的当て
向かった先は冒険者ギルドの裏手にある修練場だ。
何時も何人かいるものだが、勇者を見にギルドへ入っていったのか、人影は無かった。
だが勇者と例の弓使いが力試しをするということで、冒険者が垣根を作りだす。
勇者はそこへ入ると、ネイノートが来るのを待って説明を始めた。
「ネイノート君、僕と的当てをしないかい?」
勇者は腕を上げ、少し離れた所にある大きな岩と、植物を纏めた物を指さした。
「君たちは、僕が異世界から召喚された人間だっていうのは知ってるかい?」
ネイノートは頷く。当たり前だろう。
彼が持ってきた異世界の知識のおかげで、彼の父は国から出ていくことになったのだ。
ネイノートの中で忘れたくても忘れられない存在になっている。
カノンカ、クロツチも頷くと、勇者は嬉しそうに一回頷き説明を続けた。
「これは僕の世界にあった、『弓道』という武術の試合で使われるルールだ。それぞれあそこにある的に一回ずつ矢を打っていき、当たった回数を競う。僕は銃を使うからあの岩の方だけどね。当たればどこでもいいけど、一応あの赤い円の中心が的の真ん中さ」
植物を纏めた的と、岩の的。どちらにも赤い円が付いていた。
距離は決して短くはない。
だが当てるだけならいくらでもできそうだ。
頭に浮かぶその考えを追い出し、ネイノートは気を引き締めて、弓を手に持つ。
「地力を見たいから魔法は無しでね。先に外したほうが負けということにしようか。いいかい?」
そういって銃を構える勇者に習って、ネイノートは弓を構えた。
ネイノートの肩に止まるウィンは空に飛び立ち、今はギルドの屋根の上に止まっている。
辺りにいる冒険者達の囃し立てる声が鳴り始めた。
岩の的の隣に勇者の仲間である『聖女』“キュオレ・B・メルメッテーゼ”が立つ。
彼女の合図で、長い的当てが始まった。
破裂音が鳴り、岩の的にある赤い円の真ん中に穴が開いた。
誤射すれば危険だろうに……それほど彼女は勇者を信頼しているということだろうか。
暫し遅れて植物を纏めた的にも矢が刺さる。当たり前のように赤い円の真ん中だ。
まず一射は互角。
騒がしかった周りの冒険者も固唾をのんで見守る。
すかさずキュオレは肩まで伸びた桃色の髪を揺らし、魔法の詠唱を始める。
聖女という称号を持つ彼女は、治癒魔法、防御魔法の達人だ。
治癒魔法というのは本来、命あるものにしか効果がない。
だが彼女は特殊な力を使って無機物にまでその効果を及ぼすことが出来る。
それが彼女を人外と言わせる力だ。
その有用性は言わずもがな、小さい物は剣や鎧の修復から、大きい物では崩れた橋や城壁の修復等様々な物を修復できる。
この力は『神の祝福』と呼ばれていて、選ばれた人間のみが持っている不思議な力だ。
勇者はこの力を『ユニークスキル』と称したが、信心深い者の間では、いまだに神の祝福と呼ばれ続けていた。
また得られる条件に決まりごとは無いようで、才能とは全く関係のない祝福を持つ者もいる。
聖女は数少ない合致者の例となるだろう。
キュオレの詠唱が終わると、岩と植物の的に出来た穴はすっかり無くなっていた。
驚きつつも矢を番えるネイノートを見た彼女は、再び合図を出す。
二射目も両者は真ん中に当てる。
それから二人の力は拮抗し、淡々と同じ結果を繰り返していった。




