魔王の真実
サラシャは誰に聞かれるでもなく全てを話すことにした。
ネイノートの下に集う彼等は、そうするに値する人間だと信じたのだ。
「先ほど貴方方を襲ってきた剣士。あれは、私の双子の兄です。名前は“タイロン・ユーフォリー・ゴゾーディオ”。復讐に囚われた愚かな……魔王の息子です」
その言葉にネイノート達が驚愕したのは言うまでもない。
魔王の子供……王国に限らず人間の中にその存在を確認した者はいない。
というのも、勇者から魔王討伐成功の報せを受けた事で、全て解決したと連合軍は思い込み、その可能性を誰も考えはしなかったのだ。
サラシャは当時の光景を思い出す。
倒れた父の姿を、泣き叫ぶ兄の姿を、そして無力だった自分の姿を。
彼女は気丈に保ってきた顔を思わず崩した。
その変化に気づいたのはクリスタルウルフだけ。
彼もまた少し表情を歪めたが、それに気づく人はいない。
「父の願いは人間との和平でした。いつかまた、人間と手を取り合い、争いのない平和な世界を作る。それが父の願いだったのです。ですが父の配下はそうではありませんでした。長きに渡り恐れられ、蔑まれてきたのに、わざわざ遜ってまで助け合うような関係など必要はない。滅ぼしてしまえ。その傲慢な考えを持つ一部の魔族が、勝手にあの戦争を引き起こしてしまったのです。勇者が現れた時、父は必死に誤解を解こうとしましたが、勇者は聞く耳を持たず、無抵抗な父を……」
尻すぼみに小さくなる声を隠すように、サラシャは手を口に当てた。
配下による暴走が、戦争の引き金だと彼女は語る。
そして戦争が多くの魔族を感化させ、多くの魔族が復讐軍と成り下がったのだ、と続けた。
もし反乱因子を特定できていれば、もし勇者が話を聞いてくれていれば、もし……あの時私に戦う力、守る力があれば……サラシャの頭の中では、いつもそんなことばかり浮かんでくる。
だがもう現実として起きてしまったことだ。
『もし』なんて考えても何も変わらない。
起きてしまった悲劇に悲しんでばかりもいられない。
彼女もまた、父の為に気丈に振る舞う幼き子供なのだ。
故に彼女は悲しみに暮れる前に、やらねばならないことがある。
「言い訳をするつもりはありません。あの戦争は私達魔族のせいで起きました。申し訳ありませんでした」
ドレスが汚れるのも気にせず、サラシャは地べたに座り、深々と頭を下げた。
その横では、クリスタルウルフの姿をしたクラストも頭を下げている。
その行為は、ネイノート達の恐れ、怒りを吹き飛ばす程の力があった。
遠巻きに見れば、異様な光景だったろう。
貴族令嬢と伝説の魔獣が、世間では侮辱対象である弓使いに対し、頭を下げているのだ。
その理由を知るのは当事者だけ。
「はぁ……よしてくれないか。ここで頭を下げたところで何も変わらないだろう?それとも、会う奴会う奴全員に頭を下げる気か?」
ネイノートの言葉に、サラシャはおずおずと頭を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
そしてドレスについた土を掃うこともなく、中断していた話を再開する。
「魔王が勇者に倒された時、兄は、勇者と王国への復讐を誓いました。そして兄と同じく、人間を憎む魔物が多く集った魔王軍は今、膨大な兵力で王国を攻め落とそうとしています。私の力及ばず、事前に防ぐことはで出来ませんでした。ですがせめて、このことを人間の王に伝え、どちらの被害も出来る限り少なくしたいのです」
サラシャは言葉を重ねるうちに熱を帯びていく。
その熱は周りに伝播し、一同の眼には強い決意が見て取れた。
静まり返った中、ウィンはネイノートの肩に乗ると一つ鳴く。
すると皆の視線がネイノートに集まった。
もはやそこに懐疑の眼は存在しない。
喚き散らしていたあのロンダニアですらだ。
少年は一つため息をつき、静寂を切り裂く。
「……方法はあるが、確かではない。むしろ確率は低い方だろう。それでもいいなら力を貸そう」
その言葉を聞いたサラシャは目を見開き、感謝の言葉を連ねた。
それぞれが改めて自己紹介をし、彼女の話の全てが終わる。
話を終えた一行は少しの雑談を交えながら、夜を明かす準備をする。
だが……まだまだ長い夜は終わらない。




