入団試験
ネイノートは森の匂いを感じた。
光が落ち着き景色が戻る。
そこは先ほどの部屋とは別の部屋だった。
木でできた椅子が何個か転がっている。
部屋の中心にいたネイノートら三人は辺りを見渡した。
「これは……転送魔法……?」
赤髪の少女が呟く。
どうやらネイノート達は転送魔法で、別の場所に送られたらしい。
窓から見える景色は街並みではなく、木々が生い茂る森のようだ。
彼らが困惑していると、後方から大きな音を立てて一人の男が入ってきた。
剣と銃を携え、立派な鎧を着こんだ壮年の男だ。
彼は足音を立てながら三人の眼前に立った。
「私は冒険者ギルドのマスター“グランド・F・バロッセア”だ」
立派な顎鬚をさすりながら彼は名乗る。
『貴族名』を持つことから、彼もどうやら貴族のようだ。
この世界の「名前」は三つの名から作られる。
一つ目は名。個人の名を現す。
二つ目は貴族名。その家系がどれだけ王と近いかを表す。
三つ目は家名。家の名を現す。
一つ目と三つ目はほぼ全ての人が持つが、家から勘当されるなどして、三つ目を持たない者もいる。
二つ目は少し特殊で、勇者が決めたルールである。
王族を「A」として、そこから近しいものを「B」「C」といくつかに分けたものだ。
使われる言葉は勇者の世界にある「ローマ字」という文字が使われている。
これで家名に詳しくない平民も、貴族名を聞くだけでその人がどの程度の身分の高さなのか、すぐに分かるようになっていた。
名乗ったグランドは、近場に転がる椅子を引き寄せ座る。
すると呆然とするネイノート達を、手招きをして同じように座らせた。
「さて……君たちは同僚になるのだし、とりあえず自己紹介からだな」
そういうとグランドは金髪の少年を指さす。
少年はガタリと音を立て立ち上がり名乗った。
「私の名は“レシュノア・C・カエンスヴェル”だ」
名前だけを言ってすぐに座る。
Cという貴族名は相当位が高く王族から二つしか離れていない。
公的立場だけで言えば、Fの貴族名を持つグランドよりも上である。
グランドは顎鬚をなでると、ふむ、とつぶやき続いて赤髪の少女を指さした。
金髪の少年、レシュノアと仲がいいことから貴族令嬢だろうか。
レシュノアと彼女が並ぶ姿は絵になる。
「私の名前は“ルルムス・ノクロス”。魔法使いです。宜しくお願いします」
丁寧に一礼をしてから座る。
彼女の名前に貴族名は入っていなかった。
ネイノートは少し気になったが、詮索するような仲ではないので頭から追いやる。
グランドは再び顎鬚をなでると、ほう、と呟き最後に緑髪の少年を指さした。
「ネイノート・フェルライトだ」
立ち上がったネイノートは、レシュノアよりも端的に終わらしすぐに座る。
名前を告げるだけの自己紹介が終了した。
誰も発言しないことを確認するとグランドが話を進めた。
「さて、君たちにはギルドに入団するために試験を受けてもらう」
すぐレシュノアが手を上げる。
「なぜ私に試験が必要なのだ?」
腕に自信があるのか、明らかに上の立場からの発言だ。
しかしギルドマスターである彼は慣れているのか飄々《ひょうひょう》と答えた。
「冒険者というのは危険な仕事でな、命を落とす場合もある。せめて自分を守れる力があるかどうか、それを確認しないことには仕事は任せられないんでな」
グランドの態度に少し苛立ったレシュノアだが、渋々といった感じで頷いた。
他に質問がないことを確認するとグランドは続ける。
「試験内容は至って簡単。この森で七日間生き延びる事。それだけだ」
森で七日間生きる。
普通の人間には容易なことではない。だがネイノートは実に簡単な試験だと拍子抜けした。
「生き延びるだけでいいんですか?」
赤髪の少女、ルルムスが質問した。
グランドの答えは肯定。
期間中に特定の魔物を倒す必要もなく、ただ七日後にこの建物に戻ってくること。それが試験の合格基準だと話す。
「では危険な森で野垂れ死にされても困るんで、こちらで監視する者を一人ずつつける」
彼がそういうと、部屋のドアが開いて男が一人、女が二人入ってきた。
レシュノアの前には男が、ルルムスとネイノートの前には女が立つ。
「監視する者たちは監視しかしない。命の危険があるときは、助けてもらう手筈にはなっているが……それ以外では当てにしないように。では解散」
そこまで言うとグランドはさっさと部屋を出て行ってしまった。
残った六人も順に部屋から出ていく。
建物の外は確かに森だった。
場所は定かではない。
建物は森の入口すぐの場所に建てられていたらしく、裏手には草原が見える。
さらに良く観察すれば、木々の間からは昼時に見た王国の姿が確認できた。
ネイノートは思わず笑ってしまいそうになる。
まさか見知らぬ地ではなく、自分の庭で入団試験をすることになろうとは、露ほどにも思っていなかったのだ。
今後について思案していると、ふと視線が気になった。
それは監視する者。ネイノートと同行する女だ。
ネイノートは聞きたいこともあったため、とりあえず自己紹介をしておく。
彼女は自身を“カノンカ・ヒュエリエ”と名乗った。
短く白い髪に黒い瞳。身長はネイノートよりも高い。
日に焼けた肌は美白とはいえず、お世辞にも綺麗とは言えない。
武装は胸当てと剣、他は動きやすそうな軽装だ。
腰を見ても見当たらないことから、どうやら銃は持っていないらしい。
「確認してもいいか?」
年下であろうネイノートの言葉を気にもせず、カノンカは質問に答えた。
その答えを聞いたネイノートは一つの答えを出す。
にやりと笑った少年は森の中を歩き出した。




