまとわりついていて、治癒魔法がかかっているのか、傷口はさっきよりも小さくなっていた。
代わりに拳の辺りは水はついておらず、魔鉱石がむき出しになっている。
その為攻撃力に変わりは無く、一つでも真面に貰えば無事ではいられない。
タイロンの命令か、将又顔を狙ったことに怒ったのか、ゴーレムはネイノートを見た瞬間動きを変えた。
攻撃は相変わらず殴る一辺倒なのだが、その回転速度を上げる。
巨大な腕の連打がネイノートを襲った。
彼は素早い動きで腕を躱し、英雄の盾で勢いが衰えた拳を、火竜の弓で受け流す。
風の音が耳元で鳴り響き、身体的なダメージは少なくとも精神はどんどん削られていった。
(火竜の時、レシュノアはこんな気持ちだったのだろうか……ならば腰の銃に手を伸ばすのも分からなくはない)
いつ終わるとも知れない攻撃に、気持ちを折ることなく、最小の被害で躱し続ける。
乱打を寸でだが全て捌くと、ロンダニアと共に、注意を引くために再び矢を放つ。
比重はネイノートよりだが、前衛の二人しか狙わないゴーレムは、辺りが緑色の光で満たされ、漸くそれを認識した。
二人の人間と小さな鳥。
その間にある恐ろしく圧縮された魔力の塊を……
緑色の魔法石にカノンカの血が滴る。
その瞬間。
火竜の時と同じく、頭の中に声が響いた。
『やっと僕の声が届いたんだね……いいよ、力を貸してあげる』
火竜の時よりもはっきりとした声。
その声が奏でる歌を復唱する。
『汝、全てを吹き飛ばす無限の刃なり』
「汝、全てを包み込む無限の盾なり」
『精霊の力よ、我が身に宿れ』
「我が身に宿りて彼の者を切り裂け……風の聖霊よ!」
握りしめた魔法石から緑の光が零れると、カノンカの真っ白い髪を鮮やかな緑に染める。
その光は更に輝きを増し、ウィンとサラシャも飲み込んだ。
「これは……ウィンさん!重唱を!」
咄嗟にウィンは魔力を練り、カノンカの魔法を真似る。
サラシャもまた、補助魔法を唱え魔法を正しい方向へ導く。
そして強力な魔法が放たれた。
「第四節詠唱魔法!超高速風流斬!」
名前と共に現れたのは、緑色の透明な羽根。
まるでカノンカから抜け落ちたと思わせる羽根は、背後からの風を受け、ゴーレムの方へと向かう。
その羽根は高速で流れる風の集合体だ。
羽根はゴーレムの体にぶつかると、水を、身体を、何かに引っかかるでもなく、まるでバターのように両断した。
見る見るうちに小さく切られていくゴーレムは、やがて青い輝きを無くし、唯の魔鉱石に戻る。
ゴーレムの動きが止まったことを確認すると、サラシャはカノンカに微笑みかけた。
「まさか、第四節詠唱魔法まで使うなんて……凄い力でした。カノンカさん」
サラシャはカノンカを賞賛し、ウィンの事も褒めながら羽根を撫でる。
カノンカは魔力を大量に消耗したが、二人の助力もあって気絶するには至らない。
ネイノートとロンダニアもところどころ傷だらけだが、ブラッドウルフの時よりも軽傷で、身動きが出来ないといったことも無い。
激闘を終え、少々の気だるさを噛み締めていると、クラストの声が響いた。
「おお!ご無事でしたか!」
声に振り向くと、クリスタルウルフが、真っ二つになったゴーレムの上半身を地面に置いて、サラシャに擦り寄っていた。
一同はその場にへたり込み、熱くなった息を吐く。
ソーセインがいてくれたおかげで、戦いの後始末は円滑に終わった。
ネイノートが顔を顰める重量でも、彼は軽々と持ち上げ運ぶことが出来たお陰だ。
後片付けも終わり、皆が、やっと寝られる、と思った時、眩しい朝日が辺りを照らし出した。
その場にいる全員が一様に目を細め、大きなため息をつくのだった。




