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臆病者の弓使い  作者: 菅原
58/119

危険度

 ギルドに顔を出したネイノート達を迎えたのは、冒険者の鋭い視線だった。

その視線のほぼ全てが、彼の肩に乗るウィンに注がれている。

「おい……あいつの肩に乗ってるのって……」

「いつものウィンドバードじゃないぞ?あんな鳥見た事ねぇ」

「あいつ勇者にぼろくそに負けた奴だろ?まさか”臆病者”が進化したってのか……?」

ネイノートは周りの冒険者をいつも通り無視して、左手にある依頼内容が書かれた記布きふが貼ってある掲示板へと歩く。


 今回彼等が受けるつもりなのは討伐依頼だ。

勿論新しい武器の試運転と、ウィンの実力を確認する為なので、ゴブリン数体といった低難易度では正直困る。

依頼書が貼ってある掲示板の前で、どれがいいかと悩んでいると、ギルド職員から声がかけられた。

「ネイノート・フェルライトさん。その……ギルドマスター様がお呼びです」

最初はネイノートに向けられていた職員の視線も、やはり次第にウィンに移っていく。

職員に連れられたネイノートらは再び、二階にある一室に通された。


 部屋に入ると甘い匂いがした。

ギルドマスターは椅子に座って、カップを傾けている。

「おう、来たな風の翼の。……どうやら新しい相棒が出来たらしいな」

顔を上げなら口を開いたグランドは、進化したウィンを見て、低い声を出した。

 彼はネイノートの肩にとまる新たな魔物に警戒心を向ける。

急に立ち上がり、手を武器に移動させるグランドを見て、ネイノートとカノンカは慌てて説明を始めた。

その様子をロンダニアは不安そうに眺める。


 説明を全て聞いたグランドは、少し伸びた顎鬚に手を当てて唸った。

「ほほう。ではその鷹は、あの時のウィンドバードが進化した姿だというのか」

その間も彼の視線はウィンに釘付けだ。

舐めまわすように観察すると、また口を開く。

「今も静かにしているところを見ると、お前たちの言い分は正しいのだろうが……ギルドマスターとして、その魔物は何の保証も無しに放置はできんな」

「どういうことだ?ウィンドバードの時はそんなこと言わなかった筈だ」

ウィンドバードの時との対応の違いに、ネイノートは疑問の声を上げた。


 グランドは当面の危険が無いことを確認し、椅子に座り直すと一つため息をつく。

「ウィンドバードの時はまだ良かったのだ。所詮は駆け出しでも勝てる魔物だからな。暴れてもこれだけ冒険者がいれば、最悪の事態は起こるまい。収拾も容易い。しかし……」

彼はウィンに視線をやり、さっきよりも大きなため息をついた。

「その魔物は強すぎるんだ。F級冒険者ではまず勝てん。E級も無理だろう。一番数の多いD級でもぎりぎり勝てるかどうか……わかりやすく言えば、お前たちが戦ったという『ブラッドウルフ』。あれと同等と考えていいだろう。ブラッドウルフを首輪も付けずにそのまま連れ歩くのを、黙って見過ごすわけにはいくまいよ」

その言葉にネイノートとカノンカは驚愕した。

 ブラッドウルフの凶悪さは、火竜との闘いを経験した彼等でも忘れることは出来ない。

その赤狼とウィンが同等だというのだ。

 風の翼も、クロツチもノゼリエも、確かにウィンが強くなったと思った。

魔物の進化とは得てしてそういう物だからだ。

だがウィンドバードは、F級でも楽に倒せる程弱い魔物である。

いくら進化したとはいえ、D級冒険者に匹敵する程に、とはにわかに信じられない。

 ネイノートは、赤狼との戦いで傷を負った肩を手で押さえようとして、ウィンが乗っていることに気付き、慌てて手を下ろした。

「ウィンドバードが一度も暴れた事がないから、今回もまた……とはいかんのだよ」

誰もグランドの言葉に、反論する言葉が見つからない。


 長い沈黙が流れた。

部屋にいる全員が、何か案がないかと考えるが、一向にまとまらない。

それでも風の翼は引くわけにいかず、時間だけが流れていった。


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