作戦
風の翼は火竜討伐隊を連れ、何度も往復した道を行く。スウェルマーニへの道は慣れたものだ。
旅は順調で、ネイノートとウィンの索敵力をハワーズはかなり高く評価した。
「本当に魔物と会わないんだな。ウィンドバードの索敵魔法がここまでだとは思わなかったよ。何回かは戦闘になると思ってたんだけどね」
スウェルマーニについた時点での消耗は、食料品程度だけで無きに等しい。戦闘回数もゼロだ。
旅の一行は町で一泊して、食料を買い込んだ後北へ向けて出発した。
スウェルマーニの北にあるガノシュトロフ山は、王国の東にある山脈が伸びたもので元は同じ山である。しかし東の山脈と違い、生息する魔物はさほど凶暴ではない。
これまでも討伐依頼等で戦ったことのある『ホワイトウルフ』や『ガイアトード』。ネイノートの弓の材料となった『シェルクラブ』も目撃されている。
この山までは、スウェルマーニと王国間の距離と大体同じで、普通に旅をする場合、王国からスウェルマーニまで七日間、スウェルマーニからガノシュトロフ山まで七日間、計十四日間の旅となる。
だが討伐隊の旅路は、ネイノートとウィンの力によって、スウェルマーニに宿泊した一日を含めても十一日間と短くなっていた。
山の中は商人ですら滅多に向かわない地域だが、なぜそんな場所に火竜がいるのか、理由は不明だ。
だがこのままではスウェルマーニを始め各都市、王国が危険に晒される。できるだけ早く対処しなければいけない。
ガノシュトロフ山に近づく頃、歩きながらハワーズが今回の作戦を説明した。
「まず僕とロンダニア、カエンスヴェル君は火竜の足を攻める。ダメージは少ないだろうけど根気よくね。その間ジェゼムとルルムスちゃんが魔法で翼を中心的に攻撃。これは飛ばせないためだね。ブゥゲンは怪我人の治療を宜しく」
それぞれが自身の役目を確認して頷く。ネイノートも指示を待ったが、彼はネイノート、カノンカには触れなかった。
大体の話を終えたハワーズにネイノートは質問を投げかける。
「俺たちはどうしたらいいんだ?」
「君たちは物陰に隠れていてくれないかな。正直言って、僕には君を使いこなせないと思うし、作戦の役にも含まれてないからね。火竜を倒した後も王国まで護衛してもらう予定だから、その時の為に力を蓄えていて欲しい」
腑に落ちないネイノートは、文句の一つでも言って参戦しようとしたが、相手はB級冒険者だ。自分が思い至らない妙手を考えているのだろう、と無理やり納得することにした。
カノンカは安心したように胸を撫で下ろすと、緊張に固めた顔を綻ばす。
何時も煩く絡んでくるレシュノアも、緊張しているのか変に静かだった。
山の麓まで来た時、ハワーズは口を開く。
「ああそれと、僕が合図するまで銃は使わないように。態々《わざわざ》相手に決め手を知らせる必要もないしね」
新調した銃を手の中で遊ぶレシュノアを見ての言葉だろうか。
レシュノアは、名残惜しそうに銃を腰に戻すと、顰めっ面を隠さずに頷いた。
彼の銃はネイノートがこれまで見ていた銃と形が違っていた。
まず銃身が三つに増えている。この銃身の数は値段と直結していて、一つより二つ、二つより三つの物のほうがより高額になる。
今の王国の技術力で可能な数は三つ。つまりレシュノアの持っている銃は、王国内でも最高級の物といえる。
彼が不安を誤魔化すには十分な品物だった。
山道では物音一つしなかった。恐らくは火竜の影響だろう。魔物や動物、虫に至るまで、全ての生物が山から逃げ出したようだ。
一応ネイノートとウィンは索敵を続けるが、そのレーダーに引っかかるものは何もない。
一同はとりあえず、山頂を目指す。
目撃証言では、山の頂で旋回する姿が見えたのだという。
静かな山道を注意深く登っていく……
山の頂。そこは草木が少なく大小の岩が向きだして転がっていた。そんな場所で一同はついにその存在を視認する。
大きな体に大きな翼。赤褐色の鱗は太陽の日を浴びて怪しく輝く。手足には鋭利な爪、大きく裂けた口からは鋭い牙も見えた。隕石が落ちたような跡が出来ており、どうやら巣をつくってしまっているようだ。
岩陰に隠れながら火竜の姿を確認した一行は、武器に手をかけ気を引き締めた。
「初撃はジェゼムとルルムスちゃんの攻撃魔法で先制攻撃を仕掛ける。僕たちはそれと同時に飛び出すぞ。後は作戦通りだ。守りを優先。決して無理はするな」
ネイノートも弓を握るが、彼に言われたことは忘れていない。歯痒いが岩場に隠れて様子を見る。
ジェゼムとルルムスが魔法の詠唱を始めたのを確認して、ハワーズとロンダニア、レシュノアは剣を抜き、足に力を込めた。
今、長き戦いが始まる。




