分かれ道
ムトの森へ出向いていた風の翼は王国へと戻ってきていた。
彼らは暫くスウェルマーニに拠点を置き、ムトの森の探索を続けていたのだが、願った成果が出ず、肩を落としながら店主の下へ向かう。
「すまん!」
店主は緑の少年を見るや否や頭を下げた。
ネイノート達には何が何だか分からない。
困惑するネイノートに店主は続ける。
「実はな、あんたたちが出発した次の日から、別の場所で取れたムト肉が入荷したんだわ」
どうやら無駄足を踏んだらしい。ムトの生息地は数多くある。他の土地で狩られたムトが、王国に運ばれてきたのだ。
よくよく考えればたどり着く答えだったが、あの時はネイノートも冷静ではなかった。
ため息をつく一同は、店主の計らいで、ムト肉の串焼きを一本ずつ無料で貰い、齧り付きながら太陽と月の遊び場に戻るのだった。
「ネイノート、カノンカ、少し話がある」
その日の夜。夕食を終え食休みをしている時に、クロツチが真剣な顔で口を開いた。
「どうしたの?クロさん」
カノンカは机に突っ伏しながら、クロツチを見る。
椅子に座ったクロツチは姿勢を正し、こう言った。
「……ずっと悩んでいたんだが……俺、風の翼を抜けようと思うんだ」
暫しの沈黙。
カノンカは頭の中でクロツチの言葉を反芻し、漸く机を叩きながら立ち上がった。
「なんで!?」
クロツチはぽつぽつと訳を語り出す。
自分の力が足りないこと。ネイノート達の足を引っ張ってしまうこと。半端に足をかけるのならば、いっそやめる方が良いと思ったこと。
カノンカはクロツチを説得しようと懸命に言葉を投げかける。
しかしクロツチの心は既に決まっていて、首を縦には振らない。
見かねてネイノートは口を開いた。
「クロツチ。もう決めた事なんだな?」
カノンカは口を噤み、クロツチは首を縦に振る。
「分かった。申請が必要だろうし、明日一緒にギルドへ行こう」
「ちょっと!ネイ君!?」
引き留める素振りすら見せないネイノートにカノンカは声を上げた。
彼女にとっては長年連れ添った家族のような存在だ。
また長年追い続けていた冒険者でもある。
住む所は同じなれど、何か思うところがあるのだろう。
ネイノートはカノンカを宥めるように静かに伝えた。
「カノンカ。クロツチは自分の道を見つけたんだ。後俺達が出来るのは、クロツチの今後を応援するだけだ」
ぐうの音も出ず、カノンカは言葉を失う。
冒険者の道をやめ、鍛冶師の道を歩むと決めたのはクロツチだ。
それを引き留めることは彼女の我儘を押し付けているだけ。
ネイノートが弓の復権を心に決めたように、彼も散々悩んだ末に出した結論である筈。
ならば彼女も腹を括らなければならない。
落胆するカノンカに、クロツチは頭を掻きながら声をかけた。
「まぁカノンカよ。何もここを出ていくってわけじゃあないんだ。飯は一緒に食えるし、お前の武器も作ってやる。これまでだって依頼に付いて行ってなかったんだ。何も変わらないさ」
彼のいうことは概ね正しい。
クロツチの決意が固いことを確認し、カノンカも頷くしかできなかった。
翌日。彼らはパーティー申請のため、冒険者ギルドに足を運んでいた。
ギルドの中は多くの冒険者でごった返していて、カウンターにも長蛇の列が出来ている。
ネイノート等はその列に並び順番を待つ。
暫し時が経ち、ギルドの入口が騒然となった。
黄色い悲鳴、熱の入った歓声。
何事かと思ったネイノートは振り返る。
そこには金色の髪を揺らし、豪華な鎧を着た冒険者の姿があった。




