太陽と月の遊び場
王国の中は、王城を中心に木の年輪のように区画整理されていて、それぞれの区画には特色がある。
草原の小高い丘に円形に作られたこの国は、中心に国王が居住する城があり、その周囲を、貴族がすむ『富裕区』、高級な装飾や食に関する店が立ち並ぶ『第一商業区』がぐるりと囲んでいる。
そして冒険者ギルドがある区画は、手ごろな値段の武器や防具、薬といった類の店が多く集まる『第二商業区』に分類され、一番外側に民家や宿泊施設が多く集まる『居住区』がある。
王城へ向かう道は緩やかな登り坂となっていて、国の民は日々城を見上げながら生活をしていた。
なお、第一商業区と第二商業区の間には、兵の詰め所が設けられ、防犯の為通行には審査が必要となる。
この区画の名称は、王国の上層部でも使う正式なものではあるが、それぞれの区画内でも等級があり、例えば第一商業区の中でも値段が手ごろな店はあるし、第二商業区の中でも目が飛び出すほど高額品を取り扱う店もある。
ギルドを飛び出したネイノートは目の前の大通りを下っていく。
その道は彼が入国した際に上ってきた道であり、宿泊施設が多く立ち並ぶ居住区に繋がっていた。
背後を見たところ誰かが追ってくるようなことはない様だ。
肩にはいまだにウィンがとまっているが、冒険者ではない一般人には魔物かどうか見分けがつかないようで、大騒ぎになることはない。
せいぜい指を指されて笑われるくらいである。
彼はとりあえず宿を探すことにした。何をするにしても、拠点となる場所を構えなければ先に進めない。
売っているか、金が足りるかはわからないが、壊れてしまった弓もまた準備しなければならない。
ネイノートにとっては作ることができないでもないが、森の中とは勝手が違うし、時間と手間もかかる。
いかに常識を知らない彼といえども、手ぶらで討伐依頼を受けたり、森で収集依頼を受けるような常識は持っていない。
「ネイノート君はもう宿とってあるの?」
背後からカノンカが声をかけた。
ネイノートは否定し坂道を下る。
「私いいところ知ってるよ」
カノンカは朗らかに笑いながら、手招きをして小さな路地に入った。
ネイノートには、彼女を無視して宿を探す選択肢もあったが……
知人の紹介からいくらか便宜を図ってくれるかもしれない。
そんな打算的な考えで、ネイノートは彼女を追うことにした。
幾つかの角を曲がり、カノンカは漸く立ち止まる。
同じように止まったネイノートは、眼前にある建物を眺めた。
二階立てだろうか。
外装を見た感じでは相当古く、色あせた看板がかけてある。
『太陽と月の遊び場』
大きな看板には、太陽と月の絵と共に、大きな字でそう書かれていた。
辺りは真っ暗だが、煌々と光る建物の中を窓から覗くと、一階は店になっているようだ。
カノンカはネイノートが隣にいることを確認すると、戸を開けて中に入っていく。
ネイノートは肩に止まるウィンを見た。
彼の意志を汲んだウィンは暗闇の空に飛び立っていく。
空を見上げていた彼は、ウィンの姿が見えなくなるとカノンカの後に続いた。
戸に備えついた鐘が来客を知らせる。