新たな力
カノンカは新しく出来た魔法剣を抱きしめ階段を駆け上がる。
余りに燥いだものだから、その音でネイノートが目を覚ましてしまった。
彼は小さな欠伸をして、寝台から立ち上がると窓の外を見る。
日は既に傾き、辺りは真っ赤に染まっていた。
だいぶ寝てしまったな、と自身の頭を小突き、部屋の外に出る。
「あ!ネイ君!」
居間にいたカノンカが声を上げた。
彼女はネイノートの姿を確認すると駆け寄り、まるで玩具を手に入れた子供のように、抱えた剣を見せびらかす。
鞘は赤褐色のシンプルな造りだ。
少し抜いて見た刀身は、魔法付与の影響か青白く光っている。
その色と彫ってある竜の模様から、恐らく火竜の素材を使って作成したのだろう。
赤と青と白のその美しい色合いに、ネイノートは暫し心を奪われた。
ネイノートがその剣に満足する頃、後片付けを終えたクロツチとノゼリエが階段を上がって来た。
「お、起きたか寝坊助め」
軽く憎まれ口を叩いたクロツチの手には、見覚えのある形状の物が握られている。
ネイノートの視線がそれを見つけた事を確認したクロツチは、手招きをして皆を居間に集めた。
「ほらよ。新しい弓だ。作るのに苦労したんだぜ?火竜の素材は固いのなんのってな」
そう言ってクロツチは、手に持っている弓をゴトリと机に置く。
その弓は、以前に作って貰ったシェルクラブの弓よりも小さい。
火竜の鱗と思われる物が弓の本体に付いていて、更には竜を象った装飾までなされていた。
「『火竜の弓』だ。こいつは近接用にと思って作ったやつでな。小回りが利きやすいように小さく作ってある。因みにそこの竜の模様はカノンカが入れた物だぞ」
そういうとクロツチは、弓を手でコンコンと叩く。
B級冒険者が傷をつけるのが精一杯だった火竜の鱗だ。
素晴らしい性能であることは間違いないだろう。
弓に彫ってある竜の模様は、先に見せて貰ったカノンカの持つ剣の模様と酷似していた。
ネイノートがカノンカを見ると、彼女は照れたように視線を逸らす。
クロツチが言うには火竜の素材をどう運用しようか、相当悩んだらしい。
それもその筈で、火竜の素材は武器に使って良し、防具に使って良し、魔法付与道具の媒体にも最適だ。
その中から彼が近距離用の弓を選んだのは、弓の弱点を少なからず補助できれば、という気遣いからだった。
弓だけに限らず、後衛からの攻撃、つまり銃や魔法でもいえることだが、最大のメリットはその射程距離にある。
相手の攻撃の届かない位置から、一方的に相手を攻撃で出来るのだ。
卑怯という者も確かにいるが、戦闘においては何よりも理にかなった攻撃方法といえるだろう。
だが代わりに、近距離での戦闘にはあまり向いていない。
剣を振る、槍で突く等の手間に比べ、弓と銃は弾の装填、魔法では詠唱の手間が加わる。
そこから照準を合わせ放つのだから、どうしても近接戦闘では後れを取ってしまうのだ。
これにより武器を振って戦う前衛戦士は、後衛戦士と戦う際、まず距離を潰すことが定石となっていた。
その定石を覆すために作ったのが、『火竜の弓』である。
堪えきれずにネイノートは弓へと手を伸ばす。
表面を手でなぞり、弦を引いて感触を確かめる。
そこへクロツチの声がかかった。
「カノンカの魔法剣と同じく、この弓にもノゼリエに魔法を付与して貰った」
クロツチの言葉に続いて、ノゼリエが説明を始める。
「おはよう、ネイ君。その弓には『対物理魔法障壁』の魔法が付与してあるわ。これは剣や槍みたいな物理的衝撃を和らげる魔法で、素体も頑丈だから相当腕の立つ相手じゃないと傷一つつかないと思うわよ」
そう豪語するノゼリエは、まだ気分が高揚しているらしく、顔が紅潮している。
その熱はネイノートにも伝播し、新たな武器について、無我夢中でクロツチへ質問を投げかけた。




