カルテア・シグナリスの策謀
王国に戻り護衛任務を終えた“スリズの星”一行は、その日のうちに冒険者ギルドへと足を運んだ。
冒険者ギルドのホールでは、噂の臆病者と一緒に仕事をしたカルテアに、少しでも話を聞こうと、小さな人垣が出来ている。
その中心で、大げさに身振り手振りしながら楽しそうに話す“カルテア”の姿見えた。
「あいつらには参ったものだ。魔物のいない道を選んでやがって、おかげで儲けそこなうところだったぜ」
周りの奴らは、災難だったな、とか、俺たちも気を付けよう、とか口々に賛同してくれる。いい気分だ。
冒険者というのはやはりこうでないといけない。
敵がいると知っていて逃げるだなんて論外というものだろう。
気分も良くなり更に俺の口は緩んでいく。
「それにあいつら……仕事が終わった後、挨拶も無しにそそくさと帰っちまうんだぜ?信じられるか?」
「礼儀も知らねぇとは救いようがねぇな」
全くその通りだ。あれだけ迷惑をかけられたんだ。うんと扱き下ろしてやるか。
「貴様、あの平民と一緒に依頼を受けたんだって?」
おっと、あのお方の登場だ。あのガキの話にはいつもこの人が混ざってくる。
「ああ、カエンスヴェル様!聞いてくださいよ!実は……」
何度も話したことをまた喋るのはつまらないが、最大限の演出をしてやろう。
奴等と一緒に依頼を受けたのも、この方に近づくためという理由もあったのだから。
俺が話を終えると、目の前の貴族様は腹を抱えて笑った。
「ゴブリンからも逃げるのか!こりゃあ傑作だ!」
ゴブリンて魔物は、弱いなんてものじゃない。身体能力も知能もオークより劣っている。駆け出しでも剣に少し覚えがあれば倒せるような魔物だ。
周りの冒険者もほぼ彼の色に染まっているから、まったくだ、と賛同の声しか上がらない。
「まったく災難でしたよ。今度はカエンスヴェル様のような勇敢な冒険者と共にしたいですね」
貴族なんて煽ててしまえば扱いは簡単。
内心そう思いながらの発言だったが、眼前の少年の表情を見て背筋が凍った。
心の中を覗かれたような、何でも分かっているぞ、と聞こえるような……そんな嫌らしい笑顔だ。
「……いいだろう。お前のその考えは別に嫌いじゃあない。パーティーを組んでやろうか?」
悟られないように取り繕い、願ってもいない申し出に俺は二つ返事で承諾した。
この時既に“レシュノア・C・カエンスヴェル”をリーダーとするパーティーは、ギルドの中で一番のメンバー数を誇る巨大勢力となっていた。
どの冒険者も、彼の貴族としての肩書を利用しようという捻くれ者ばかりだが、レシュノアはそのことを知っている。知っているが気にしない。
利用できるものは利用するのが賢い選択であり、それをしないのは唯の馬鹿だ。
だから彼も寄ってくる冒険者を利用する。
次に奴と会うときが楽しみだ、とレシュノアは醜く顔を歪めた。




