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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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集中力

 勇者は心の中で呟いた。

(化け物め……)

勇者だけではない。

傍で見ている賢者と剣聖もその異様さに驚く。

誰の事かといえば、勿論弓を使う少年の事だ。

 的当てをする二人は今、二十射目を終えたところで、その結果は二人とも赤い円の中心を打ち抜いていた。

なんと弓の少年はそれまでの二十発を、全て円の中心に当てていたのだ。

勇者はネイノートを睨みつける。

 彼の知っている弓道で考えれば、こんなことはありえない。

二十の矢を連続で的に当てること自体は、練習をすれば可能かもしれない。

だが、その全てを的の真ん中に当てられるか、と問われれば、そんなことは出来ないだろう。

そんなことが出来れば、もはや人の技ではない。


 周りで騒ぐ冒険者は起きている異常性に全く気付かない。

彼らはこのイベントを、愚かな弓使いが偉大な勇者に噛みついた、程度にしか思っておらず、勇者の勝利は既に確定事項となっていた。

 勇者は銃を握る手から、じっとりと汗が出ていることに驚く。

魔王を倒して以来そんな経験はしたことがなかったのだ。

自分の予想を遥かに超える『化け物』。

それが勇者の少年に対する評価だった。

 十年ほど前に同じことをしたことがあったが、その結果は圧勝だった筈だ。

勝負がつくのに五発もいらなかった記憶がある。

的には当たるものの、中心を外した弓使いが自ら負けを認めたのだ。

だが現在、二十を超えてなお的のど真ん中に充てるネイノートの力に、勇者の背筋が凍る。

 

 勇者とは冒険者であって、冒険者にあらず。

この世界における平和の象徴である。

その力は魔王を凌駕し、人々に平和をもたらす。子供でも知っていることだ。

だからこそ勇者が、例え『お遊びでやる的当て』であっても、一介の冒険者に負ければどうなることか。

 内心苦しんでいる勇者を尻目に、ネイノートは二十一射目を的に当てた。

当たり前のようにど真ん中である。



 メイレイとガンゼオラは遠巻きに勇者を見守る。

彼は笑みを浮かべてはいるが、どこか焦っているようにも見えた。

二人とも弓の使い勝手、精密性等は何もわからないが、仮に銃で同じことをしても、二十発全て円の中心に当てることなど不可能だろう、と考える。

 彼等が見始めて何回目かの破裂音がした時、真剣に見つめる二人の下へ一人の冒険者が顔を出した。

「お初にお目にかかります!賢者様!剣星様!」

誰が見ても空気を読まないその登場に、二人は顔をしかめた。

 その冒険者は“レシュノア・C・カエンスヴェル”だ。

火竜の一件以来鳴りを潜めていたのだが、勇者が来ているという話に飛んで来たのだ。

彼の最終目標は勇者と繋がりを持つこと。

ここに来て、彼の目的が終わりへと一気に近づく。

「私はレシュノア・C・カエンスヴェルと申します。勇者様は何処に居られますか?」

はきはきと喋るレシュノアと打って変わって、メイレイは喋るのも億劫といわんばかりに、的を狙う勇者を指さした。

 レシュノアは笑顔で礼を述べると駆けていく。

二人は慌てて制止の声をかけたが彼は聞く耳を持たない。



 二十二射目を放つべく、ネイノートと勇者はそれぞれ構える。

ネイノートは今、人外の世界にいた。

もはや集中力は常人の域を超え、どこまでも高く登っていけそうだ。

どこか遠くから自分を見ているかのような錯覚を覚えるネイノートは、そっと弦から指を離し……

「勇者様!」

 突然の声に驚きびくりと反応してしまった体は、矢を明後日の方向へ弾く。

それでも勇者の放った弾は、岩にある赤い円の中心に当たっていた。

ネイノートは大きく息を吐き、勇者を見る。

すると勇者も同じことをしてネイノートを見ていた。


 勇者が、寄ってきたレシュノアに言いたいこと。

それは、良く来てくれた、だ。

しかしそんなこと間違っても言えるわけがないので、あくまで冷静を装い口を開く。

「二十二発目ははずれだったね。集中力が足りなかったみたいだよ?」

 尤もらしく言っているが、その集中力に一番驚いたのは勇者自身である。

ネイノートは何か言いたそうに口を尖らせたが、負けは負け。

おとなしく頭を下げて、へたり込んでいるカノンカとクロツチのもとへ向かった。


 その場から去るネイノートへ、侮蔑の視線を流した参入者が声を張り上げる。

「勇者様!お疲れ様でございました!」

大きな声をかけてくる金髪の少年に勇者は声を返した。

「君は?」

「はい!レシュノア・C・カエンスヴェルと申します!」

『C』の文字を聞いた勇者は急に面倒くさくなった。

実を言えば、彼は大の貴族嫌いなのだ。

 口だけは達者で、行動をしない。

常に上から目線で金が全てと思っている連中。

全ての貴族がそうとは言い切れないが、少なくとも勇者に言い寄ってきた貴族は皆そうだった。

そして……恐らく彼もそうだろうと勇者は予想する。

「カエンスヴェル家のご子息であったか。今日はちょっと予定が立て込んでいるから、後日連絡させてもらいたい。それでいいかな?」

体のいい断り文句なのだが、レシュノアは喜び了承する。

 その後、目的を終えた勇者一行は、風の翼一行に声をかけることも無く、ギルドを後にするのだった。


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