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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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問題児

 クロツチは唐突に切り出す。

「ネイノート。どうしてもパーティーに入ってくれないのか?」

「悪いけどその気はない」

少年の明らかな拒絶にも彼は気後れしない。

彼は大きく溜め息をついてこう言った。

「そうか……残念だな。折角弓を作ってやろうと思ったのに……」

茶を啜ろうとしたネイノートの動きが止まった。


 出会って間もないが、終始落ち着いた態度を取っていたネイノートの取り乱しように、クロツチは笑いをこらえるのが大変だった。

彼は、明言はしていないが、パーティーに入らないと弓は作ってやらん、といったのだ。

クロツチの意図を察したカノンカが演技に乗ってきた。

「あーあ、折角オーダーメイドの弓が手に入るのになぁ」

深くため息をついて、視線を端にずらす。

ネイノートに顔を背け、クロツチの方から見えるカノンカの顔は少し笑っている。

「……それはずるくないか」

少年は拗ねたように力なく呟いた。

「お前がパーティーに入ってくれればいいだけだ」

クロツチは少し大人げないと思ったが、使えるものは使う、というのがこの世界で生きていくコツだ。手段は選んでいられない。

「……でもそれじゃあ誰も弓を見なくなる」

カノンカにもクロツチにもその打開策は出せなかった。


「じゃあネイ君がリーダーになればいいんじゃない?」

彼女の提案に三人は揃ってノゼリエを見た。

いつの間にか食器を洗い終り戻っていたようだ。

ノゼリエは椅子に座って考えを述べる。

「弓を使うって言っても、その利点は遠距離攻撃だけじゃないでしょう?遠くから攻撃するんだからその分広い視野、戦況の分析ができるわ。それだって離れて戦う弓の利点だと思うの」

ネイノートは彼女の話に同意する。

 ブラッドウルフの時でもそうだが、前衛として敵と対峙する戦士は、基本的には眼前、またはその周囲しか見ることが出来ない。

それに対し弓を使う彼なら、それよりも離れた位置から大きく戦況を捉えることができる。

「最初はリーダーが弓だって馬鹿にされるかもしれないけど、功績を残していったら、腕の立つ冒険者は何かに気付くんじゃないかしら」

全く話に入ってこなかったノゼリエが、的を射たような意見を述べたことに三人とも驚いた。


 ネイノートは考える。

そもそも彼は、駄目元で冒険者になろうとしたのだ。冒険者になれた現在、なれなかった場合に比べ、目標への道は大幅に短縮されたといってもいい。

 パーティーを組むという選択肢はデメリットと共に、メリットも確かに存在する。

高難度の依頼は受けやすくなるだろう。

より上位の魔物を討伐すれば名も売れるというものだ。

 更には目撃者が得られるという利点もある。

一人で行動した場合、彼が強敵を狩ったといっても誰も信じない。

その時同行者がいれば、話を聞いたとき信じなくても真実の選択肢が現れる。

 何よりネイノートを揺り動かすのは、弓を作ってくれるということだ。

森の中では必要なかったが、弓を使っていて、ここはこうだったら……という願望は彼にも少なくない。

だが彼には鉄を打つこともできなければ、魔物の素材を加工する技術もない。

ところがここに、彼の案を創作してくれる人がいるのだ。

 

 ネイノートは悶々と考えるが、茶が冷める頃漸く一つの答えを出す。

「仕方ない……そこまで言うならパーティーに入ろう」

「やったー!」

カノンカが両手を上げて椅子から立ち上がる。

ノゼリエは微笑みながらカノンカとハイタッチをした。

クロツチは密かにガッツポーズをする。

何がそこまで嬉しいのか、と思いながらも、それを眺めるネイノートは同時に、こんなのも悪くはないかな、と思うのだった。


「しかし、俺が入ることでパーティーの人気は地に落ちることになるだろうが、いいのか?」

ネイノートは最後の問題を口に出す。

彼としてはここまで話が詰まったのに白紙に戻されても困るのだが、後々気付かれるよりは今触れておかないといけない。

彼の言葉を聞いた三人は顔を見合わせた後、バツが悪そうに笑う。

「その点は心配いらねぇぜ」

「私たちもう嫌われ者だもんねー」

笑いながら言うことではないだろう言葉だ。しかめっ面をするネイノートにカノンカが問いかける。

「私達もはぶられ者ってこと。……ねぇ、ネイノート君は『加護』って知ってる?」

横に首を振るネイノートに彼女は説明を始めた。


 加護とは生まれる時に精霊から授かる不思議な力の事だ。

この世界に生まれる生命は、多かれ少なかれ精霊の力を浴びる。

その浴びる力の強弱により、幾つかの属性の加護が授けられるのだ。

それを持つ者は、同じ属性に耐性があったり、より高難度の魔法が使えたりするようになる。

しかし授かる数には個人差があり、1つしか持たない者もいれば4つ持つ者もいて、数多く加護を授かる人ほど精霊に愛されているとされている。


「その加護っていうのは髪の色や瞳の色である程度分かるものなの。ネイノート君は綺麗な緑色だから風属性の加護。クロさんは黒色だから闇属性、ノゼさんは青色だから水属性って感じね」

カノンカの言葉を聞きながらネイノートは順にそれぞれの髪を見る。

 彼が最後に見たのはカノンカの髪だ。

彼女の髪は真っ白である。

ネイノートの視線に気づいたカノンカは苦笑いした。

「気付いた?私の髪真っ白でしょ?これはね加護を貰えない人がなるんだって」

彼女は自身の髪を弄りながら話を続ける。

「私には姉さんがいたんだけど、姉さんは加護を4つ持ってたんだ。魔法使いとしても一流で自慢の姉さんだった。けど私は『加護無し』……それで家追い出されちゃったんだ」

 昔を懐かしむようにカノンカは目を細めた。

続けて、家名は勝手に使ってるんだけどねぇ、と笑う。


「俺のはもっと単純だな」

次はクロツチが口を開く。

「この国……いやこの大陸じゃあ『鍛冶師は作るだけ!』ってぇ感じでな。俺みたいな冒険者とか武器を握る鍛冶師は嫌われるんだわ。そんなことやってる暇あるなら腕磨けーってな」

これまでの事を思い出しているのか、うんざりといった感じに手をひらひらと振る。

「使ってみないことには使い方も使い勝手も分からんだろ?俺は実際使ってみて、使ってるところをこの目で見て、改良を重ねるのが正しいと思ってるんだよ」

クロツチは目をつむり、腕を組んで頷く。

 彼の意見には一理あるとネイノートも思う。

今更戦争時に流行っていた威力重視の弓を渡されてもネイノートには困る代物だ。

何やら彼もネイノートと同様に妥協できない物があるらしい。


「私はそういうことないけど、この子たちが頑張る手助けをしているの」

いつの間にか茶のお代わりを持ってきたノゼリエは、各々の前にコップを置きながら言った。

 どうやらネイノートが心配していたことは杞憂だったらしい。

すでに彼がパーティーに加入する以前から、一般では問題児とされる集まりだったようだ。

 当面の憂いが大方解決できたことで、彼らは苦い茶で新パーティーの結成を祝って乾杯をしたのだった。


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