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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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新たな同士

 火竜が倒れ暫くして、討伐隊は今後について話し合っていた。

「目標は達成したし、後は王国へ戻って報告だけだね」

最終的な行動は言葉通りだが、話し合いは別の件で盛り上がる。

 ハワーズの話では、討伐隊で幾つかの素材を分け合い、残りを後から来る回収班が回収するという手筈になっているらしい。

話し合いの結果、カノンカの功績から、風の翼を含めた冒険者全員で公平に分配することになった。

 討伐隊は餌に群がる蟻のように、火竜の死体に群がり、鱗や爪、牙を集めていく。

全てを終えた後の火竜の死体は、何ともみすぼらしくネイノートは可哀そうに思うほどだった。


 素材を分配し終えた一行は帰りの身支度を始める。

「これで全部だね。よし、じゃあ帰ろう。まだ戦闘があるかもしれないから、気を抜きすぎないように」

釘をさすハワーズも気分が高ぶっているように見えた。

それも仕方ないことだろう。

 竜の素材なんて滅多に手に入るものではない。年に一度見かけられれば運が良い方だ。

仮に商店に並んだとしても、そ異常な価格から物理的な購入も難しい。

B級冒険者であるハワーズでさえ、これまで冒険者として活動して来て火竜の素材を触ったのは二回程しかない。


 帰りの道で討伐隊一行は、風の翼に酷く感謝することになる。

体はボロボロで、精神的にも参っているこの状態において、戦闘をほぼ確実に避けられるということは非常に有難い。

「君たちにお願いして本当によかったよ。なぁ?ロン」

 今ネイノートはハワーズ、ロンダニアと共に昼食を取っていた。

カノンカはルルムスにジェゼムと、レシュノアはブゥゲンとそれぞれ話をしている。レシュノアに至ってはではなく叱られているだけだが……


「あいつがいなけりゃもっと楽だっただろうに」

ネイノートはレシュノアにばれない様に小さくぼやいた。

彼が暴走して銃を撃たなければ、作戦通り勝つことが出来ただろう。

「彼には困ったものだね。そういえばロン。何であの貴族様のパーティーに入っているんだ?」

納得できないというハワーズの言葉に、干し肉をかじっていたロンダニアは、ぴたりと動きを止めた。

誤魔化せる空気でないことを察した彼は、大きくため息をつき説明を始める。

「……俺にはお前ほど剣の腕が無いからな。噂の貴族様に資金援助して貰おうと思ったんだよ」

そういうと傍らに置いてある、立派な剣と銃を手で撫でた。

 利用できるものは全て利用するべき……冒険者になってから度度たびたび聞く言葉だが、彼の行動はその言葉になぞった行動なのだろう。

ネイノートはそう納得したのだが、ハワーズはどうにも腑に落ちないようだ。

「ロン……いや、ロンダニア・ガノーシュよ。人間は生きてきた間に経験したこと全てが、その者の価値となるんだよ。確かに僕のほうが君より剣の腕は上だろう。でも君のように、身体を張って人を守る度胸なんてないし、商品を値切る技術だって君には敵わないのさ」

硬く焼いたパンをスープにちぎって入れながらハワーズは言う。

だがそんな言葉はロンダニアにとって慰めにすらならない。

「お前には分からんよ。ハワーズ。同期とはいえお前はB級。俺はC級だ。冒険者として名を上げ、村を復興させると誓ったが、俺の名前だけじゃそれは無理だと悟った。だからあいつに頭を下げたんだ」

長い沈黙。両者とも納得はしていないが、共に相手を説得させる術がない。


 その沈黙の中ネイノートが口を開いた。

「ロンダニア……ガノーシュ……?」

ネイノートは名前を呟いた。別に呼びかけたわけではないが、ロンダニアは呼ばれたと感じネイノートに尋ねる。

「なんだい。ネイノート君」

「お前はもしかして……ガルハンド・フェルライトという名に聞き覚えはないか?」

その名前を聞いたロンダニアは大きく目を見開く。俺の父だ、と付け加えたネイノートは干し肉を齧った。

「君は……まさか隊長の?」

驚き暫し動きを止めるロンダニアに彼は続ける。

「父さんは言っていた。弓兵団で光る才能を持つ奴がいたと。ガノーシュという村を復興するために、王国に出てきた若者だと」

ネイノートは揚々と語る父の姿を思い浮かべる。


 ネイノートは弓の復権をするにあたって、いくつかの手段を考えていた。

その中から冒険者になるという道を運よく歩くことが出来たが、それより先に一つの可能性を選んでいたのだ。

 入国する際記布(きふ)に書いた出身地である。

ガノーシュ村というのは、父から聞いた弓兵団の才能ある兵士の出身地だったのだ。

もし国の兵士から何かしらの反応が得られる程名が売れていれば、彼と共に行動するのが最善の策だ、と彼は思っていた。

だがそんな反応は、王国の兵士からも、冒険者ギルドの受付員からも得られなかった。

「力がないから金に頼る……まさかそんな腑抜けだとは思わなかったよ」

馬鹿にしたようなネイノートの言葉に、ロンダニアは反論できない。


 弓の為に人生を捧げた男。ロンダニアの中でガルハンドという男はそういう存在だった。

彼が銃との勝負に負けたとき、連合軍に属する各国の貴族は弓兵団を酷く非難した。だが彼は、その身を犠牲にすることで、弓兵団の名誉を守ったのだ。

おかげでロンダニアも冒険者として第二の人生を歩むことが出来た。


 それからはネイノートも口を閉ざす。

重い空気を次はハワーズが切り裂いた。

「なぁ……ロン、もう一度弓を握ったらどうだ?」

「本気か!?ハワーズ!」

ハワーズはスープの入った器を見ながら続ける。

「ネイノート君は何と言われようと弓を貫いているじゃあないか。君も剣を取らず、ずっと弓を握っていれば今頃……」

「あの時世にそんなこと出来る筈がないだろう!」

 ロンダニアは当時を思い出す。貴族からの誹謗中傷は、ガルハンドが全てを背負ってくれたが、市勢は関係ない。弓兵団にいたというだけで、依頼を断られ、武具屋では武器も売ってはくれない。

 数年の時を置いて、ようやく何とか稼げるようになったのだ。

辛苦しんくを思い出し顔を顰めるロンダニアに、ハワーズは笑いかける。

「時代は変わったのだ、ロンよ。そしてまだまだ変わり続ける。彼が変えていくさ」

ハワーズにつられ、ロンダニアはネイノートを見た。綺麗な緑の髪をした小さな少年を。


 ネイノートからしたら人が何を言おうと関係ない。目標は決まっていて、弓を置けばそれは一生叶わない。

只それだけだ。

だが、ロンダニアは違った。弓である必要はなかったし、冒険者である必要もない。

選択肢は多岐にわたってあったのだ。

商人になって貿易をすることも、村長の座を引き継ぎ、少しずつでも自ら村を発展させることだって出来た。

 何故それだけの道の中から、弓兵団という道を選んだのか。 

ロンダニアはかつて捨てた筈の感情を……隊長と共に引いた弓の感触を思い出す。

(あぁそうか……捨てたと思っていたはずが、捨てきれていなかったのだな……)


 憑き物が落ちたように、気分が晴れたロンダニアはスープを掻き込む。

それを見たハワーズは嬉しそうにほし肉を齧るのだった。


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