危険度
ギルドに顔を出したネイノート達を迎えたのは、冒険者の鋭い視線だった。
その視線のほぼ全てが、彼の肩に乗るウィンに注がれている。
「おい……あいつの肩に乗ってるのって……」
「いつものウィンドバードじゃないぞ?あんな鳥見た事ねぇ」
「あいつ勇者にぼろくそに負けた奴だろ?まさか”臆病者”が進化したってのか……?」
ネイノートは周りの冒険者をいつも通り無視して、左手にある依頼内容が書かれた記布が貼ってある掲示板へと歩く。
今回彼等が受けるつもりなのは討伐依頼だ。
勿論新しい武器の試運転と、ウィンの実力を確認する為なので、ゴブリン数体といった低難易度では正直困る。
依頼書が貼ってある掲示板の前で、どれがいいかと悩んでいると、ギルド職員から声がかけられた。
「ネイノート・フェルライトさん。その……ギルドマスター様がお呼びです」
最初はネイノートに向けられていた職員の視線も、やはり次第にウィンに移っていく。
職員に連れられたネイノートらは再び、二階にある一室に通された。
部屋に入ると甘い匂いがした。
ギルドマスターは椅子に座って、カップを傾けている。
「おう、来たな風の翼の。……どうやら新しい相棒が出来たらしいな」
顔を上げなら口を開いたグランドは、進化したウィンを見て、低い声を出した。
彼はネイノートの肩にとまる新たな魔物に警戒心を向ける。
急に立ち上がり、手を武器に移動させるグランドを見て、ネイノートとカノンカは慌てて説明を始めた。
その様子をロンダニアは不安そうに眺める。
説明を全て聞いたグランドは、少し伸びた顎鬚に手を当てて唸った。
「ほほう。ではその鷹は、あの時のウィンドバードが進化した姿だというのか」
その間も彼の視線はウィンに釘付けだ。
舐めまわすように観察すると、また口を開く。
「今も静かにしているところを見ると、お前たちの言い分は正しいのだろうが……ギルドマスターとして、その魔物は何の保証も無しに放置はできんな」
「どういうことだ?ウィンドバードの時はそんなこと言わなかった筈だ」
ウィンドバードの時との対応の違いに、ネイノートは疑問の声を上げた。
グランドは当面の危険が無いことを確認し、椅子に座り直すと一つため息をつく。
「ウィンドバードの時はまだ良かったのだ。所詮は駆け出しでも勝てる魔物だからな。暴れてもこれだけ冒険者がいれば、最悪の事態は起こるまい。収拾も容易い。しかし……」
彼はウィンに視線をやり、さっきよりも大きなため息をついた。
「その魔物は強すぎるんだ。F級冒険者ではまず勝てん。E級も無理だろう。一番数の多いD級でもぎりぎり勝てるかどうか……わかりやすく言えば、お前たちが戦ったという『ブラッドウルフ』。あれと同等と考えていいだろう。ブラッドウルフを首輪も付けずにそのまま連れ歩くのを、黙って見過ごすわけにはいくまいよ」
その言葉にネイノートとカノンカは驚愕した。
ブラッドウルフの凶悪さは、火竜との闘いを経験した彼等でも忘れることは出来ない。
その赤狼とウィンが同等だというのだ。
風の翼も、クロツチもノゼリエも、確かにウィンが強くなったと思った。
魔物の進化とは得てしてそういう物だからだ。
だがウィンドバードは、F級でも楽に倒せる程弱い魔物である。
いくら進化したとはいえ、D級冒険者に匹敵する程に、とはにわかに信じられない。
ネイノートは、赤狼との戦いで傷を負った肩を手で押さえようとして、ウィンが乗っていることに気付き、慌てて手を下ろした。
「ウィンドバードが一度も暴れた事がないから、今回もまた……とはいかんのだよ」
誰もグランドの言葉に、反論する言葉が見つからない。
長い沈黙が流れた。
部屋にいる全員が、何か案がないかと考えるが、一向にまとまらない。
それでも風の翼は引くわけにいかず、時間だけが流れていった。




