敵の影
翌朝、ネイノートは新調した弓を持って、朝食の獲物を狩りに来ていた。
一射目は目測と少しずれたが、そのあとは流石で、問題なく二匹の兎を狩る。
後は果物でいいだろう。そう思い周辺で探していると、ウィンがネイノートの肩に止まった。
肩の上で一鳴きした彼女は再び飛び立ち、ネイノートを先導するように飛んでいく。
不審に思った彼はウィンの後を追いかけた。
「これは……」
暫くして彼らは野営の跡地に辿り着いた。
テントが二つ立っていて、その中心に火を起こした形跡も見られる。
ネイノートは目の前に転がる物に息をのんだ。
上半身を覆うプレートを着た冒険者。そのプレートは胸のところが大きく凹んでいた。
何か強い力が衝突したようだ。呼吸ができずに圧迫死したのか、顔が苦痛で満ちている。
状態からみて死んで間もない様だ。
生き物の気配を感じたネイノートは、一つのテントに近づき入口を開ける。
すると中では一人の少年が震えながら座っていた。
「大丈夫か!?」
かけられた声に身体を強張らせた少年は、小さな悲鳴を上げながら自分の頭を抱える。
ネイノートは刺激しないように少年を宥めて、ウィンに声をかけた。
「ウィンよ。俺の家に行ってカノンカとクロツチを連れて来てくれないか」
それを聞いたウィンは大空に舞い上がる。
この場にいるのは危険だが、今の状態の彼を連れて移動するのも危険だ。
暫くここで様子を見ることにする。
そう決めたネイノートは少年を抱きしめ落ち着くのを待った。
少年が漸く落ち着く頃、慌てた様子でカノンカとクロツチが飛び込んできた。
「ネイノート君!」
端にいる少年とネイノートに気付いた二人が駆け寄る。
あまり広くないテントに四人は多い。とりあえず外に出ることにした。
朝食を取っていなかった風の翼一行は、その場で簡単な朝食を取る。
兎を焼こうとも思ったのだが、あの死体を作った張本人を匂いで呼ばないとも限らないので、昨日の残りの干し肉と、少しばかりの果物だ。
少年も腹を空かせていたようで、がっつくように食べていた。
腹も膨れたところで、少年の話を聞く。
「坊主、何があったんだ?あの死に方は普通じゃないぜ」
転がる死体を指してクロツチが言った。
プレートが凹むなんて相当な衝撃だ。
胸を強く圧迫され呼吸もできない。変形したプレートをはずすこともできず、地獄のような苦しみの中ゆっくりと死んでいったのだろう。
想像するだけで彼らは震え上がった。
そんな中、一番震えている少年が口を開く。
「僕は四人の護衛を付けて、魔法薬の材料になる野草を摘んでいたんです……」
彼の話はこうだ。
昨日から冒険者に護衛の依頼をして、森の中で野草を摘んでいた。
その日の夜、見張り番を交換でたてながら皆眠りについた。
異変は皆が寝静まった後に起きる。
金属音や罵声、悲鳴が鳴り響き、危険を察知した冒険者たちは外に飛び出した。
後は恐怖に怯えて震えていただけ。
いつの間にか音は過ぎ去り、日も登っていたそうだ。
近くにあった死体は一つだけ。
ならば残りの三人は一体何処へ行ったのだろうか。
ネイノートは辺りを見渡すとそれに気づく。
何かを引きずったような跡が森の奥へと延びていた。恐らく彼らが何者かに引きずられた後だろう。
「ウィン。この子と一緒にテントに隠れていてくれ」
ウィンならば敵が来ても事前に察知し、逃げることができる。
カノンカとクロツチを見たネイノートは、背中に背負った弓を構えた。
「金にはならないだろうが、人助けってのもたまにはいいか」
それに習ってクロツチとカノンカも武器を抜きネイノートの後に続く。




