黒衣の剣士
結構な時が経ち、幾つかの籠が薬草で一杯になる。
「初日からこんなに取れるなんて思ってませんでした。さすがネイ君です!」
ソーセインは気分良く、足取りも軽く籠を抱え歩く。
嬉しそうに歩く彼を見ているだけで、皆笑顔になった。
ネイノートの家につくと、籠を小屋の中に入れ、外で火を起こしそこへ皆集まった。
やがて日も暮れ始め、森が赤く染まっていく。
そのうち辺りは夜の闇に沈むだろう。
それからが冒険者の本格的な仕事の始まりだ。
一先ず腹ごしらえの為、ネイノートとロンダニアは弓を持ち、夕食の狩りを始めた。
成果はまずまずで、ネイノートが兎を一匹と狸を一匹。
ロンダニアが兎を一匹と……あとは狩りの途中で見つけた果物が数個。
これだけあれば足りるだろう、とネイノート達は急いで帰路につく。
ネイノートが友人に振る舞った最初の食事は、彼得意の丸焼きだったが、これまでの商人同様、やはりソーセインにも頗る好評であった。
夕食も過み、談笑と共に食休みをしている時、それはやってきた。
殺気……全てを切り裂く刃物のような鋭い殺気だ。
全く隠す気が無いようで、ウィンとネイノートは同時に気付いた。
他の皆は変わらず楽しそうに談笑している。
ウィンは直ぐ様宙に舞い上がり、ネイノートは弓を手に持ち立ち上がる。
そのただならぬ様子に周囲にも緊張が走った。
「ネイノート君?何かあったのかい?」
ロンダニアも慌てて弓を持ち、ネイノートの視線の先……森の奥に向かって身構える。
暫くして、カノンカとロンダニアもその存在に気付いた。
ブラッドウルフと同様、いや、それを超える程の威圧感。
例えるならば、山に積もる雪が目の前を滑り落ちてくるような感じだろうか。
すぐに森を出て王国へ帰る選択肢もあったが、相手は明らかに真っすぐこちらを目指している。
追ってくるのは想像に難くない。
また夜にかかっているため、他の魔物とも出くわす可能性があった。
ソーセインに小屋の中へ隠れるように促し、風の翼はそれが来るのを唯じっと待ち続ける。
たき火の炎が弾ける音だけが辺りに響く中、それは現れた。
黒色の、貴族風の身なりをした男だ。
髪は金色で長く、後ろで一つに束ねてあり、顔立ちはまるで人形のように美しく、相当な色男だ。
その男は、鎧のようなものは一切着ていないが、一振りの剣を携えていた。
服と同じく真っ黒な剣だ。
その他に武器らしいものはなく、腰を見ても銃のような物は持っていない。
その姿が人間の形をしていたため、ネイノートは最初、冒険者だろうか、と思った。
だが身のこなし、武装、そして溢れ出る殺気が、その可能性を否定している。
黒衣の剣士は警戒するネイノート達と、たき火を隔てた位置に来ると、剣を抜き放った。
眼前にいる男に、話が通じることを願ってネイノートは口を開く。
「何者だ!」
黒衣の剣士は返事に困ったのか、空いている手を顎に当て、一人でぶつぶつと呟き始める。
しかし、呟いていたのは少しの間で、視線は直ぐにネイノートへと向けられた。
「誰でもいいだろう?とりあえず顔を見に来ただけだ」
彼は何が面白いのか、笑いながらそう述べる。
低い声だが、威圧といった口調ではない。地声が低いのだろう。
風の翼一行は、とりあえず話が通じることに安堵する。
だが黒衣の剣士は剣を抜き放ったままだ。
まだ武器をしまうことも、警戒を解くことも出来ない。
彼は、右手に持つ剣を数回、その場で振りながら言葉を重ねる。
「我慢できなくなっちまってなぁ。少しは楽しませて貰えるといいんだが……」
言い終わるか終わらないかの瞬間、彼の体がぶれた。
瞬き一つするだけで見失ってしまう程の速度で、彼はネイノートの真横まで移動する。
自らの言葉を遮って起こした唐突の行動に、カノンカもロンダニアも反応出来ない。
ウィンは辛うじて威嚇の声を上げ、ネイノートは視界から消えた敵に立ち向かうべく、弓を握る手に力を込めた。




