冒険者救出
洞窟の中は薄暗く視界が悪い。
松明のような明かりもなく、クロツチは顔を歪める。
「おいおい、こんな暗くちゃ敵が来ても反応できんぜ」
お手上げといった感じに手を上げる彼の後ろで、静止の言葉を発したカノンカが魔法の詠唱を始める。
「光よ……闇を照らせ。照光球」
初級魔法の中でも簡単な部類の周囲を照らす魔法だ。世間一般では『生活魔法』と呼ばれている。
少し魔法を齧った者なら誰でも使えるような魔法で、才能の有無なども関係ない。
光り輝く光球がカノンカの頭上に浮かぶ。
その光は炎のそれとは違く、真っ白な光だ。
「おお、流石だなカノンカ」
前方を見据えたクロツチは再び前に進みだす。
クロツチがオークの姿を発見した。数は一体。
オークもネイノート達に気付く。当たり前だろう、カノンカの頭上には光の球が煌々と光っている。
広いとも言い難い洞窟の通路で、オークは棍棒を構えて走ってきた。
上段から振り下ろされる棍棒をクロツチは槌を横に構え受け止める。
「ぐぅっ!カノンカいまだ!」
クロツチの横をすり抜けたカノンカが、動きの止まったオークに切りかかった。
ネイノートも弓を構えていたが、手を出す必要もなく戦闘は終わる。
鼻につく血の匂いに顔を顰めながら彼らは奥に進んだ。
程なくして洞窟の最奥に行きつく。
そこは少し大きめの広場になっていた。
道中は一本道で、洞窟内で見かけたオークはさっきの一体だけだ。
注意しながら周囲を見渡す彼らの視線は、広場の端で止まる。
女と男が一人ずつ。連れ去られた冒険者と思われる人間が、がたがたと震えていた。
傷だらけの鎧を着ていて、更に腕がおかしな方に曲がっているのが見える。
相当な恐怖を受けたのか、目は虚ろで焦点もあっておらず、もはや正気を保ってはいない。反応もあやふやで、会話もままならない状態だ。
隣には甚振られたのであろう、原形を留めていない肉塊が転がっていた。
もう少し早ければ……
悲しみに顔を崩す彼らを慰める者はどこにもいない。
ネイノートらはとりあえず、彼らを洞窟の外に連れ出すことにした。
洞窟から出る際も他のオークは見かけなかった。四体だけの群れだったのだろうか。それとも周囲を徘徊しているのか。今のネイノート達に確認する術はない。
太陽の下に出た冒険者は自身らが助かったことに気付き歓喜する。
頻りにネイノート、カノンカ、クロツチに感謝の言葉を連ねた。
風の翼一行は彼らを護衛しながら、野営跡地に戻るのだった。
帰る際に彼らの話を聞く。
彼等は『銀の剣』というパーティーで活動するE級冒険者らしい。
リーダーは野営地で死んでしまった“ランディ・オーガン”。
洞窟内でオークに甚振られ死んだ女が“ユニテス・パルカネア”。
そして気丈にも説明をしてくれる男“トラウス・ヤムザムド”。
黙ってトラウスの後につく女“ウィウィ・クルアンテ”。
この四人は商人の依頼により、薬草摘みの護衛についていた。
深夜にオークの襲来を受け、戦いはしたものの力及ばず現状に至るとのことだ。
トラウスは笑いながら、ネイノートらを命の恩人と称賛した。
その間もウィウィは一言も喋らない。
野営地に戻ってくると気配を感じたのか、テントの中からウィンが飛び出し、次いで少年が飛び出した。
「おかえりなさい!無事でしたか!」
少年は一行の前まで来るとメンバーを見渡す。
トラウス、ウィウィは気まずそうに歩み出ると、力及ばず、と少年に謝った。
「仕方ないです。オークなんてそうそう勝てる相手ではありませんから。貴方方は命を賭して僕を守ってくださいました。そこに感謝はすれど謝られるいわれはありません」
彼等と共にオークの巣から連れてきたユニテスの死体と、苦痛にゆがむランディの死体を弔う。
薬草摘みは切り上げとなり、風の翼、銀の剣、商人の少年はそろって王国に戻ることとなった。




