魔族の真実1
風の翼一行は、再びたき火の前に集まっていた。
そこには二人の新たな人物が加わっている。
一人は先ほど黒衣の剣士から、ネイノートを助けてくれたドレスの少女。
もう一人はドレスの少女の付き人で、同じく黒い紳士服を着た初老の召使いだ。
小屋の中に隠れていたソーセインも一緒に集まり、彼女の話を聞くことになった。
まず少女は、上品にお辞儀をして喜びを口にする。
「皆さんご無事で何よりでした。間に合ってよかったです」
彼女のこれまでの態度から、敵ではない、と皆思っている。
だが風の翼全員で戦ってもかなわなかった、黒衣の剣士が逃げる程の存在だ。
どうしても警戒を解くわけにはいかない。
少女は、周りから快い反応が得られないことに、悲しい表情を浮かべた。
「私達は貴方達の味方です。信じてください、としか言えませんが……」
「味方だというのなら……お前たちは何者なのか、何故助けてくれたのか、教えて貰いたい。あいつとどうやら顔見知りのようだったからな……」
一同を代表して、ネイノートが口を開いた。
あいつというのは勿論、ネイノートを襲った黒衣の剣士のことだ。
彼女は何度か付き人と視線を交わし、悩んだ末、口を開く。
「私の名前は“サラシャ・ユーフォリー・ゴゾーディオ”。彼は“クラスト・ファルガン”。私たちは『魔族』です」
両者は上品にお辞儀をする。
サラシャはドレスの裾を持ち上げ、クラストは毅然とした態度で。
その言葉は、皆の正気を奪うのに十分な力を持っていた。
かつて人間の国に戦争を吹っ掛け、多大な被害をもたらした張本人である。
その爪痕はいまだ癒えず、王国では……人間の世界では魔族を憎み、恐れる者が殆どだ。
人間の世界の中で、魔族という存在は次のように定義されている。
一つ、魔物であり、魔物を従える者。
一つ、魔物であり、人知を超えた力を持つ者。
一つ、魔物でありながら、人の姿をする者。
一つ、魔物でありながら、人の言葉を理解する者。
先の大戦の時も、魔王軍は魔族を指揮官とし、配下を魔物で固めた軍で侵攻してきた。
これは吟遊詩人が詩を歌う程、広く知られることだ。
細かく言えば、『人の姿をする』とは、完全に化けるのではなく、角や尻尾、耳等が残るし、『人の言葉を理解する』というのも、本当に理解するだけ、から喋ることが出来る、まで広義されている。
人が魔族を恐れるように、魔族を前にしたネイノート達も例外ではない。
カノンカとソーセインは震えながら後退り、ネイノートも脂汗を流す。
中でも一番取り乱したのはロンダニアだ。
彼は突然立ち上がると大声を上げた。
「嘘をつくな!そんなことある筈がないだろう!奴らはあの山の向こうに住んでいるのだ!こんな表層にいる筈がない!第一!お前達のどこに角や尻尾があるというのだ!」
ロンダニアは、木々の隙間から見える山脈を指さし、続けてサラシャとクラストを指さした。
取り乱す彼を嘲笑うかのように、月明りを受け山は怪しく光る。
ソーセイン、カノンカも信じられないようで、騒ぎ立てるロンダニアを止める様子は無い。
「少し落ち着け、ロンダニア」
一つため息をついたネイノートは、暴走するロンダニアを宥めた。
それでも幾つか文句を言っていたが、ネイノートが無言で睨みつけると尻すぼみに静かになる。
「……連れが失礼なことをした。話を続けてくれ」
落ち着いた態度を取るネイノートにも、彼女の話が真実なのか、嘘なのかは判らない。
普通の町娘が同じことを言えば、笑って済むような話なのだが、彼らが過敏に反応せざるを得ないのは、彼女が疑うに値する力を持っているからに他ならない。
それでも命の恩人には違いなく、まだ罵詈雑言を浴びせるような相手では無い、とネイノートは考えた。
彼の心境を汲んだのか、サラシャは複雑な表情ではあるが、胸を撫で下ろし感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます。では順を追って説明させて頂きますね……」
サラシャは時間をかけゆっくりと説明をしていった。
皆がたき火を囲んで座る中、サラシャとクラストは立ち上がり口を開く。
「私たち魔族は、もともと貴方達と同じ人間なのです」
彼女のその言葉を聞き、皆は顔に疑問符を浮かべた。
それは想定内だったようで、サラシャは続けて言葉を重ねる。
「人間は遥か昔、他の種と共に平和に暮らしていました。やがて剣、魔法、弓……戦う力を手にした人間は、今の貴方達のように国を作り、規律を作り、時には争い、時には手を組み。暮らしはどんどん豊かになっていきます。そんな平和な時、いつからか世界の命を奪う『魔物』が姿を現しました。魔物はとても狂暴で、エルフ族を始め、ドワーフ族、妖精族といった亜人種をことごとく滅ぼし、遂には人間にもその牙を伸ばしてきます」
サラシャは絵本の物語を読むような口調で静かに続ける。
「勿論人間も武器を取り、魔法の力を駆使して抵抗しました……ですが、その命は日に日に数を減らしていきます。そこで当時の人間達は、ある魔法を作り出したのです。その魔法は、今は失われし古代魔法“混魂の魔法”。他者の魂を自らの魂に吸収することで、力を奪い取る魔法です。この魔法を使うことで、人間は魔物の力を手に入れることに成功しました。しかし、魔物の魂は強大で、人間は力を得る代わりに、魔物の姿へと変わってしまったのです」
この物語の結末は、魔物に姿を変えたその人間たちによって、今日の人間が暮らす世界を勝ち取った、というものだった。
最後に彼女は、その時魔物へと変わった人間の子孫が私達魔族なのです、と付け加える。
辺りには一息つく彼女の吐息と、炎の弾ける音だけが響いた。




