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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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進化の光

 ネイノートの質問攻めが終わり、皆は夕食を取る。

その日の夕食は、ムト肉をカリカリに焼いた物と、野菜がたっぷり入ったシチューに柔らかなパンだった。

満足のいくものを作り、不安が払拭ふっしょくされた三人は談笑しながら夕食を取る。

だが一人、ネイノートだけはウィンが帰ってこないことが気にかかり、せっかくの好物を味わえないでいた。

 これまでも何度かウィンが帰らないことはあったが、それは森で暮らしていた時の話だ。

ここは王国であり森とは違う。

人間の世界なのだから、魔物のウィンからしたら、『森よりも危険な場所』ともいえるだろう。


 ネイノートの様子に気付いたノゼリエが声をかけた。

「どうしたの?ネイ君。嫌いな物でもあったかしら?」

ネイノートは黙って首を振ると、クロツチとカノンカも心配そうにそれを見る。

「ウィンが帰ってこないんだ。夜までなんて……ここで一緒に寝るようになってからは初めてだ」

 ウィンも既に太陽と月の遊び場で暮らす家族の一員だ。

家族が帰らないことを皆心配したが、何時も大人びたネイノートが、年相応に落ち込んでいることに何より驚いた。

早急に解決するべきと感じた三人は、夕食が終わった後全員で探そうと提案をする。



 四人は手分けをして町中を探し始める。

第一商業区と第二商業区の中間にある検問所より上には行けないので、探せる場所はおのずと第二商業区と居住区に限られる。

とはいえその範囲は広大で、一晩で隅々まで、というわけにはいかない。

 太陽と月の遊び場を中心に、東西南北に分かれて走るが、時間が時間なだけに探索は難航する。

大声で叫べば迷惑なこと此の上無いし、大通り以外は月明りしかないため、暗がりはあまり良く見えない。

遅々として進まない捜索状況とは裏腹に、時間だけが過ぎ行く。


 暫くして、ネイノート達は前もって決めていた通り、太陽と月の遊び場の前で落ち合った。

もうすでに月は真上を通り過ぎ、傾き始めている。

「見つかった!?」

「駄目だな」

「さすがに月明りだけじゃ厳しいわね……」

全員汗だくだが進展はなく、手掛かり一つ見当たらない。

とりあえず今日は切り上げて、明日明るいうちにまたもう一度……という話が出た時。


 ネイノートの頭の中で声が響いた。

『……こっち……』

三人は、唐突に辺りを見渡し始めたネイノートを怪訝に思い見つめる。

その様子があまりにも挙動不審だったため、カノンカはたまらず声をかけた。

「どうしたの?ネイ君」

「声が聞こえる……」

だが三人には、声どころか虫の鳴き声すら聞こえない。

「声なんて聞こえないぞ?聞き間違いじゃあないか?」

手を当て、耳を澄ましていたクロツチも顔を顰めた。

 その様子を気にかけることも出来ず、中性的な声は少年の頭を揺らす。

『こっち……こっち……』

頭の中で反響するように、四方から聞こえていた声が、やがて一つの方向を指し示す。

「向こうだ!」

ネイノートは声にいざなわれて走り出した。

困惑しつつ三人も後に続く。



 ネイノートが向かったのは、冒険者ギルドの裏手にある訓練場だった。

訓練場に入った彼は、ギルドの壁際に並ぶ植木を覗きながら走る。

その間にもあの声は頭の中に響き続けている。

『こっち……こっちだよ……』

声量が一際大きくなった時、彼の眼に青白い光が映った。

「ウィン!?」

大慌てで草木をかき分け、上半身をその中にうずめる。

その先には、地面に伏したウィンがいた。

彼女の体は月明りを浴び、薄っすらと光っているように見える。

だがその光は月光ではない。

彼女の体の内から湧き上がる『進化の光』だ。


 そんなことを気にせず……いや、理解すらしていない彼らは、その光に気付かぬままウィンに駆け寄った。

「ウィン!大丈夫か!?……ウィン!」

ネイノートの腕の中にいる小鳥はどうやら寝ているだけのようで、身体に怪我も見られず、発熱しているといった様子もない。

しかし、彼女を抱きかかえるネイノートは取り乱したままだ。

見かねてノゼリエが声を上げる。

「ネイ君、少し落ち着きましょう?とりあえず家に帰って様子を見るしかないわ」

彼女はネイノートの肩に手を置いてなだめる。

暫くして落ち着いたネイノートは、ウィンを抱き抱え皆で家に帰ることになった。



 太陽と月の遊び場についたネイノートは、眠る小さな鳥を毛布でくるみ窓際に置く。

それから朝日が昇るまで、少年はずっと傍で様子を見ていた。

やがて勇者との闘いで消耗した精神を回復するべく、彼は静かに眠る。

部屋の中で緑の少年と緑の小鳥は寄り添うように寝息を立てるのだった。


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