表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病者の弓使い  作者: 菅原
66/119

魔王の真実

 サラシャは誰に聞かれるでもなく全てを話すことにした。

ネイノートの下に集う彼等は、そうするに値する人間だと信じたのだ。

「先ほど貴方方を襲ってきた剣士。あれは、私の双子の兄です。名前は“タイロン・ユーフォリー・ゴゾーディオ”。復讐に囚われた愚かな……魔王の息子です」

その言葉にネイノート達が驚愕したのは言うまでもない。

 魔王の子供……王国に限らず人間の中にその存在を確認した者はいない。

というのも、勇者から魔王討伐成功の報せを受けた事で、全て解決したと連合軍は思い込み、その可能性を誰も考えはしなかったのだ。


 サラシャは当時の光景を思い出す。

倒れた父の姿を、泣き叫ぶ兄の姿を、そして無力だった自分の姿を。

 彼女は気丈に保ってきた顔を思わず崩した。

その変化に気づいたのはクリスタルウルフだけ。

彼もまた少し表情を歪めたが、それに気づく人はいない。

「父の願いは人間との和平でした。いつかまた、人間と手を取り合い、争いのない平和な世界を作る。それが父の願いだったのです。ですが父の配下はそうではありませんでした。長きに渡り恐れられ、蔑まれてきたのに、わざわざへりくだってまで助け合うような関係など必要はない。滅ぼしてしまえ。その傲慢ごうまんな考えを持つ一部の魔族が、勝手にあの戦争を引き起こしてしまったのです。勇者が現れた時、父は必死に誤解を解こうとしましたが、勇者は聞く耳を持たず、無抵抗な父を……」

尻すぼみに小さくなる声を隠すように、サラシャは手を口に当てた。

 配下による暴走が、戦争の引き金だと彼女は語る。

そして戦争が多くの魔族を感化させ、多くの魔族が復讐軍と成り下がったのだ、と続けた。


 もし反乱因子を特定できていれば、もし勇者が話を聞いてくれていれば、もし……あの時私に戦う力、守る力があれば……サラシャの頭の中では、いつもそんなことばかり浮かんでくる。

だがもう現実として起きてしまったことだ。

『もし』なんて考えても何も変わらない。

起きてしまった悲劇に悲しんでばかりもいられない。

 彼女もまた、父の為に気丈に振る舞う幼き子供なのだ。

故に彼女は悲しみに暮れる前に、やらねばならないことがある。

「言い訳をするつもりはありません。あの戦争は私達魔族のせいで起きました。申し訳ありませんでした」

 ドレスが汚れるのも気にせず、サラシャは地べたに座り、深々と頭を下げた。

その横では、クリスタルウルフの姿をしたクラストも頭を下げている。

その行為は、ネイノート達の恐れ、怒りを吹き飛ばす程の力があった。


 遠巻きに見れば、異様な光景だったろう。

貴族令嬢と伝説の魔獣が、世間では侮辱対象である弓使いに対し、頭を下げているのだ。

その理由を知るのは当事者だけ。

 「はぁ……よしてくれないか。ここで頭を下げたところで何も変わらないだろう?それとも、会う奴会う奴全員に頭を下げる気か?」

ネイノートの言葉に、サラシャはおずおずと頭を上げ、ゆっくりと立ち上がった。

そしてドレスについた土を掃うこともなく、中断していた話を再開する。

「魔王が勇者に倒された時、兄は、勇者と王国への復讐を誓いました。そして兄と同じく、人間を憎む魔物が多く集った魔王軍は今、膨大な兵力で王国を攻め落とそうとしています。私の力及ばず、事前に防ぐことはで出来ませんでした。ですがせめて、このことを人間の王に伝え、どちらの被害も出来る限り少なくしたいのです」

 サラシャは言葉を重ねるうちに熱を帯びていく。

その熱は周りに伝播でんぱし、一同の眼には強い決意が見て取れた。

 静まり返った中、ウィンはネイノートの肩に乗ると一つ鳴く。

すると皆の視線がネイノートに集まった。

もはやそこに懐疑かいぎの眼は存在しない。

喚き散らしていたあのロンダニアですらだ。

 少年は一つため息をつき、静寂を切り裂く。

「……方法はあるが、確かではない。むしろ確率は低い方だろう。それでもいいなら力を貸そう」

その言葉を聞いたサラシャは目を見開き、感謝の言葉を連ねた。

それぞれが改めて自己紹介をし、彼女の話の全てが終わる。


 話を終えた一行は少しの雑談を交えながら、夜を明かす準備をする。

だが……まだまだ長い夜は終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ