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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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召喚者

 クロツチはネイノートの耳元で呟く。

「勇者だ」

勿論少年はその存在を初めて見た。

魔王を倒した英雄。

異界から召喚されし者。

新たな知識の先導者。

これまで噂で聞いてきた勇者の呼び名は様々だが、これらの言葉は全て彼を指すものである。


 勇者とは、異界の剣術を使い、多くの精霊から加護を受け、一人で万を超える軍勢に匹敵する程の力を持つ者だ。

彼は『剣聖』、『賢者』、『聖女』と共に、冒険者ギルド唯一のS級パーティー『希望の光』を組んでいる。

彼等も勇者同様S級冒険者であり、その力はもはや人外の域だ。


 なお、彼らを表す勇者、剣星、賢者、聖女という名称。これらは称号である。

いわゆる二つ名であり、A級の冒険者が偉業を成し、国王にこれらのような称号を与えて貰うことで初めて、S級冒険者を名乗ることが出来るのだ。

 彼らは魔王を打倒した実力と実績の下、S級冒険者と認められている。


 勇者は仲間を引き連れ、真直まっすぐネイノートの方へ近づいていく。

周りで騒いでいた冒険者は、その異様な空気を感じ、次第に言葉を無くしていった。

彼はネイノートの前まで来て止まると、静まり返るホールに声を響かせる。

「君が……噂の弓使いかい?」

その表情、口調から真意は読めない。

馬鹿にしているような気もするし、していないような気もする。

 ネイノートは返事をせず、背中にかけた弓を勇者に手渡した。

「へぇ……弓兵団の弓とは全然違うんだね」

一頻ひとしきり弓を弄った勇者は、それをネイノートに返す。


 勇者は次いで肩にとまるウィンドバードを見た。

「聞いた時は信じられなかったけど、本当に魔物を従えているんだね」

 ウィンドバードに対して、彼よりも過剰な敵愾心てきがいしんを向ける冒険者は数多くいた。

ネイノートは基本、それらの言動を気に止めたことは無い。

だが勇者が言った今の言葉は聞き逃せなかった。

先の言葉と共に癇に障ったというのもあるが、それは勇者が『カリスマ』を持っているからだ。

「従えているんじゃない。ウィンは家族だ」

ネイノートと勇者のやり取りを見ていた冒険者は皆息をのんだ。


 絶対的な力と圧倒的な権力を持つ勇者に対して、これまで口答えをした冒険者はいない。

いや、冒険者に限らずだ。貴族も、王族も、現国王ですら真っ向から反論をしたことは無い。

それは子供でも知っている程有名な話だ。

世間知らずにも程がある、とネイノート以外の冒険者は皆そう思うだろう。

しかし頭の働く数名は確かに理解した。

彼にとってその小鳥は、勇者に反論してまで守るほど大切な存在なのだと。

 ネイノートの言葉を聞いた勇者は腹を抱えて笑い出す。

「はははっ!君は、魔物を家族と呼ぶのか!くはははっ!」

静かなギルドのホールに勇者の笑い声が響く。

彼の後ろでは剣星、賢者、聖女と思われる人物が静かにたたずんでいた。


 散々笑って満足したのか、勇者はネイノートに話しかける。

「ねぇ、力比べをしないかい?君の……いや、君たちの力を見たいんだ。火竜を倒したっていうその力をね……」

彼は意味ありげな視線をネイノートとカノンカに向ける。

 力比べをしよう、という提案だが、そこに拒否権がないことは誰でも判るだろう。勿論勇者自身も拒否されるという考えはない。

だから勇者は、ネイノートの返事を待たずに振り向き、出口へと歩き出す。


 勇者の提案は、ネイノートにとって願ってもいないことだった。

彼の父は勇者の使う銃に負けたのだ。

それは十年も前の話。

勿論ネイノートはそれが勇者の意思ではなく、様々な偶然が重なって起こったことだというのは分かっている。

 それでも……今の勇者はどのくらい腕がたつのか。

少年は勇者へ復讐するなんてことは考えていないが、これからの為に確認しておくべきだと感じた。

 勇者の後を追ってネイノート、カノンカ、ウィンがギルドの出口へ向かう。

クロツチは慌ててその後を追った。


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