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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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貴族の力

 ギルドの一室につくとネイノートは、グランドに襟首をつかまれ、放り出されるように部屋から連れ出された。

「私は嘘つきが大嫌いだ。嘘は卑怯者が吐く物だからな。レシュノアがお前のことを臆病者とのたまっていたが、案外本当かもしれんなぁ」

先のやり取りでネイノートの評価は相当下がったらしい。

それでも彼がすんなりとギルドメンバーになれたことを鑑みれば、やることをやればちゃんとした見返りはあるようだ。

 ネイノートは反論しようとも思ったが、どうせ水掛け論になるだけだと口をつぐむ。

職員と共に二階の奥に消えたグランドを尻目に、ネイノートとウィン、そしてカノンカは階段を下りて一階に向かった。


 ネイノートが階段を下り始めたころ、ホールは騒然となった。

人垣ができていて、その中心には見覚えのある一行が見える。

レシュノアたちだ。

ネイノートは先程グランドが言っていたのを思い出した。

どうやら何か色々と辺りに吹聴ふいちょうしたらしい。

周囲にいる冒険者の顔を見るに、ネイノートにとって良いことではなさそうだ。


 人垣をかき分け、レシュノアがネイノートの前に出てきた。

「よお、よく生きてたな」

「おかげさまで」

「どうせ逃げ出してきたんだろう?臆病者だもんなぁ」

ニタニタと嫌な笑いを浮かべ絡んでくる。

すぐそばにはルルムスと監視する者もいた。

 突然、ネイノートの右手にいる冒険者が大きな声で叫んだ。

「おいおい!こいつはウィンドバードか!?」

 滅多に会えない緑の鳥は、一部では幸運の鳥と呼ばれる。

また一方では、すぐに逃げることから臆病者の代名詞にもなっていた。

 周囲は驚いていたが、ギルドマスターと一緒に帰ってきたことを知っているため、すぐに落ち着く。

「ははっ!やっぱりお前は臆病者だったんだなぁ!お似合いだ!」

レシュノアは腹を抱えて大笑いした。

つられてあたりからも嘲笑する声が聞こえる。

 どうやら近場にいる冒険者は、軒並みレシュノアの取り巻きに成り下がったらしい。

ネイノートは完全に孤立していた。

「あら臆病者はどっちかしら?」

唐突に背後から声が聞こえた。

カノンカだ。

彼女はネイノートが知らない処、彼等がカノンカを置いて逃げていったことを暗に伝えている。

鋭くレシュノアを睨むと、案の定レシュノアとルルムスは怯んだ。

「さ、行きましょう。ネイノート君」

その隙をついてカノンカは、ネイノートを連れてそそくさと人垣を抜け、ギルドから外に出ていく。

後に残るのは悔しそうに歯噛みするレシュノアとその取り巻きだった。



 レシュノアとルルムスは、無事冒険者になれた事を祝って、ギルド内の飯屋で祝杯を挙げていた。

大して美味しくはない酒とはいえ、程よく酔いが回ったレシュノアは、先ほどの事を思い出す。

「あの女め……この私に恥をかかせやがって!」

酒の入ったグラスをテーブルに叩きつける。

相当音が大きかったらしく、辺りの冒険者が怪訝そうにレシュノアとルルムスを見た。

「まぁまぁ、とりあえず冒険者になれたんだし、少しの間だけでも嫌なことは忘れようよ」

ルルムスはレシュノアをなだめながらちびちびと酒を飲む。

それもそうだ、とレシュノアもグラスの酒を一気に飲み干した。


 暫く二人で料理と酒を楽しんでいると、四人の冒険者がレシュノアの前に現れた。

「カエンスヴェル様、お待たせしました」

四人の中からヤーチェが前に出てきてレシュノアを呼ぶ。

彼女の後ろには三人の冒険者が並んでいた。

彼等はヤーチェのパーティーメンバーだ。

 ヤーチェの中でレシュノアは、ブラッドウルフに立ち向かい自分らを逃がしてくれた、という命の恩人になっていた。

彼女はそのことをパーティーメンバーに話し、パーティーの中でレシュノアとルルムスを勧誘しようという意見にまとまったのだ。

ただこの時、パーティーのリーダーには別の思惑があったのだが、それを知る者はいない。


 ヤーチェはパーティーの中で斥候せっこうの役割を持つ。リーダーは青い短髪の、剣と盾を持つ男だ。

“ロンダニア・ガノーシュ”と名乗った彼と、彼のパーティーは冒険者ギルド内でもかなり有名だ。

 『蒼嵐そうらんの盾』と名付けられたパーティーは、それぞれが高難度依頼を達成してきた熟練者の集まりである。

その中でもパーティーのリーダーであるロンダニアは、数少ないC級冒険者であり、他の冒険者の憧れになっている。

そんな彼がパーティーメンバーと共に頭を下げたのだ。

 本来なら冒険者として先輩にあたる彼らが、駆け出しのレシュノアに向かって頭を下げることはない。いれてやろうか?と上から聞くのが普通である。

しかし彼らは、レシュノアの冒険者としての器になのか、それともカエンスヴェル家になのかは分からないが、頭を下げてへりくだることにしたらしい。


その通常ではありえない様をみて、酒に酔ったレシュノアは酷く気を良くし、口角は吊り上げるのだった。


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