タイロン・ユーフォリー・ゴゾーディオの思案
黒衣の剣士“タイロン”は、真っ暗な森の中を恐ろしい速度で駆け抜ける。
既にネイノートの家から1000の距離(1キロメートル)程離れていた。
タイロンは十分離れたことを確認すると、徐々に速度を落としやがて止まる。
これだけの距離を走ったにもかかわらず、彼は息切れ一つ起こしていないようだ。
音も無き森の中で、彼は手を顎に当て一人呟く。
まったく、面倒なことになったものだ。
まさか妹が出てくるとは。
こんなことなら映像だけで我慢しておくのだったか。
だが無理してでも戦った意味は大いにあった。
火竜の素材を使うことは予想していたが、あそこまでの業物を用意するとは思わなかったし、弓で剣を受けられた時は思わず声を上げそうになる程度には驚いた。
更にはあの小鳥がインペリアルホークとは、なかなか厄介な奴に進化したものだ。
火竜程の戦力は我が軍にも多くはない。
事は慎重に進めねばならないな……
しかし……私の作戦の障害になる存在だというに、あの少年は実に興味深い存在だ。
弓に関する知識は新たな発見ばかり。
この短期間で仲間も増えていたし、終には妹も目を付ける始末。
私自らの手で命を奪えれば安心できたが……今魔王の存在が人間に知られることの方が危険だ。
妹から話が出るかもしれないが、阻止しようにも、あれだけの数を相手にするのは正直骨が折れる。
一人では何も出来ない癖に、誰かとつるむことで格段に力を発揮するような奴だ。
負けはしないだろうが……大事の前に怪我でもしたらそれこそ馬鹿馬鹿しい。
それに、放置していても問題は無いだろう。
人間が魔族の話を馬鹿正直に信じるとも思えん。
仮に、全てが悪い方に流れてばれてしまったら……その時はその時だ。
結局のところ、今回は本当に顔を見せただけとなった。
だが、とりあえずではあるが、あの者たちの力を直に見ることが出来て良かった。
一人情報の整理をしていると声が聞こえた
「魔王様……」
掠れた低い声。
私の部下の魔族だ。
「おお、お前か。それで例の物は持ってきたか?」
「確かにこちらに」
全く……頭は恐ろしく切れるのに、相変わらず声だけは小さく聞き取りにくい奴だ。
私は指を二本立て、部下に指示を出す。
「ならば用意を頼む。そうだな……水と風にしよう」
あの白髪の娘は、火竜を水魔法で倒した筈だ。
ならば水に耐性のある物が必要だろう。
更にインペリアルホークには、同属性の風をぶつければ問題あるまい。
「二体も……ですか?」
何か思うことがあるのか、部下は驚きの声を上げた。
「ああ、念には念を、とな。いけないか?」
「そんなことはありません。何体か控えもありますし、後の製造も安定しています」
言い終えると奴の気配が薄くなり、二つの影が現れる。
真っ黒な闇の中に、魔力を多分に含んだ鉱石『魔鉱石』の素体が二つ現れた。
それからいくらも置かず、素体の足元に魔法陣が現れる。
青と緑のそれは輝きを増し、辺りを白に染め上げると光を無くす。
これは召喚魔法である。
素体に精霊を召喚付与することで、魔法人形を作り出したのだ。
これなら奴等にも勝てるだろう。
もしやられてしまっても別に構わない。
その力はまた映像として残るのだ。
これからの作戦に大いに役立つだろう。
二体の魔法人形は唸り声をあげ、タイロンが来た道を引き返す。
残ったのは計画が順調に進むことに気を良くした魔王の息子。
彼の失笑は、静まり返った闇の中に木霊する。




