インペリアルホーク
爽やかな風が優しく頬を撫でた。
緑色の髪がなびき、くすぐったそうにネイノートは目を覚ます。
そういえば昨晩は、朝までウィンの様子を見ていたのだった、と思い出した彼は、窓際に目を移す。
そこには一羽の鳥がいた。
綺麗な緑色の羽。
堂々とした態度にまっすぐ伸びた姿勢。
その鳥はウィンを彷彿とさせるが、ウィンドバードではない。
身体は一回り程も大きく、鋭い眼光、鋭利な爪や嘴を持つその姿から察するに、どうやら猛禽類のようだ。
「ウィン……?」
ネイノートは不安げにその鳥へ声をかけた。
声に気付き振り向いたウィンは、嬉しそうに一鳴きすると、心配そうな顔の少年の前で力強く飛んで見せる。
彼女は『ウィンドバード』という種から『インペリアルホーク』という種に進化したのだ。
その羽は短剣程度なら弾き飛ばす程に硬く、その爪は鉄の鎧を貫く程鋭い。
ウィンドバードを『臆病』と揶揄するならば、インペリアルホークはまさに『勇猛果敢』といった感じだろうか。
ネイノートは、ウィンの姿の変りように驚きつつも、人懐っこい内面が変わらないことに安堵した。
当然ウィンのこの姿を見て驚いたのは彼だけではない。
カノンカ、クロツチ、ノゼリエも暫し声が出ない位には驚いた。
「これって……もしかして進化……?」
カノンカはノゼリエに問いかける。
「多分そうだと思うけど……こんな魔物見た事も聞いた事も無いわね」
そもそもウィンドバードを見る者が稀だったのだ。
そのウィンドバードが進化した姿を見た者など、一体どれほどいようものか。
「滅茶苦茶強そうになったな。これなら戦力として数えても問題ないんじゃないか?」
クロツチはおっかなびっくりといった様子ではあるが、緑に光るウィンの羽を撫でる。
彼等はインペリアルホークの希少性は兎も角、その戦闘能力の高さにはまだ気が付かない。
唯々ウィンが戻ってきたことを喜ぶだけだ。
突然の身体の変化に皆心配し、その日は大事を取り、外を出歩くことを控えた。
明くる日。
別所に居を構えるロンダニア・ガノーシュが“遊び場”に来ると、大騒動が起きる。
進化したウィンをみた時の、ロンダニアの取り乱しようと言ったらなかった。
「お早う!ネイッ……ノート……君?」
最初は元気だった声も、尻すぼみに小さくなり、ウィンを指さしては言葉を無くす。
陸に打ち上げられた魚のように、口をパクパクとさせると、突然叫び声をあげ大慌てで外へ出て行った。
取り乱した彼を宥め、連れ戻すのにたっぷりの時間を使い、彼を説き伏せるのに更に多くの時間を費やした。
「ウィンが進化した、って……簡単に言ってるが、魔物は皆が皆進化するわけじゃないんだぞ!?進化したら最後、力も強くなって、凶暴性も更に増し、危険度が……」
「こいつは危険な魔物じゃない。俺の相棒のウィンだ」
二人は言葉を変えながら数度、同じようなやり取りを繰り返したが、その主張を変えないネイノートにロンダニアは折れざるを得ない。
「まぁ確かに……人を襲うって感じじゃないしなぁ」
クルルと鳴いたウィンはネイノートの肩に乗る。
鳴き声は違えどその仕草は、進化前のウィンのするそれと同じだ。
それから風の翼は冒険者ギルドを目指して歩き出す。
先頭を行くネイノートとウィンを後ろから見る守る一同は、小鳥の時より少しぎこちない感じに笑いが零れた。




