弓矢の作成
冒険者という仕事は、実はそれほど稼ぐことが出来ない。
技が熟練するまでに稼いだ金は、装備や薬へと消え、C級に上がれるくらいの実力になって漸く収支がプラスになってくる。
カノンカもその例に洩れず、蓄えはほとんどなかった。クロツチに至ってはカノンカが冒険者になってから依頼についていったことがなく、武具を売って稼いでいたらしい。
そういった理由から、早くネイノートの弓を準備し依頼を受けなければならない状況だった。
ところが、王国内の武具屋に弓は売っていないし、作ったことも見た事もない物はクロツチにも作ることはできない。
そこで、ネイノートが弓をつくる様をクロツチが見学し、後に生かそうという話になった。
王国からネイノートの家まで半日。ならば1泊はしなければいけないか。
弓の復権を目指し家を飛び出した時は、目標を達成するまで帰らない、と心に決めていたネイノートだが、もう既に二回目の帰省となったのは誰にも言えなかった。
昼に出て日が落ちる前には、ネイノートの家に到着する。もはや慣れたものである。
道中は穏やかで魔物にも会わなかった。
「ほぅ……本当に住んでたんだな」
初めて山の中にある小屋を見たクロツチは、思わず口から感嘆符をもらした。
やがて日が暮れ、出歩くのが危険な時間帯となる。
弓がないため狩りが出来ず、夕食はほし肉と簡易スープだった。何時ものように、兎か狸当たりの丸焼きが食べたかったところだが、贅沢は言えない。
本当なら弓の材料集めからだったのだが幸いなことに、弓をつくる材料は家に確保してあった。
弓本体となる太くしなやか木と、矢となる硬くまっすぐな枝。鏃となる石や動物の牙に爪。矢羽はウィンの抜け落ちた綺麗な緑の羽根だ。弦は森の中にある植物の細い蔦がそのまま使えるほど相性がいい。
更に要所要所を接着するため、植物をすり潰した物を用意して準備は完了。
ネイノートは慣れた手つきで作業を始めた。
ある時は削り、ある時は火で焙り、ある時は体重をかけて弓の形を作っていく。
「ほう、うまいもんだ」
その様子を見るクロツチの眼は子供のように輝いていた。
カノンカもやはり同様にネイノートの作業を見つめている。
しばらく眺めていると、一本の木がなんとも見事な弓となった。
「鉄より難しそうだな。あっちは溶かして液状にしたら型に流すだけだからなぁ。勿論叩いたりもするけどよ」
ネイノートは出来上がった弓に弓弦として蔦をかけ、物欲しそうに見てくるクロツチに渡した。
それから彼は矢を作り出す。
削って尖らした石、爪や牙を鏃として先端に取り付ける。
それからウィンの抜け落ちた羽根を半分に割き、鏃とは反対のほうへ三つ縦に張り付けた。
その様子を遠目で見ていたクロツチが、遊んでいた弓を置いて近づいてくる。
「この羽根はなんか意味あるのか?」
「これがないと狙ったとこに飛ばないんだよ。二つじゃ安定しない。四つでも駄目だ。三つが一番いい」
ネイノートも原理までは知らないが、これまでの経験から得た知識をクロツチに教える。
やがて矢が二十本ほど出来る。出来た矢を矢筒に刺し、壁に立てかけた。
「いやぁ勉強になった!」
クロツチもカノンカも初めて見た弓矢の作成作業に満足したようだ。
ネイノートは最後の仕上げと、表面がざらざらした石で弓と矢を擦る。
この作業が意外と大事で、これを怠ると命中精度や速度がガタ落ちするのだ。
「この木は『ムルムの木』だな?」
ムルムの木とは森の表層にある真っすぐしなやかな木だ。
槍の柄なんかにも使え、鍛冶師としてもよく目にする木だが、ネイノートは名前までは知らない。
「名前は知らない。でもこれまで作った弓は全部この木からだ」
「じゃあこの弓は『ムルムの弓』ってことだな」
自分が発明したものではないので何とも言えないが、ネイノートは少しだけむず痒くなる。
「……名前をつける意味あるのか?」
この疑問にクロツチは、信じられない、といった様子で説明を始めた。
「あのな……お前が弓の復権をしたら、そこらの武器屋でも弓が売られることになるんだぞ?その時に名前が決まって無かったらどうなる。あの弓くださいーとかこの弓くださいーっていうのか?」
彼の中ではもう既に、ネイノートの弓の復権は決定事項らしい。
その後も頻りに弓と矢を弄りながら、クロツチとネイノートは夜遅くまで問答を繰り返すのだった。




