火竜との戦い3
カノンカは岩を壁にして爆風を耐えていた。
これまで聞いたことのないような音と、吹き飛ばされてしまいそうな風。
それが止むと急いで岩影から躍り出る。
周囲を見渡すと、爆発で吹き飛ばされた岩と共に、地面に伏しているネイノートを発見した。
先の爆風を真面に浴びたのか、気絶しているようだ。
助けないと。そう思った矢先、火竜の咆哮が聞こえた。
火竜もまたネイノートを見つけ走ってきている。
健気にもウィンがネイノートの前で火竜を睨みつけているが、このままいけば彼は火竜に踏みつぶされ、噛み殺されるだろう。
カノンカは急いでネイノートへ向かって走り出す。だが足場が悪いうえ、慌てた足取りは覚束なく、途中で転んでしまった。
悔しさに近くにあった石を握りしめ、立ち上がる。
(ネイノート君を助けないと!)
加護無しの彼女は蔑まれることは多々あれど、優しく接してくれる人物は数える程しかない。
クロツチとノゼリエくらいだ。
ネイノートの対応は世辞にも優しい物とは言えないだろう。だが、彼女はこれまで自分の身を挺してまで守ってもらったことは一度もなかったのだ。
今でもブラッドウルフから守ってくれた彼の背中は忘れない。
だが思いだけでは現実は何も変わらない。火竜はもはや目前にまで迫っていた。
(私にも魔法が使えれば……!)
今ほど魔法が使えない己を恨んだことはない。悔しさで手をきつく握りしめ、握った石で手が切れ血が滴る。
力なきカノンカは助けを願うだけ。
(誰か……!誰か……!)
『そんなにあの人を助けたいの?』
突然彼女の頭に声が響く。中性的なその声は酷く落ち着いている。
『力を貸してあげる。だから強く念じて……僕の後に続けて』
その優しい言葉に疑問を抱きつつも、従い詩を歌う。
『汝、全てを断ち切る無形の刃なり』
「汝、全てを守る無形の盾なり」
『精霊の力よ、我が身に宿れ』
「我が身に宿りて彼の者を打ち砕け……水の聖霊よ!」
手に握りしめた石が青い光を放つ。
それと同時にカノンカの真っ白だった髪が綺麗な青に染まった。
その光はその場にいる全ての者の注意を引き寄せる。心安らぐ綺麗な青い光。
驚愕の表情でジェゼムが叫んだ。
「第四節詠唱魔法!?そんなのD級の魔法使いが使えるわけが……!」
火竜は度重なる脅威に標的を替える。
眼前にいる少年は動いていないが、あの光は確実にこの後すぐ、自身に危害を加えるだろう。
火竜は咆哮を上げながら向きを変え、カノンカ目掛けて体当たりした。
その時、彼女の魔法が発動する。
「第四節詠唱魔法!超高圧水流撃!!」
詠唱を終えたカノンカから発せられたのは、人間界に存在する中で最高位の魔法。
超高圧で噴出される一筋の水の鞭。
自在に形を変え、波打つそれは火竜の左の翼に突き刺さり、易々と切り落とした。
竜の鱗と同じ色の血が流れ、あたり一帯を真っ赤に染める。
片翼を切り飛ばされた火竜は、水流の勢いに耐えきれず更に後方へ大きく吹き飛んだ。
水の鞭は、火竜に止めをを刺そうと体に襲い掛かる……が、先にカノンカの魔力が無くなり魔法が消え去った。
カノンカは意識を失いその場に倒れる。青い光も次第に小さくなり、髪も白色に戻ってしまった。
ハワーズは足を止めて、吹き飛んだ火竜の方を見る。言葉が出なかった。
火竜に圧倒される討伐隊を助けたのは、なんと護衛につけたE級冒険者とD級冒険者なのだ。
そもそも竜種はE級やD級でどうこうなる相手ではない。もはや彼等はその器に収まっていないということだ。
彼等を最初から起用していればもっと……今更だろう。
だが肝心の二人は、今倒れていて動けない。
(後は僕たちの仕事だ!)
「全員火竜へ!銃を撃て!魔法を浴びせろ!剣を突き立てろ!」
ハワーズの叫び声で気を取り直した討伐隊は、応と声を上げながら、火竜に駆け寄り攻撃を浴びせた。
銃を撃ち、魔法を浴びせ、鱗のはがれたところに剣を突き刺す。
最初はのたうち回り抵抗した火竜も、やがてぐったりと動かなくなった。
火竜討伐隊は、一人の死者を出すことなく火竜の討伐に成功したのだ。




