転生者
ムトの森はなかなかに広大だ。
だがそこに生息する生物で危険なものは少ない。
半分以上は野生の動物で、魔物は一握りだ。
この森で、今急激に勢力を拡大する種族があった。
『ゴブリン』である。
この魔物はある日を境に、突然種が変わったようにその生活を変化させた。
魔物とは思えない知識を使い、武器や防具を精製、使用する。
難しい戦略や緻密な作戦を使い、他の魔物をどんどん傘下に加えていった。
ゴブリンの集落はムトの森のほぼ中心に位置する。
その集落は、住む魔物の数からして、もはや村を通り越し町として通用する程に大きい。
なぜこれほどまでにゴブリンが急激に勢力を拡大したのか……
その理由はある一匹の『ホブゴブリン』の力によるものだった。
ホブゴブリンとは、ゴブリンから進化する上位種だ。
人間の子供程度しかなかった身長は、同種の大人と同じくらいになり、見た目も人間に近づく。
手足も器用に扱えるようになるため、家を作るなどの作業はかなり上達する。
魔物の進化は滅多に起こることはないが、大量の魔力を吸収したり、強者の肉を取り込んだりすることで、稀に進化することがある。殆どの魔物は進化することなく寿命を迎えるが、その中で稀に進化する個体は、選ばれた者として一族から崇拝されることが多い。
このホブゴブリンもまた希少な存在だった。
ホブゴブリンはある程度舗装された道を歩きながら、作りかけの街並みを眺める。
いやぁ、ここまで来るの長かったなぁ。
道行くゴブリンはちゃんと服を着ているし、何匹かのゴブリンはホブゴブリンとして進化もした。
街並みは人間の物を真似て作ったものだし、簡単なルールも作った。
森に住む鹿みたいな動物も飼育に成功している。
数が数だから、森からかき集めなければならなかったけども。
あと足りないのは何だろうか。パッとは思いつかないな。
あっちで死んで、ゴブリンとして生まれ変わった時はどうしようかと思ったけど、何とか生きる希望が湧いてきた。
余りにも順調な行程に足取りも軽くなる。
大通りから小さな路地に入った時。
「上機嫌だねぇ」
突然の声に俺は振り返る。目の前には変な仮面をつけた奴が立っていた。
「……何者だ?」
周囲のゴブリンは警戒しながら隊列を組み始める。教えたことが身についているようで少し嬉しい。
「おっと、俺は敵じゃないぜ?」
「信じられるか」
仮面の上からはどんな表情をしているかわからない。声の感じから男だろうか?
ローブの上からは判り辛いが、体の線は細そうだ。
仮面の男はひらひらと両手を上げて、武器を持っていないことをアピールした。
これは危険だ。
ゴブリンは最弱といっていい種族で、人間の戦い方を少し齧ったくらいじゃあ上位種には通用しない。
俺もまだホブゴブリン。普通のホブゴブリンよりは強いとは思うけど、勝てない魔物も数多くいる。
町の中だからと気を抜いて武装も殆どしていない。
もし仮面の男が俺より強い場合、今後の対応で俺の命……この町にいる魔物全員の命が危ない。
考えながらどう対応したものかと思っていた俺に、奴は爆弾発言を投下した。
「お前の秘密当ててやろうか?」
口調だけで仮面の下で笑っていると分かった。
俺は別世界からの生まれ変わりだ。
だがそのことをこれまで口にしたことはない。
判るわけがない。
張ったりだ。
その願い空しく奴は笑いながら言い放つ。
「お前転生者だろう?」
その言葉に俺の頭の中は真っ白になった。




