交わる道
火竜討伐隊が王国へ戻って数日が経った。
誰もネイノートが仕出かしたことには気づいていない。本人とカノンカは、どうせ誰も信じぬ、と話さないし、唯一の目撃者であるB級冒険者ハワーズは、本人が黙っているのには理由があるのだろう、と自重している。
だがカノンカの話は少なからず噂になった。強力な魔法を使い、竜種を圧倒する。
それは討伐隊全員が目撃していたのだから。
曰く、竜をも倒す大魔法使いだ、とか、賢者の再来だ、とか王国では一躍時の人となった。
だがそれも一過性のもので、次の活躍の噂が流れないと周りも落ち着きを取り戻し、風の翼に何時もの日々が戻ってきてくる。
火竜討伐隊の護衛という任務を達成し、ある程度まとまった金が手に入ったネイノートは、久しぶりに惰眠を貪っていた。
太陽と月の遊び場に来客を知らせる鐘が鳴った。
「あら、こんな早くに誰かしら?カノンカちゃん。出てきてくれるかしら」
朝食の準備をしながら、ノゼリエは手伝ってくれているカノンカに声をかけた。
彼女は返事をすると、階段を軽快に降りていく。
「良かったなぁカノンカ。賢者の再来!とか言われてたらしいぜ?」
「えぇ、噂だけじゃ加護無しなんて誰も思わないでしょうね」
二人は彼女のいない所で、まるで自分の事かのように喜んだ。
朝食の準備が終わるころ、カノンカが慌てて階段を上がってきた。
「クロさん!ネイ君は?」
「……」
呆気にとられるクロツチは口を開けたままカノンカを見ている。
「クロさん?」
「お、おう……まだ寝てるんじゃないか?」
クロツチの言葉を聞くと、彼女はネイノートの部屋に駆け込む。
その後ろ姿を見ながら、クロツチが呟いた。
「ネイ君て……」
「いいじゃない、ネイ君」
クロツチの呟きにノゼリエが返す。
どこか寂しい感情がこみ上げてきた彼は、内心、娘が出来たらこんな気持ちになるのかな、なんて思うのだった。
カノンカに慌ただしく起こされたネイノートは欠伸を噛み殺し階段を下りていく。
だが来訪者を見た瞬間眠気が吹き飛んだ。
そこにはC級冒険者のロンダニア・ガノーシュがいたのだ。
困惑するネイノートに向かって、彼は爽やかな笑顔で朝の挨拶をしてくる。
「おはよう。疲れは取れたか?」
「ああ、おはよう。ぼちぼちさ。それで、こんな早くに何か用か?」
ぶっきら棒なネイノートの対応にも臆さずロンダニアは話す。
「これを見てくれ」
取り出したのは一つの弓。木製であり、少し拙い造りを見ると、彼が自作した物だろうか。
まるで親に褒めて貰いたい子供のように、目を爛々と輝かせている。
「思い出しながら作ってみたんだがな、悪くはないだろう?射れなくはない。これからは俺も弓を使って行こうと思ってな……そこで話なんだが」
彼の話を聞いたネイノートは微笑むと二つ返事で了承する。
この日、風の翼に一人の弓使いが加入した。




