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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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夕食

 『遊び場』に暮らす人たちとの顔合わせも済み、ネイノートはカノンカに案内されて二階に上る。

階段を上るとそこは広い居間が広がっていた。

大きな机と幾つかの椅子が置いてある。

右手には調理場があり、ノゼリエが忙しなく動いていた。

 森で暮らしていたネイノートには、二階のこの場でどうやって水を使っているのか分からなかったが、国に入ってから未知の技術を数多く見た彼は、そういうものだ、と割り切る。

「ノゼさん、お疲れ様です」

カノンカはノゼリエに労りの言葉を投げかけ、居間を通り過ぎた。


 階段とは対角線の、丁度真ん中には奥へ続く通路が伸びていて、その通路は左右に戸が二つずつ付いている。

その一つの戸の前でカノンカが立ち止まった。

「ここがネイノート君の部屋ね。向かいが私、隣がクロさん、そして斜め向かいがノゼさんの部屋よ」

彼女は順に戸を指さして説明をしていく。

どうやら左側と右側で、男と女に分かれているようだった。

この位置は丁度クロツチの工房の真上にあたる。

「もう少ししたらご飯もできると思うから、それまで部屋でゆっくりしてたらいいよ」

そう促されネイノートは自室に入った。


 部屋は簡素ながらも生活に困ることのないように色々揃えてあった。

寝台に小さな机と椅子。物が少し置ける棚。

小さな袋に入るくらいしか荷物を持って来なかったネイノートにとって、それは十分なものだった。

 厠と風呂は共同で先程の通路を行った先にある。

風呂は時間制らしく、順番で回ってくるらしい。

 荷物を置き寝台に横になると、先日の戦闘で疲れ切った体に睡魔が襲ってきた。


 気持ちよく微睡まどろむ中、彼は父との思い出を夢見た。

優しき父は大きな手でネイノートの頭をガシガシと撫でる。

温かいその手で撫でられるだけで、少年の心は満たされた。

 彼は父のことが大好きだった。

物心つく頃には母がいなかったせいか、その愛情は同世代の子らよりも強い。

夢の中で彼は父を呼ぶ。

懐かしき記憶。もう戻れないあの時にむかって。

「父さん……父さん!俺は……!」

それを受けて夢の中の父がネイノートを呼ぶ。

その時、彼は揺れを感じ、現実に引き戻されることになった。


 「ネイノート君。ご飯できたよ」

目を覚ました彼は伸びをして寝台から降り、欠伸を一つした後部屋から出る。

居間にはすでにクロツチとノゼリエが座っていた。

机の上には幾つかの皿が置いてあり、いい匂いを漂わせている。

「あら、ネイ君おはよう。ネイ君もお寝坊さんね」

笑顔でノゼリエは、ネイノートに座るように促す。

 彼が席に座るとノゼリエは続けて口を開いた。

「今日は新しい家族が増えました!ネイノート・フェルライト君です!拍手ー」

ノゼリエとカノンカはぱちぱちと手を叩く。

クロツチは手こそ叩かなかったが、顔は笑っていた。

「さてさて今日のご飯はシチューです。いっぱいあるからお代わりしてねー」

言い終わると後は皆で食べるだけだ。

 その夕食は、日頃丸焼きにするだけの大雑把な物を食べるネイノートにとって、衝撃の一言だった。

野菜や肉がゴロゴロと入っていて、軟らかく煮こまれた真っ白いシチューと、ほんのりと温かく少し硬いパン。

ネイノートは皆を真似て、パンをシチューにつけて柔らかくしてから口に運ぶと、思わず破顔した。

その様子をこっそりと見ていた他の三人も、彼の顔に一安心して微笑む。


 ネイノートは無我夢中で貪るように食べ続ける。シチューのお代わりを三回、パンのお代わりを二回したところで、漸く満足した。

試験中にカノンカと二人で夕食を取っていたが、それとは比べ物にならない楽しい時間だった。

今回の食事はネイノートの望んだ食事風景に限りなく近く、その景色も楽しむ。

ふと、幼き頃の父との食事を思い出していた。


 夕食が終わると皆で茶をすすりながら雑談をする。いわゆる食休みだが、太陽と月の遊び場では、特別な用事がない限り、この時間まで皆と共に過ごすことになっていた。

 専ら話すのはネイノートを除く三人である。

とはいっても、ネイノートもちゃんと会話を聞いているし、話しかけられればちゃんと会話をする。

自分から話しかけることをしないだけだ。

 好きな食べ物は?とか、好きな色は?とか無難な話をしていたが、会話のネタが尽きたのか暫くして静寂が訪れる。先の喧騒が嘘のように静まり、誰かが茶を啜る音だけが聞こえた。


 しんとした空気の中カノンカが唐突に切り出す。

「ネイノート君。話があるの」

彼女は真剣な表情でネイノートを見るのだった。

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